健康コラム
健康課題への取り組み・対策
スターバックスコーヒージャパン健康保険組合の皆さん。左から、顧問・樽井久治さん、事務長・武田英子さん、常務理事・豊岡亘さん、保健事業・溝上真実さん、橋本純代さん、川西康子さん
スターバックスコーヒージャパン健康保険組合
働く人の勤務・生活スタイルに合った情報提供で健康をサポート
スターバックスコーヒージャパン健康保険組合は2012年に設立され、現在、主に全国1771店舗(2022年9月現在)で働くパートナーとその家族、約1万6000人が加入する。被保険者の約8割が女性で、平均年齢は他の健保組合と比較して若く、全国に点在しているという特徴を踏まえ、健康支援をいかに効果的に効率的に行き届かせるか、試行錯誤を重ねながら取り組んでいる。スターバックスコーヒージャパン健保組合における女性の健康課題とその対応について、常務理事・豊岡亘さん、事務長・武田英子さん、保健事業担当で管理栄養士でもある溝上真実さんに話を聞いた。
若い女性が多く約8割が店舗勤務
――スターバックスコーヒージャパン健保組合の特徴や女性の健康課題等についてお聞かせください。
被保険者の年齢構成
豊岡さん ▶
当健保組合には被保険者約1万4000人と約2000人の被扶養者が加入しています。
被保険者の約8割が女性で、平均年齢は約34歳、20〜30歳代が大半を占めているのが特徴の1つです。また、店舗は全国47都道府県にあり、被保険者の約85%が店舗勤務というのも特徴です。店舗勤務者は基本的に365日、朝早くから夜遅くまでシフト制で勤務しています。
スターバックスコーヒージャパンでは社員もアルバイトも「パートナー」と区分けなく呼んでいます。
また、店舗を中心に考えており、本社はそれをサポートするための位置付けとしているため「本社」とは呼ばず「サポートセンター」と呼んでいます。
スターバックスコーヒージャパン
健康保険組合 常務理事
豊岡 亘 さん
武田さん ▶
加入者の入れ替わりが多いのも特徴です。毎月約300人が新たに当健保組合に加入し、約200人が喪失しています。店舗数も増えており、積極的に採用活動を行っていますので、入れ替わりつつも被保険者数は年々増えています。
溝上さん ▶
私は4年前に健保組合に異動しましたが、それまで店舗勤務で店長経験もあるので現場のことがよく分かります。店舗で働いている方たちは自分も周囲の人も若いので、〝自分は健康だ〟と思っています。でも、実際は、シフト制で勤務しているので就寝時刻や起床時刻は日々変わり、睡眠時間も安定していませんし、生活習慣の課題はあります。店舗勤務は忙しく、食事時間もどうしても不規則になりがちで、簡単に食べられておなかも満足するパンやおにぎり、麺類などを選択することが多く、糖質過多の傾向があるように思います。
店舗といっても、ショッピングセンターやドライブスルー、空港内など立地はさまざまで、それによって、例えば繁忙期やパートナーの生活スタイルも異なってきます。
これらは、女性特有の問題ということではありませんが、当健保組合の被保険者の特徴の1つといえます。
生活スタイルに合った保健事業を展開
――貴健保組合の特徴を踏まえて保健事業をどのように推進していますか。
ウェブ広報誌「My Wellness」
溝上さん ▶
保健事業は前述のような生活スタイルに合ったものであることが最も重要です。また、加入者は47都道府県に居住していますから、地域差が出ないように、どこにいても誰もが参加できる保健事業であることが重要です。そうしたことを踏まえて今、力を入れているのは、「ヘルスリテラシーの向上」です。睡眠や食生活等について正しい健康情報をいかに届けるかが重要な課題であり、現在、月1回、健保組合のホームページでウェブ広報誌「My Wellness」を発行しています。「食:おいしくたべる」「心:きもちをたかめる」「動:からだをつかう」を3本柱に、主に店舗勤務者の生活リズムに合わせた内容になるよう、外部委託事業者と相談しながらテーマを決めています。最近は新型コロナウイルス感染症に関する話題が多かったのですが、取り上げてほしいと要望のあったテーマや、私自身の店長経験や管理栄養士としての視点を生かして、店舗で働く人たちに知っておいてほしいことをテーマに設定しています。
新年号では、おせち料理を取り上げて、〝食育〟的に、一品一品の由来などを紹介しました。若くて1人暮らし、年末年始もシフト勤務という中で、おせち料理を食べなくなったり、お正月の雰囲気を感じなくなったりしていることもあるので、改めて日本の食を見直してもらおうと企画しました。次回は体を温めることを推奨する「温活」を紹介する予定です。
スターバックスコーヒージャパン
健康保険組合 事務長
武田 英子 さん
武田さん ▶
広報誌はとにかく見てもらうこと、注目してもらうことが大事です。さらに、健保組合のホームページに誘導するような記事の工夫もしています。
一方で、一斉に情報提供することの難しさもあります。全国の店舗にパートナーは5万人くらい勤務していますが、当健保組合に加入しているのは約1万4000人です。会社のイントラネットを活用して情報発信をすることもありますが、情報を受け取るのは加入者だけでなく、加入者でない人も含まれますので、情報発信の難しさはあります。
溝上さん ▶
とにかく店舗には、会社から業務に関する新しい情報が日々届いています。そこに健保組合からの情報発信が加わることによってお店に負担や混乱が生じないよう細心の注意を払い、情報はシンプルに分かりやすく伝えるように心掛けています。
最近ではヘルスケアアプリやウェアラブル機器を活用した健康づくりサービスが盛んですよね。しかし、店舗勤務ではウェアラブル機器を装着することができませんし、一人ひとりにパソコンやスマートフォンが貸与されているわけではなく、アプリを入れてもらうこと自体がハードルが高いので、当健保組合にはフィットしないなと思っています。〝お店で働く人たちの生活スタイルに合わせた保健事業を〟、ということを常に考えています。
武田さん ▶
そこが最も苦労しているところで、新しい発想、アイデアを提供してくれるヘルスケア事業者を求めています。
健診も婦人科検診も受けやすい環境を整備
――女性特有の健康課題への支援として取り組んでいることをお聞かせください。
スターバックスコーヒージャパン
健康保険組合
溝上 真実 さん
溝上さん ▶
女性の健康支援としては、婦人科検診を年1回実施しています。具体的には、全年齢を対象に子宮頸がん検診(細胞診)を、35歳以上を対象に乳がん検診を、全額費用補助で実施しています。毎年春〜夏ごろまで事業主健診と同時に実施しています。健診開始前に、健保組合から婦人科検診対象者に乳がんグラブ(乳がんの自己触診用のグローブ)と検診案内を送付して、動機付けと啓発をしています。
婦人科検診の受診率は全体で5割程度となっています。35歳以上で両方受けている人は約6割、どちらか受けている人は約8割ですが、34歳以下では、〝若いからまだ大丈夫〟と考える人もいるためか、受診率は1〜3割と伸び悩んでいます。無料でも受けない人へのアプローチ、34歳以下への婦人科検診の受診勧奨は今後の課題です。若年層は入れ替わりが多いので、働き掛け続けていくことが大事だと思っています。
豊岡さん ▶
2020年の実績で特定健診受診率は93.8%、特定保健指導実施率は74.5%と高い水準となっています。2021年はさらに上昇しています。高い実施率を実現できているのは、情報発信は〝シンプルに分かりやすく〟を意識して丁寧にしてきた結果の表れだと思っています。また、健診は代行機関を通して実施しており、各自が申し込んで受けるのですが、申し込みやすいように申し込みのマニュアルを会社と一緒に作っています。
溝上さん ▶
健保組合と同じフロアに会社の健康管理室があり、看護師2名が常駐していて、日常的に情報交換しています。健診申し込みのマニュアルやQ&Aも健康管理室と話し合って作成しました。店長にはパートナーの健診受診状況が送られ、未受診者に勧奨を行うことが、会社側から徹底されていることも実施率に大きく影響していると思います。
特定保健指導は外部委託で実施していますが、対象者全員受けるのが当たり前という認識のもとすすめています。支援の対象者については健康管理室に確認をして、再検査の受診勧奨等と重複しないように擦り合わせもしています。
武田さん ▶
大々的なイベントでコラボヘルスを行うのはなかなか難しいのですが、会社と健保組合の垣根がなく、日常的な細かなことでコラボできるのが、当健保組合のコラボヘルスの特色かもしれません。
女性の健康について男性にも知ってほしい
――女性の健康支援について今後の展望をお聞かせください。
溝上さん ▶
確かに女性は多いのですが、店長やその上の上長には男性もいるので、男性に女性の健康のことも知ってほしい、という思いがあり、広報誌でも伝えてきました。例えば店長が男性ですと、体の不調を言いづらい、相談しづらいということがあると思いますので、男性にも女性の健康に関することを伝えていくことが必要だと思っています。
武田さん ▶
店舗のパートナーは出産する層が年齢的に多いため、産休育休取得者もとても多い現状があります。店舗ではシフトや人員の調整が必要になるのですが、その際に女性の健康について理解し配慮してもらえるよう、上長向けに研修等でさらに理解を深めていただくことが必要だと思います。
溝上さん ▶
加入者の入れ替わりが多いので、継続的な支援や取り組みは難しいと思います。それでも、店舗で働いている中で、食事や睡眠が乱れている生活スタイルをみて、何かサポートしたいという思いが強くあります。店舗勤務の経験を生かして、これからも情報発信を続けていきたいと思っています。
武田さん ▶
適切な情報提供や保健事業の実施には、会社(働く現場)と健保組合とがお互いを知ることが欠かせません。スターバックスコーヒージャパンではサポートセンターのパートナーは入社すると全員が店舗で研修を受けます。健保組合職員も例外ではなく全員、店舗で研修を受けましたが、そこでお店の状況を肌で知ることができます。お店の忙しさや接客の大変さ、健康保険というものをそもそも知らないなどの現状を知ることができ、とても貴重な機会となっています。その経験を生かして健康保険に関する制度や手続き等の案内は、店舗で働く人たちの目線で分かりやすく解説することを第1に考えて取り組んでいます。また、溝上のような店長経験者の存在は健保組合だけでは分からない現場目線を持つためにとても重要です。こうした人事交流もコラボヘルスの一環かなと思います。
豊岡さん ▶
店舗研修を経て、伝え方は十分に考えないといけないと痛感しました。店舗に迷惑を掛けないよう、より少ない情報で効果的に伝えていくこと、全店舗、全パートナーに対して区分けなく情報提供していくこと。これまで地道に行ってきたことを継続していくことが重要ではないかと思っています。
武田さん ▶
毎日のように加入者からたくさんの問い合わせが寄せられます。生の声を聴ける貴重なその機会を大事にして、加入者がどのようなことに困っているのか、何が分からないのかを知って、分かりやすく伝えていくことは、これからも私たちの重要な役目だと思っています。