HOME > 健康コラム > 企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~ > 東京急行電鉄株式会社

健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

東京急行電鉄株式会社

 東京急行電鉄株式会社は、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「健康経営銘柄」に2015年、2016年と2年連続で選定されました。同社における健康経営に対する考え方は、1922年(大正11年)に同社を創業した五島慶太氏による次の言葉に集約されています。「人の成功と失敗のわかれ目は第一に健康である。次には、熱と誠である。体力があって、熱と誠があるならば、必ず成功する」。この言葉を軸に、同社では、2016年2月1日付で「最高健康責任者(Chief Health Officer)」(以下、CHO)を設置し、「健康宣言」を制定。健康経営の推進に、ますます意欲を見せる同社の取り組みについてお話を伺いました。

【東京西南私鉄連合健康保険組合の概要】
加入事業所数:301事業所(2016年3月末)
加入者数:16万4953名(2016年3月末) ※被扶養者7万1260名を含む

──CHOを設置し、健康宣言をされた背景をお聞かせください。


東京急行電鉄株式会社
人材戦略室 労務厚生部 労政課
課長 下田 雄一郎さん

東急電鉄 ▼

 創業者の五島慶太は、従業員の健康管理がいかに重要であるかを創業当時から説いていました。それが、私どもの健康経営の根幹になっています。1953年には、東急電鉄30周年記念事業として、大田区の大岡山に企業立病院を設けました。2007年に現在の場所に移転したのですが、東急大岡山駅の真上に位置する構造になっており、日本初の駅上病院であることが特徴です。ここには、東急グループ社員のための健康管理センターがあり、産業医が常駐し、健康診断や健康相談などを行っています。

 2015年、「健康経営銘柄」に選定いただいたことを機に、健康経営の土台をより堅固なものにするための議論を重ねました。その結果、創業者のメッセージだけでは弱いという結論に至り、2016年2月1日付でCHOを据え、次のような健康宣言を出しました。


東京急行電鉄株式会社
東急病院 管理部 (兼)健康管理センター
課長 豊島 一浩さん

 1つ目は従業員およびその家族に向けたもの、2つ目は私どものお客様である東急沿線で暮らす皆さんに向けたもの、3つ目は社会全体に向けたものになっています。

 また、当社では2015年度を初年度として「中期3か年経営計画」を策定し、本計画を実現するための「4つの重点施策」を掲げており、その1つに「ライフスタイル&ワークスタイル・イノベーションの推進」があります。とくに、ワークスタイル・イノベーションにおいて、社員がいきいきと輝ける環境づくりを推進するためには、CHOの設置が重要だと考えました。

──健保組合の歴史と概要についてお聞かせください。


東京西南私鉄連合健康保険組合
専務理事 西川 厚雄さん

健保組合 ▼

 当健保組合の設立は、1935年(昭和10年)4月1日で、今年で81年目を迎えます。当時は、五島慶太が、東京横浜電鉄と目黒蒲田電鉄という2つの会社を経営しており、その両方の健保組合として設立された「東横目蒲電鉄健康保険組合」が始まりです。その後、2社が統合され、名称も東京急行電鉄に変わり、組合名称も「東京急行電鉄健康保険組合」になりました。のちに、戦時体制が色濃くなるなかで、公共交通の整理統合の促進を図るため、陸上交通事業調整法が定められ、これを機に、京急、小田急、京王などの電鉄や、東映、関東バス、戦後には相模鉄道が1つの傘下に入り、東急電鉄を中心とした企業グループになったというわけです。

 しかし、戦後になると、財閥解体や過度経済力集中排除法といった背景もあり、合併した会社のなかには、元の組織体系に戻すべきという気運も高まり、1948(昭和23)年6月1日に、東急電鉄、京王電鉄、京急電鉄、小田急電鉄、東横百貨店の5社に分割されたのです。その際、健保組合だけはそのまま残すことになり、現在の「東京西南私鉄連合健康保険組合」に名称変更しました。その後、独立した健保組合もありますが、当時の枠組みがそのまま残っているのが現状です。

 当健保組合には301社が加入していますが、東急、京王、京急の3社で全体の約8割を占めています。それ以外に、相鉄、東映、関東バスという企業グループがありますので、全体で見ると、6企業グループが母体になった特殊な単一健保ですが、総合健保の色あいが非常に強いことが特徴です。

──具体的には、どのような保健事業を実施していますか。


東京西南私鉄連合健康保険組合
企画総務部企画総務課
主任 太田 篤子さん

健保組合 ▼

 6企業グループそれぞれが独自の経営方針に基づいて事業を行っていますので、保健事業を当健保組合が一律に実施するのは難しいのが実情です。そうした状況下ではありますが、被扶養者等を対象とした「けんぽ共同健診」や、ジェネリック医薬品の差額通知、あるいは、インフルエンザ予防接種の補助金の支給など、一般的な保健事業を実施しています。

 じつは、2008年くらいから、当健保組合の財政は赤字続きだったことから、2011年度に特例退職被保険者制度を廃止し、料率も8.5%から9.5%に1ポイント引き上げました。その後、各母体企業の賃金や賞与が上向いてきたこともあり、2011年度以降は黒字基調になっています。収支悪化を受けて、これまで保健事業は縮小傾向にあったのですが、近年の黒字基調を踏まえ、2016年度の予算においては7年ぶりに保健事業費を対前年21%ほど増額しました。

 増額分の内訳としては、1つ目が、インフルエンザ予防接種補助金の増額。従来は1000円でしたが、今年度からは2000円に増額しました。2つ目が、被扶養者等のけんぽ共同健診補助金の増額。以前は特定健診において、約2200円の自己負担が発生していましたが、2016年度からは、自己負担がなくなります。これまで当健保組合における被扶養者の特定健診受診率は15%以下だったのですが、自己負担がなくなることによって、受診率が上がることを期待しています。3つ目は、東急グループの株式会社イーウェルが主宰する、みんなの健康応援サイト「KENPOS」の導入です。歩数や体重の記録、あるいは健康日記をつけるなど、健康活動を楽しみながら継続していけるコンテンツになっています。皆さんが高いモチベーションで取り組めるように、インセンティブプログラムの導入も視野に入れています。

東急電鉄 ▼

 厚生労働省と経済産業省は、高騰し続ける医療費の削減に向けて、予防医療の強化に取り組み始めています。経産省においては、産業の空洞化対策として、新しい産業を確立しようとするなかでヘルスケア事業の推進を開始しました。当社としては、企業立の病院を持っていることから、医療または予防医療を通じて、健康寿命を延ばす取り組みをしたい考えです。また、医療機関を持つ企業として、食や健康に関連する企業や団体の皆さんと一緒に、新たな産業の確立に向けた検討会を定期的に行っています。

 そうした考えのもとで、2015年9月から開始したのが、クラウド型健康支援アプリケーションを活用し、職場対向で「体重コントロール」を競う取り組みです。試験的に2つの駅を抽出し、そこに属する約50人ずつが「はらすまダイエット」(日立が考えた減量プログラムで、「無理なことはやらない。がんばらない、けれども簡単にはあきらめない」を原則としている)を軸に、食事や運動に気を付けながら結果を競い合っています。4月末までに健診結果が出るので、それをもとに勝敗が決まります。これは、今年度から全社的に展開していきたい考えです。

 そういう意味で、「KENPOS」の導入については、事業主としても、あるいは東急病院としても非常に興味があるところです。「KENPOS」を発展させて、健保組合とタイアップすれば、個人でバイタルデータを入力・管理するだけではなく、健診結果も過去10年分くらいを時系列的に見られるようになり、各数値に対する保健指導も効率的にできるようになると思います。ほかにも有意義なアプローチがたくさんあると思いますので、今後、健保組合と一緒に保健事業に取り組んでいく機運がますます高まると期待しています。

──「健康ステーション大岡山」についてお聞かせください。

東急電鉄 ▼

 東急沿線で暮らす皆さんは、当社のお客様でもあり、お客様が健康でなければ、当社の商売は成り立ちませんから、沿線住民の皆さんの健康づくりに対しても主体的に関与していきたいと思っています。具体的には、社員に向けた取り組みを沿線住民の皆さんにも展開し、1つの事業にしていくことをイメージしています。

 そうしたなかで、当社の企業立病院(東急病院)がある大岡山駅周辺を「健康ステーション大岡山」と称し、健康づくりの象徴的な場所にしていこうと試みています。すぐにできることから始めようということで、鉄道部との協働で、「健康階段」に取り組みました。階段を毎日楽しく上って健康になっていただくために、3段に1つ、「今日からの一歩で未来の自分を変える」などの健康応援メッセージを掲出し、全段に消費エネルギーも明記しています。現在、掲出している健康応援メッセージは当社で考えたものですが、第2弾、第3弾では、利用者の皆さんからの公募で決めたいと思っています。ほかにも、健康状態を簡単に測定できるセルフチェックポスターをトイレに掲出したり、健康に関する豆知識が書かれたポスターを待合室に掲出したりしています。

 また、大岡山駅前にある東京工業大学の学祭(工大祭)には、数多くの地域住民の皆さんが訪れることから、2015年の工大祭開催時には、当社もブースを出し、血圧や骨密度を測定したり、健康相談を実施したり、ウォーキングイベントも開催しました。

──健保組合としては、今、何が課題ですか?

健保組合 ▼

 最大の課題は、今年の10月1日から始まる短時間労働者に対する社会保険の適用拡大です。

 従来は、週の所定労働時間が概ね30時間以上の人が社会保険に入るという法律でしたが、今年の10月からは、20時間以上などに拡大されます。この影響がどれくらい出るかは、スタートしてみないと分かりません。昨年、各母体企業にアンケートを取ったところ、1万人弱の短時間労働者が加入する可能性があると分かりました。また、そのうち、半数近くが60歳以上であることも見えてきました。

 当健保組合は「私鉄」を銘打っていますが、鉄道業やバス業だけではなくて、各企業グループには小売業やビル管理業などの会社もあります。スーパーマーケットでパートタイムで働く方や、ビル管理会社で清掃や管理をされている方などが一気に加入する可能性があるわけです。アンケートの結果によると、そうした皆さんの標準報酬は月額10万円ほどで、賞与は年間で数万円となっています。こうしたことを踏まえて、今年度の予算を組んでいますが、年間ベースで億単位の負担増になると見込んでいます。今はまだ別途積立金があるとはいえ、これは今後の大きな課題になることは間違いありません。

──今後の展望についてお聞かせください。

東急電鉄 ▼

 2016年は、CHOを据え、健康宣言をしたので、従業員の健康意識をますます醸成していけるよう、さまざまな取り組みを全社に広げていきたいです。また、1つの健保組合に対して、事業主が6グループありますが、当社においては東急病院もあり、専任の産業医、保健師、管理栄養士など、他社に比べるとかなり重厚な布陣になっていると思います。この体制をもっと発展させて、「KENPOS」の活用と併せて、健康経営につなげていけるよう努力していきます。

健保組合 ▼

 単一健保でありながらも、6グループの事業主がいることにより、統一的な施策が打ちにくいというのが今までの悩みでしたが、当健保組合も、「健康経営を応援します!」という宣言をしましたので、これからは、先進的な取り組みを行っている事業主と積極的にコラボしていきたいです。取り組みが機能することが証明できれば、横展開もしやすくなりますし、これからいい結果を出せるよう、健保組合としても頑張っていきます。

──「あしたの健保プロジェクト」に対するメッセージや国に対する要望をお願いします。

東急電鉄 ▼

 事業主による健康に関するさまざまな取り組みは、健保組合の運営が安定しているからこそできることです。つまり、制度や政策などによって、健保組合の運営が安定しないという状況は望ましくないわけです。そういう意味では、事業主と健保組合、そして健保連が一体になって、国の政策を安定的に将来につなげていくことが重要ではないでしょうか。

健保組合 ▼

 当健保組合から具体的にお願いしたいことは次の2点です。

 1点目は、加入事業所数が301社もあると、健康経営に対する意識にかなりの差があります。2年連続で健康経営銘柄に選定された会社もあれば、あまり気にしていない会社もあるのが実情です。したがって政策として、健康に関する投資がどのような結果につながっているかの調査や検証をしていただき、その結果を公開していただきたいと思います。

 2点目は、これからは若年層への働きかけが重要だと思われます。選挙権が18歳に引き下げられますので、選挙権を持つ前の年代である中高生に対する啓蒙活動が大切になるのではないでしょうか。とくに国民皆保険制度への理解はまだまだ不足していると思いますので、例えば健保連が中心になって、国民皆保険に関する教材をつくるなどして、厚労省や自治体と協力しながら啓蒙していくような活動をしていただきたいと思います。

東京急行電鉄株式会社 人材戦略室 労務厚生部 労政課 課長 下田 雄一郎さん
「具体的な取り組みは、まさにこれから。コラボヘルスにも尽力しながら、具体的な数値で示せる成功事例をつくっていきたい」

東京急行電鉄株式会社 東急病院 管理部 (兼)健康管理センター 課長 豊島 一浩さん
「自治体、沿線商店街、医師会等とも連携し、産学官民一体となって健康づくりに関する取り組みを進めていきたい」

東京西南私鉄連合健康保険組合 専務理事 西川 厚雄さん
「『KENPOS』の導入にあたり、試験的に使用した結果、私も1日1万1000歩を歩くことが習慣になりました。登録から3カ月ほどで、体重も減り、血圧も改善。『KENPOS』導入後の従業員の健康向上が今から楽しみです!」

東京西南私鉄連合健康保険組合 企画総務部企画総務課 主任 太田 篤子さん
「加入者の皆さんに、より積極的に健康づくりに取り組んでいただけるよう、当健保組合のホームページなどを活用し、どんどん情報を発信していきます」

健康コラム
KENKO-column

HOME > 健康コラム > 企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~ > 東京急行電鉄株式会社