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健康課題への取り組み・対策

ロコモ対策を考える

ロコモ対策を考える

左から、パナソニック健康保険組合産業保健センター健康管理センター健康パナソニック推進部事業推進課ヘルスケアトレーナーの村上彰善さん、加美綾子さん、同課健康運動指導士の菊地梓さん

パナソニック健康保険組合のロコモ予防対策

転倒・筋力低下を予防する効果的なエクササイズを開発

健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針の改正(2023年9月)を踏まえ、厚生労働省は後期高齢者支援金の加算・減算制度の見直しとして、2025年度以降の総合評価指標(減算指標)に「ロコモティブシンドローム対策」の項目を新たに追加する方針であり、健保組合の事業としてロコモ予防対策の重要性が高まってきている。

そこで健保組合として転倒・ロコモ予防対策に取り組むパナソニック健康保険組合産業保健センターの健康管理センター健康パナソニック推進部事業推進課ヘルスケアトレーナーの加美綾子さん、村上彰善さん、同課健康運動指導士の菊地梓さんに、独自に開発し推進している職場体操「健康パナソニックエクササイズ」の取り組みについて、その狙いや効果、今後の課題等について話を聞いた。

行動災害のうち転倒の増加が課題に

パナソニック健康保険組合 ヘルスケアトレーナー 加美綾子さん
パナソニック健康保険組合
ヘルスケアトレーナー
加美 綾子 さん

加美さん ▶

パナソニックグループ企業が加盟するパナソニック健康保険組合は、現役被保険者13.7万人、被扶養者12.6万人、適用事業所162カ所(2024年4月1日現在)の健康管理・健康づくりを担っています。健保組合の下に設置された健康管理センターにおいて、各事業所の健康管理室(152カ所)を統括するとともに、「健康パナソニック」活動の推進や、従業員、退職者、家族の健康づくりを進めています。

菊地さん ▶

「健康パナソニック」活動は、会社、労働組合、健保組合が三位一体で連携しながら健康づくりの取り組みを進めているものです。2000年度からの「健康日本21」に呼応する形で、2001年度に「健康松下21」がスタートし、禁煙対策、生活習慣病対策、メンタルヘルス対策といった各種対策を推進してきましたが、少しずつ取り組みを積み重ねていく中で、徐々に健康づくりを従業員本人が自分ごととして捉え、実践していくための支援、環境づくりの活動にシフトしてきています。今年4月からスタートした2024〜2029年度の「健康パナソニック」活動では、「健康への自己投資」「自然に健康になれる環境づくり」を推進することとしています。

加美さん ▶

「健康パナソニック」活動の中で転倒・ロコモ予防対策は、従業員の高年齢化に伴う健康障害の防止、業務パフォーマンス向上のための取り組みと位置づけられます。

パナソニックグループにおいては、労働者の職場における作業行動を起因とする行動災害の中でも、特に転倒が増えていることが課題として挙がっていました。最近では、コロナ禍も収束し出勤が増えている中で、転倒災害が増えつつあると認識しています。転倒災害の状況を分析すると、どの年齢層、どの職種でも発生しており、転倒災害が従業員全体に共通した課題となっていることが分かってきました。

村上さん ▶

そうした中で、これまで各職場・事業所ごとに疲労回復やリフレッシュを目的とした職場体操を作り、実施していたのですが、幅広い年齢層、職種で転倒が起きているという状況から、しっかりと転倒を防止できるような共通の体操を開発し、普及していくことの必要性を認識しました。

8つの動きで体を「鍛える」体操に

加美さん ▶

効果的な転倒・ロコモ予防対策を検討するためには、まずは従業員の体力を把握する必要がありました。このため、「筋力(握力測定)」「脚筋力(椅子立ち上がり)」「歩行能力(2ステップテスト)」「平衡性(閉眼片足立ち)」「敏捷(びんしょう)性(座位ステッピング)」の5種目の体力チェックを開発しました。

パナソニック健康保険組合 ヘルスケアトレーナー 村上彰善さん
パナソニック健康保険組合
ヘルスケアトレーナー
村上 彰善 さん

村上さん ▶

従来実施してきた運動機能検査の項目と比べると、全身持久性、柔軟性について測定項目がないことは承知していますが、事業所において特別な機器を使わずに、より簡単に短時間で安全に実施していただける内容としました。

菊地さん ▶

体力チェックの結果と問診を組み合わせて、からだ年齢、転倒危険度(1年以内の転倒リスク)を表示することで、従業員自身の体力変化の気づきにつながっていると思います。

加美さん ▶

体力チェックのデータを解析すると、高年齢化による体力・筋力の低下が一因とみられる行動災害が増えていることが分かりました。「握力が低い」「脚筋力が低い」「職場体操をしていない」「よく躓(つまず)く」人は、転倒によるケガの発生率が高くなっているという傾向が見えてきたのです。データを踏まえ、これら危険因子をターゲットとした、効果的な転倒災害対策として、体力チェックの実施推奨、筋力向上を目的とした職場体操の開発(健康パナソニックエクササイズ)、躓かない歩き方の推進(ウォーキング、セルフエクササイズ)、また、座りすぎ防止対策支援といった取り組みを実施していくことになりました。

村上さん ▶

職場体操について、ラジオ体操を実施している場合や、事業所によって行う業務・作業も異なるため、独自の体操を作っている場合もあり、実施状況はさまざまでした。そうした中で、パナソニックグループ全社として行動災害、転倒防止に取り組むという方向性が示され、ロコモ予防対策、筋力向上に着目した体操として「健康パナソニックエクササイズ」を開発し、推進していくことになりました。

加美さん ▶

「健康パナソニックエクササイズ」は、転倒防止のために、筋力低下を予防し、元気に働ける体力をつけることを目標にしています。疲労回復、リラックスを目的とした運動に、「鍛える」という要素を加えたものです。筋力、可動域、バランス、敏捷性といった主体条件(作業能力)を向上・改善できる体操としています。

パナソニック健康保険組合 健康運動指導士 菊地梓さん
パナソニック健康保険組合
健康運動指導士
菊地 梓 さん

菊地さん ▶

筋トレを中心に、①肩と踵の上げ下げ、②胸開き・腕回し・屈伸、③スクワット・上肢のアイソメトリック運動、④ひねりから突き出し、⑤足踏み、⑥足踏みから静止バランス、⑦足踏みから動的バランスキック、⑧背伸びという8つの動きで構成しています。音楽も工夫し、時間はラジオ体操よりも短く、「2分15秒」の中で効果的な体操を盛り込んでいます。週5日、1日2回の実施を推奨しています。

村上さん ▶

実施した従業員の皆さんからは、運動の内容が難しいという声もありました。巧緻性も意識していて、難しい動きもしっかりとできるようになるような内容にしています。自分の能力よりも少し上の体操を毎日続けていくことで、それができるようになる、自分が変わっていくのを感じることができるということは、まさにわれわれの意図するところでもあります。

加美さん ▶

「健康パナソニックエクササイズ」の推進に当たっては、モデル実施の後、先行事業所で導入し、検証した上で、全社展開することになりました。2020年の全社展開に当たっては、全社対象で会社・健保組合による合同説明会を実施した後に、健保組合による各事業所でのスタッフ研修を実施しました。スタッフ研修を受けた皆さんに担当者・推進リーダーとして取り組んでいただいています。

導入後の体力・転倒への効果の評価が課題に

加美さん ▶

「健康パナソニックエクササイズ」の効果としては、体力チェックの結果から平衡性、敏捷性、歩行能力については向上がみられました。握力の向上は残念ながら認められませんでしたが、導入後のフォローアップで、改めて運動の仕方や、意識して欲しいところをお伝えしています。また、先行導入事業所の分析結果では、行動災害も2年間で3分の1に減少しており、導入事業所では体力の向上、行動災害の防止につながったのではないかと考えています。

菊地さん ▶

新型コロナの感染拡大時には、職場での体操ができないということがあり、オンラインでの実施に取り組みました。その際、仕事以外の雑談で少しコミュニケーションを取った後で体操を実施するという形にしました。体力の向上だけでなく、職場コミュニケーションの活性化にもつながったと思います。

加美さん ▶

「健康パナソニックエクササイズ」の課題としては、2023年度の導入済事業所が55.4%と、全事業所での導入までは至っていないことがあります。「健康パナソニック」活動における目標の中にも、2023年度末でエクササイズ実施100%が設定されていましたが、残念ながらこれを達成できていません。コロナ禍で導入が中断してしまったこと、育成した担当者・推進リーダーの異動といったこともありますが、もともと若い従業員が多く、転倒が少ない事業所では、転倒・ロコモ予防対策としてのエクササイズにあまりニーズを感じられていないこともあったのだと思います。営業部門でも職場体操という取り組みは導入しにくい面があるようです。

また、導入後の体力・転倒に関わる効果の評価確認が十分にできていないことも課題です。導入事業所における体力チェックの実施は3割程度にとどまり、全社ベースで導入による効果の評価ができていません。実施の判断は事業所ごとになっていますが、「健康パナソニックエクササイズ」と体力チェックをセットで実施していただくようお願いしているところです。データに基づく転倒災害の発生防止との因果関係の分析は、今後の課題といえます。

従業員が健康で明るく元気に働ける環境づくりを

加美さん ▶

今後、「健康パナソニックエクササイズ」をさらに推進していくため、導入フォローとして実際に導入されている事業所の実施状況の聞き取りや、効果をデータで評価するための体力チェックとのセット実施、転倒災害の状況の把握が重要と考えています。また、転倒・ロコモ予防対策にあまりニーズがなかった事業所もある中で、今年1月に示された「健康づくりのための身体活動・運動ガイドライン2023」や、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」といった切り口で、「健康パナソニックエクササイズ」を推進していくことも大切だと考えています。

菊地さん ▶

「健康パナソニックエクササイズ」や体力チェックを契機に、自分の体力を認識して、会社での職場体操だけでなく、自宅や、ちょっとした隙間時間でも、スクワットだけでもやってみよう、体を動かす時間を増やしてみようという従業員が増えていくと良いと思っています。

村上さん ▶

「健康パナソニックエクササイズ」の実施は、定期的、日常的な運動習慣になるので、自然に運動できる機会、環境づくりの1つにもなっていると思います。

運動は、従業員の皆さんにとってハードルが高いものかもしれませんが、運動によって従業員が健康で明るく元気に働けるような環境を作っていくことが、今後の課題になっているのではないかと思います。運動に触れる機会を増やし、1人でなく皆で楽しく継続すること、また、食事や睡眠といった他の施策との連携も重要です。そうしたことも含めて、今後の施策展開も柔軟に考えていきたいと思っています。

加美さん ▶

転倒災害防止の視点で開発した「健康パナソニックエクササイズ」ですが、今後のロコモ予防や高年齢化対策に活用していくことができると考えています。

健保組合の取り組みとしては国内の被保険者が対象ですが、パナソニックグループには海外にも拠点があります。会社としては海外拠点での対策も必要であり海外拠点向けに、体操の内容はそのままで、吹き替え版を制作しました。逆輸入ではありませんが、海外拠点で実績が上がれば、国内でも、という流れで、さらなる推進につながることを期待しています。

健保組合としては、もちろん医療費の適正化という観点もありますが、やはり現役世代のうちに体力づくりを行い、食事・睡眠と合わせて適正な生活習慣を身につけることで、退職された後も、いつまでも元気で過ごしていただくということを一番に願っています。

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