健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
ミサワホーム株式会社
働き方改革の一環で健康経営を推進し活力あふれる職場に
新築事業、リフォーム等のストック事業、まちづくり事業、海外事業、ウエルネス事業といった暮らしに関わる事業を総合的に展開するミサワホーム株式会社は、2018年に「ミサワホーム健康宣言」を公表、健康経営の取り組みに着手し、いつまでも社員がいきいきと働くことのできる、活力あふれる職場環境の整備に取り組んでいる。健康管理体制の整備、社員のヘルスリテラシーの向上、ウォーキングイベントの実施等による運動習慣の改善に注力しており、2018年度から6年連続で「健康経営優良法人・ホワイト500」に選定されている。なお、同社とコラボヘルスを展開するミサワホーム健保組合も「健康経営優良法人・中小規模法人部門」に3年連続(4回目)で選定されている。同社の健康経営の取り組みについて、管理本部人事総務部部長兼ミサワホーム健保組合理事長の高橋幸男さん、同部人事課課長代理の横野智也さん、ミサワホーム健保組合常務理事の宮川純子さん、同健保組合事務長の倉澤朋枝さんに聞いた。
【ミサワホーム株式会社】
設立:2003年8月1日
本社:東京都新宿区西新宿2-4-1 新宿NSビル
代表取締役社長執行役員:作尾徹也
従業員数:7,940人(連結)、2,218人(単体)(2024年3月31日現在)
──社員1人ひとりの健康は会社の財産
ミサワホーム株式会社
管理本部人事総務部部長兼
ミサワホーム健保組合理事長
高橋 幸男 さん
高橋さん ▶
2015年から2016年にかけて、グループ会社の統合を実施しましたが、当時は、各社の文化の違いもあり、社員の一体感の醸成が課題となっていました。そのため、2017年から従業員満足度や生産性の向上、組織再編を目的とした全社的プロジェクトとして、「働き方改革推進室」によるBR(Business Revolution)活動に取り組むことになりました。その際、「社員1人ひとりの健康は会社にとっての財産」という当時の社長の思いもあり、BR活動の一環として、健康経営の推進にも取り組むことになりました。
2016年度に社員の健康度について調査した結果、4人に1人が生活習慣病のリスクを保有していることが分かり、また、不健康な食習慣、運動不足、高い喫煙率等も課題として明らかになりました。ちょうど同時期に健保組合の保険料率も上がることになり、会社としての負担も非常に重くなっていたこともあって、全社的に健康への取り組みが必要であるという気運が高まっていました。
そうした中で、2018年4月に、社長が最高健康責任者(CHO)に就任し、トップメッセージとして「ミサワホーム健康宣言」を発表しました。宣言は、「組織も、個人も、みな豊かな生活と健康づくりに努め、いつまでも社員がいきいきと働くことのできる、活力あふれる職場の環境づくりに積極的に取り組む」という、会社としての理念、方向性を示したものです。
ミサワホーム株式会社
管理本部人事総務部人事課
課長代理 横野 智也 さん
横野さん ▶
健康経営の推進体制として、2018年度から人事総務部人事課に保健師が常駐する「健康管理室」を設置し、健康に関するデータ管理、各種施策の企画等を実施しています。また、本社だけでなく各拠点(約20拠点)で健康づくり責任者・担当者を選任して、拠点ごとの取り組み推進や、課題の吸い上げ等の役割を担っていただいています。
宮川さん ▶
BR活動には、健保組合職員もメンバーとして参加し、より効果的な健康保持増進策を推進するため、ミサワホームと健保組合が協働して取り組みました。
──ウォーキングイベントに多くの社員が参加
高橋さん ▶
健康経営の取り組みについて、「健康管理の徹底」「生活習慣病対策」「禁煙・受動喫煙対策」「メンタルヘルス対策」「社員のヘルスリテラシーの向上」の5本柱の施策をバランスよく進めています。
横野さん ▶
「健康管理の徹底」では健診受診率、二次検診受診勧奨対応率、二次検診受診率等、「生活習慣病対策」では肥満該当率、高血糖該当率、高血圧該当率、「禁煙・受動喫煙対策」では喫煙率、「メンタルヘルス対策」では長時間労働者への面談実施率、ストレスチェック受検率、良質な睡眠率、「社員のヘルスリテラシーの向上」では朝食欠食率、運動習慣率等について、それぞれKPIを設定し、実績の推移を把握しながら健康施策を展開しています。
健診に関しては、健診項目別に「ミサワ対応基準」を設け当社グループの統一基準とし、グループ間で健診後のフォローに差が生じないようにしています。
倉澤さん ▶
健保組合としては、被保険者の約4割を占める生活習慣病予備群にしっかりとアプローチすることと、要治療者への受診勧奨を徹底しています。ミサワホームで健康経営の取り組みが始まってから、各事業所担当者の意識もかなり変化しました。取り組み以前の特定保健指導実施率は、被保険者・被扶養者を含めて2割程度であったものが、現状では7割近くになっています。
特定保健指導対象外の40歳未満についても生活習慣病予備群が非常に多いので、若年層向けにも保健指導を実施しています。また、今まで働きかけが不十分であった健康層に対しては、今年度から「健康インセンティブ制度」を開始しました。この制度は、積極的に健康管理・健康づくりに取り組む事業所と被保険者にインセンティブを付与するもので、職場の健康経営の推進やヘルスリテラシーの向上につながるものと期待しています。
横野さん ▶
具体的に、運動習慣の改善に向けて、2019年度から全社ウォーキングイベントを開催しています。チーム(支店・部門)対抗のイベントですが、営業職が多く、競い合うことへの意識が高い社風のためか、毎年、非常に盛り上がっています。2024年11月実施のウォーキングイベントには本社社員の5割以上、1200人程度が参加しました。2022年度からはグループ各社に対象を拡大し、全体で4600人以上が参加しています。また、2019年度から「新宿シティハーフマラソン」に会社として協賛し、ランナーとして社員が100人以上参加しています。
食習慣に関しては、毎年度、各拠点において産業医からの食生活に関する講話、情報提供を行っています。全拠点ではありませんが、オフィスに冷凍パンの自動販売機を設置して、できるだけ朝食を摂っていただけるような取り組みも行っています。自分にあった食生活やダイエットのための遺伝子検査キットの全社員配布と管理栄養士による解説セミナーも実施しました。
そのほか、健康管理のためスマートウォッチの全社員配布、継続的に健康活動に取り組むことができるよう「健康ポイント制度」の導入など、さまざまな取り組みを進めています。
ミサワホーム健保組合
常務理事 宮川 純子 さん
宮川さん ▶
健保組合では、医療費情報や健診結果等が閲覧できる健康管理ポータルサイト(Pep Up)を運用していますが、そのサイト上で健康イベントを開催しています。ウォーキングラリーや日々の健康状態の記録のほか、健保組合独自のイベントとして「けんぽQuiz」を年2回実施しています。社内イントラを通じた健康情報の発信記事の中にクイズの答えがあり、記事を読んでもらうためのきっかけにもなっていると思います。
横野さん ▶
ヘルスリテラシーの向上のためには、繰り返し情報を発信していくことが重要と考えています。健康管理室の保健師が定期的に「ヘルスケア通信」という形でヘルスケアに関する情報を社内イントラ上に公開しています。
高橋さん ▶
健康経営指標のKPIについて、2018年度から2023年度実績の経年変化を見ると、例えば、健診受診率は100%を維持しています。また、二次検診受診率は55.5%から95.5%まで大きく改善しています。運動習慣率も17.4%から23.2%に改善しています。一方で、中長期的には改善傾向ではあるものの、直近では悪化している指標もあります。こうした指標を改善させていくことが当面の課題だと認識しています。
横野さん ▶
2023年度までのウォーキングイベントでは、部内対抗で大きな盛り上がりをみせていましたが、2024年度からは、そのウォーキングイベントを発展させて、歩くだけでなく、他の健康経営指標も加えた対抗イベントにしています。ウォーキングの歩数に加えて、健保組合が運用しているPep Upの利用率、健診結果の状況、その改善状況等を含めて「健康優良チーム表彰制度」として展開し、より総合的なヘルスリテラシーの醸成を狙っています。
──未来の姿を描き道筋をつける
ミサワホーム健保組合
事務長 倉澤 朋枝 さん
倉澤さん ▶
今後、健保組合としては、被扶養者の健診受診率の向上に取り組んでいきたいと考えています。被扶養者の健診受診率は、2016年度の5割程度から、現在は7割程度まで上昇していますが、被扶養者の1人当たりの医療費が被保険者よりも高いことが確認されている中で、被扶養者の健診受診率をさらに上げていくことが重要と考えています。各事業所の担当者と協力し、健診の未受診者に対する勧奨等に取り組んでいきます。
宮川さん ▶
事業所や被保険者に対する事業はある程度展開できていますので、今後は被扶養者向けの事業を強化していきたいと考えています。健診費用の補助や、がん検診の機会は提供していますが、それ以外の健保組合による各種イベント等は被扶養者を対象にしていません。健康に向けて楽しむイベントに被扶養者が一緒に参加できるよう、対象を拡大していきたいと考えています。
横野さん ▶
健康経営のさまざまな取り組みを進めてきたことで、社員のヘルスリテラシーはかなり向上してきていると思います。一方で、健康状態の指標に係る数値が実際に改善していくことも求められていますが、直近では前年比で改善した指標もあります。これまでの取り組みを継続するとともに、先ほどご説明した総合的な健康優良チーム表彰といった新しいチャレンジもしていきながら、今後も社員のヘルスリテラシーの向上、KPI指標の数値改善を図りたいと考えています。
高橋さん ▶
ミサワホームでは、世間と同様に50歳代中盤の社員が多く、年齢構成のピラミッドにひずみがあります。このボリュームゾーンの社員が今後60歳代になるときには、当社の定年退職制度によって今よりも保険料収入が減り、また加齢とともに医療費が増えることが予想されます。このため、いかにして健康な60歳代になってもらうか、社員の年齢構成を踏まえた数年後の姿を真剣に考えていく必要に迫られているといえます。
現状を把握・分析し、課題を明確にして、未来の形を描く。それに向けた施策を打ち出していくということの、まさに入口に立っているところだと思っています。健保組合として取り組むこと、会社として取り組むこと、両者で連携して取り組むこと、それぞれの道筋を作りながら、今後も健康経営を推進し、社員・家族の健康向上と同時に、組織の活性化を実現していきたいと考えています。