健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
株式会社イトーキ
働きながら健康になる環境づくりを基盤に推進する健康経営
快適で健康なオフィス環境づくりに関わる製品・サービスを提供する株式会社イトーキ。仕事にも健康にも良い効果を与える行動「Workcise(ワークサイズ)」を日常の働き方に取り入れて従業員の健康を促進するなど、独自の発想で健康施策を展開している。オフィス家具業界では唯一、2017年から3年連続で健康経営優良法人(ホワイト500)に認定された。同社の健康経営の取り組みについて、イトーキ人事統括部部長・平尾信幸さん、同ソリューション開発部・髙原良さん、同人事統括部安全衛生管理室長・岩下真理さん、同広報IR部広報IR室・大竹裕一さん、イトーキ健康保険組合常務理事・阪口嘉雄さんに話を聞いた。
【株式会社イトーキ】
設 立:1950年4月20日
本 社:東京都中央区日本橋2-5-1
代表取締役社長:平井 嘉朗
従業員数:2,007人(2018年12月末現在)
──健康経営推進の背景と体制
株式会社イトーキ人事統括部部長
平尾 信幸 さん
平尾さん ▶
健康は全ての活動のベースになりますが、日本のワーカーは人生の大部分をオフィスで過ごしています。オフィス環境事業を中核とする当社は、〝働きながら健康になれる〟ことが、今後お客様のニーズとして高まると考えています。こうした中で、さまざまなオフィスに関連したサービスを提供する私たち自身が働きながら健康になることができていなければ、お客様に自信を持って提案することはできません。
そこで、これまで取り組んできた従業員の健康に関する活動を加速させるため、2017年2月に健康経営宣言を行い、平井嘉朗社長を委員長、牧野健司取締役常務執行役員を副委員長とする健康経営推進委員会を立ち上げました。委員会のメンバーは、会社(人事、総務、ソリューション開発、広報、健康管理室、安全衛生など)、健保組合、労働組合で構成され、全社的に従業員が健康でいきいきと働ける環境づくりと健康づくりを推進しています。
株式会社イトーキ人事統括部安全衛生管理室長
岩下 真理 さん
岩下さん ▶
健康経営推進委員会は全体会議を3カ月に1回開催するほか、「カラダ」「ココロ」「環境」をテーマに分科会を設置し、ほぼ月1回開催しています。また、同委員会から定期的に会社の健康施策や健康情報などを発信しています。
阪口さん ▶
従業員が健康になることは、健保組合にとっても会社にとっても共通のテーマです。健保組合独自の保健事業もありますが、全てにおいて会社と一緒に取り組まないとなかなか進みませんので、従来から会社と健保組合は連携を図っています。
──働きながら健康になれる環境づくり
株式会社イトーキ広報IR部広報IR室
大竹 裕一 さん
大竹さん ▶
イトーキの健康経営の取り組みの特徴は、働きながら健康になれる仕組み・仕掛けをいろいろな形で自社のオフィスに取り入れている点です。2018年に東京エリアの4拠点を新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」に集約しましたが、従業員がより健康的に働ける空間とするために、より良い住環境の創造を目指した評価システム「Well Building StandardTM(WELL認証)」の審査を受け、ゴールドクラスの予備認証を達成しました。空気、水、食物、光、フィットネス、快適性、こころの7つの概念と評価項目で構成されており、実際にとても快適に働くことができるオフィスになっています。
岩下さん ▶
その成果の1つとして、ITOKI TOKYO XORKに移転後、インフルエンザの発症率が約2割減少しました。環境測定で、以前のオフィスは冬になると湿度が20%台になる日もありましたが、現在のオフィスは常に40%超に保たれています。環境整備の重要性を実感しました。
大竹さん ▶
また、オフィス内には健康的に働くための仕掛けが施されており、例えば、3フロアの真ん中に階段を設置して階段利用を促進することで、歩くこととコミュニケーションの機会を増やすことにつなげています。
株式会社イトーキソリューション開発部
髙原 良 さん
髙原さん ▶
働きながらどんどん健康になることができないか、ということを研究しながら、健康経営や新しい働き方へのチャレンジを続けています。2010年頃から「座りっぱなしは体に悪い」とする論文が公衆衛生分野で出てくるようになり、長く座り続けられる椅子を作ってきた会社としては、座らずに、かつ生産性も上がるワークスタイルとは何だろうと研究してきました。働きながら心身が健康になれる仕事中の活動を「Workcise(ワークサイズ)」と呼び、それを促進する環境づくりを社内で実践しながら進めています。立ったままで作業や会議ができる昇降式デスクを設置する、適正な歩幅を示すシールを床に貼る、壁を使ってストレッチができる場所をつくるなど、働きながら健康になれるさまざまな仕掛けを施しています。
岩下さん ▶
こうした環境整備に連動して、仕事中に歩いたり、体を動かすことを後押しする仕組みも導入しました。具体的には、従業員全員に活動量計を支給し、歩数や運動量、血圧、体重、筋肉量などを記録して健康づくりに生かしてもらう「タニタ運動プログラム」を提供しています。現在、本社と一部拠点で試行的に実施しているところです。歩数に応じてポイントを付けるインセンティブの検討など、楽しく健康増進に取り組める仕組みづくりを進めています。
平尾さん ▶
年1回の健康診断で健康状態を確認するだけでなく、活動量計で日々の状態をモニタリングしていくことは、自身の生活習慣や健康への気付き、行動変容につながると考えます。それが健康診断や人間ドックの結果にどのように結び付くか、行動と健康状態の関連を分析できれば、同じ健康課題を持つ人へのソリューションとして提供できるようにもなります。
──働き方の健康診断を実施
髙原さん ▶
健康な働き方を考えるにあたっては、一般の人を対象に調査を行っています。例えば、約2万人に調査した結果では、仕事中に笑う機会がある人は、ストレスチェックの点数が低いことや、心身症の発症率が低いことなどが分かりました。
これまで蓄積してきた知見を踏まえて、昨年から全社で働き方が健康かどうかをチェックする「はたらきかた健診」を実施しています。約100問のアンケート調査で、項目の例としては、1日にどのくらい座っているか、コピーを取りに行くなどちょっとした離席をどのくらいの頻度で行っているか、昼食は誰と何を食べているのか、休憩の頻度や仮眠の有無などがあります。全体の集計結果を社内報に掲載して、日常の働き方の見直しを啓発しています。これを毎年実施し、モニタリングしていくことが重要と考えています。
岩下さん ▶
定期健康診断の実施率は100 %、ストレスチェックは94%です。はたらきかた健診も、任意であるにもかかわらず約88% と高い回答率です。Workciseの実践などもあり、従業員の健康への意識が高まってきている表れだと思います。新本社オフィスへの移転前後で、はたらきかた健診の結果がどう変わったかを検証したいと考えています。
イトーキ健康保険組合常務理事
阪口 嘉雄 さん
阪口さん ▶
ゆくゆくは、活動量計で蓄積したデータやはたらきかた健診の結果、健保組合が持つ健診結果やレセプトデータなどさまざまなデータと突合して、総合的に分析していくと、さらに新しい課題も見えてくるのではないかと思っています。
──従業員の意識を高める鍵
大竹さん ▶
健康経営推進委員会の委員長を務める社長の平井は、自ら率先して健康づくりに取り組まなければ従業員はついてこないという強い思いを持っています。社長室はガラス張りで、デスクが昇降式になっており、社内にいる日の99%の時間は、スタンディングワークを実践しています。
髙原さん ▶
こうした社長自ら探求し、実践する姿勢は従業員に伝わります。明確に見えてはいませんが、実感として従業員の意識や行動は良くなってきていると思います。また、環境づくりのプロセスに従業員が参加する機会があることもポイントです。さまざまな職種を集めてワークショップを開催して意見を出し合い、健康や働き方に関する施策をつくっていく際にそれを盛り込んでいます。こうしたプロセスも主体的に取り組む意識を高めていると思います。
──課題となっている取り組み
大竹さん ▶
目下の課題は禁煙です。2017年に就業時間内禁煙を実施し、少しずつ喫煙率は下がっていますが、現在も24・7%と全国平均の喫煙率と比較すると高い状況にあります。当社は、2022年度までに喫煙率を12%にする国の目標達成に向けて今年4月に発足した「禁煙推進企業コンソーシアム」に参画しており、今後も禁煙推進施策を進めていきますが、従業員が自発的に楽しんで前向きに取り組めるような仕組みを検討していく予定です。
岩下さん ▶
そのほかでは、二次検査受診率を2020年度に100%にすることを目指しています。以前は50%を切っていましたが、健康経営推進委員会で手立てを検討して、健康管理室の専門スタッフが丁寧に地道に粘り強く働き掛けたり、上司を巻き込んだり、いろいろな手を打った結果、昨年は70%台まで上がりました。
平尾さん ▶
社内制度として再検査等で受診する場合の休暇制度「ヘルスケア休暇」を設けていますし、管理職への総合的な教育・研修を通して部下への適切な対応を求めていることも、二次検査受診率アップに効いていると思います。
──今後の展望
平尾さん ▶
従業員がいきいきと働き、最大のパフォーマンスを発揮していくには、自律的に働くことが重要なキーワードになると考えています。そのために、オフィス空間づくりだけでなく、1人ひとりの個性に合った働き方、評価制度や人事制度も含めて対応するとともに、健康の視点での活動も合わせて実施し、入社から定年、さらには再雇用が終わるまで、イトーキで勤めた期間が幸せだったと従業員に言ってもらえる、そして業績も伸びている形をつくりたいと思っています。
岩下さん ▶
病気でない状態を示す健康ではなく、いきいきと働ける「プラスの健康」が個人の幸せはもちろん、会社の発展や、社会貢献につながることを従業員が理解して取り組む社風をつくっていきたいですね。
阪口さん ▶
会社として従業員の健康を考えていろいろな施策を打ってもらえるので、健保組合としては、被扶養者、家族の健康に軸足を移して、家族ともども健康になってもらい、安心して仕事ができ、プライベートの時間も健康な生活を送れるよう、会社と連携を図って取り組みたいと思います。