健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

日本航空株式会社

企業理念の実現には心身の健康づくりが不可欠

JALグループでは企業理念である「全社員の物心両面の幸福を追求し、お客さまに最高のサービスを提供する」ため、社員と家族の心身の健康づくりに向けて、社員・会社・健保組合が一体となって、現在、生活習慣病、がん、メンタルヘルス、たばこ対策、女性の健康の5つを重点施策に掲げ、取り組みを進めている。

健康経営や取り組みの状況について、日本航空株式会社人財本部ウエルネス推進部 兼 運航本部運航乗員ウエルネス推進部 統括マネジャーの白駒伸春さん、日本航空健康保険組合常務理事の浦井典子さん、同企画・業務チーム事務主任の茅原慎介さんに聞いた。

【日本航空株式会社】
設立:1951年4月
本社:東京都品川区東品川2-4-11
代表取締役社長執行役員:鳥取三津子
従業員数:37,869人(連結ベース・2024年3月31日現在
「健康経営銘柄」に2022年度から3年連続で選定。また、JALグループ26社が「健康経営優良法人2024」に認定。

──全社員・会社・健保が一体となって健康づくり

日本航空株式会社 人財本部ウエルネス推進部 兼 運航本部運航乗員ウエルネス推進部 統括マネジャー 白駒 伸春 さん
日本航空株式会社
人財本部ウエルネス推進部 兼
運航本部運航乗員
ウエルネス推進部
統括マネジャー
白駒 伸春 さん

白駒さん ▶

 当社は2010年1月19日に会社更生法の適用を申請し、経営破たんしました。破産管財人の下、路線・便数の縮小、航空機を含めた資産売却、組織再編、人事賃金制度・福利厚生制度の変更等を行いました。また、JALグループ4万8000人の社員を3分の2の規模の3万2000人にまで削減しました。

 当時、健康管理部(ウエルネス推進部の前身)が実施していた健康診断についても健診項目を大幅に削減しました。健保組合においても給付水準の引き下げ等を行いましたし、健保組合自体の解散という議論もありました。

 破たん後、再生に向けて京セラ創業者の稲盛和夫氏に会長に就任いただき、さまざまな改革を行う中で、改めて企業理念を見つめ直し、
『JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、お客さまに最高のサービスを提供します。
一、企業価値を高め、社会の進歩・発展に貢献します。』
と定めました。

 健康管理部、健保組合は縮小を余儀なくされた中で、「全社員の物心両面の幸福の追求」のために、何ができるかを懸命に模索し、そこから会社と健保組合が一体となって取り組みを始めました。

日本航空健康保険組合 常務理事 浦井典子さん
日本航空健康保険組合
常務理事 浦井 典子 さん

浦井さん ▶

 破たん前は会社と健保組合がそれぞれ健診メニューを提供するなどしていましたが、破たん後は協力し合い、同じ目的に向かって、役割分担を決めて取り組むようになりました。

白駒さん ▶

 2012年9月19日に東京証券取引所に再上場し、再生を果たすことができました。その際に「2012〜2016年度中期経営計画」を発表しました。これとあわせて、経営トップから「JAL Wellness宣言」を発信し、中期経営計画と期間を合わせた「JAL Wellness 2016」を立ち上げ、本格的に健康経営に取り組みはじめました。

 企業理念である「全社員の物心両面の幸福を追求」するためには、心身の健康づくりが不可欠ですので、全社員・会社・健保が一体となって健康づくりに取り組む必要があります。そうした観点から、健康経営の目的として、航空会社としての至上命題である「安全運航」、お客さまへの「最高のサービスの提供」、そしてこれらを担う社員とその家族の「豊かな人生」、また、社員の「働きがい」の4つを掲げ、このために心身の健康が重要だと位置づけており、当時はまだ一般的ではなかった「Well-Being」を盛り込んだものになっています(図1)。


図1

 その実践に当たっては、トップダウンとボトムアップの双方による推進体制を構築しています。

 社長の下、副社長が「健康経営責任者」となり、各部門の執行役員で構成する「JAL Wellness推進委員会」を設置し、事務局をウエルネス推進部と健保組合が務めています。推進委員会では、施策の方針の検討や取り組み状況の確認等を行っています。

 一方、各部門やグループ会社では、「Wellnessリーダー」を選任してもらい、健康増進施策の中心的な役割を担ってもらうとともに、部門長によるサポートをお願いしています。部門やグループ会社によって、男女比や年齢構成、勤務形態、業務内容が大きく異なりますし、それぞれの職場が抱える健康課題もさまざまであることから、各部門で活動しやすいようにし、それぞれの活動を事務局が支援しています。現在、リーダーとして650人が活動しています。

日本航空健康保険組合企画・ 業務チーム事務主任 茅原 慎介 さん
日本航空健康保険組合企画・
業務チーム事務主任
茅原 慎介 さん

茅原さん ▶

 「Wellnessリーダー」に対しては年3回、全体研修会を開き、グループ全体の健康経営の取り組み状況や重点施策の進捗状況の報告などを行うとともに、それぞれの活動報告や課題の共有のための意見交換、また、毎年度、各部門が実践した優れたWellness活動を表彰し、事例発表などを行っています。

 事務局からは、各部門やグループ会社の目標指標に対する実績値をまとめたレポートをフィードバックし、それぞれの課題の洗い出しに活用してもらっています。

 このほかにも、グループ会社の健康経営担当者に対して、各社の健康経営度調査結果で評価がハイスコアだった会社の取り組みを共有する「健康経営事例発表会」の開催、グループ会社の横連携の構築や情報交換を行う「健康経営優良法人しゃべり場」などを運営しています。

──定期健診と同日同会場で婦人科健診を実施

白駒さん ▶

 中期経営計画の見直しと合わせて「JAL Wellness」も更新しており、現在、「JAL Wellness2025」(計画期間2021〜2025年度)に沿って取り組みを進めています。重点施策として、生活習慣病、がん、メンタルヘルス、たばこ対策、女性の健康の5つを掲げ、最終年度の目標指標達成に向けて、毎年度ごとにマイルストーンを置き、評価を行っています(図2)。


図2

 がんについては、がん検診の受診率向上の取り組みに加え、がんを経験した社員や休業中の方がたが情報交換できる「ほっとピアステーション」を設けています。メンタルヘルスについては、精神科を専門とする常勤産業医、カウンセラーを配置するなど手厚い相談体制を用意しています。また、パイロットが社内でトレーニングを受けた同僚に不安や相談ができる「パイロットピアサポート」や、客室乗務員が乗務前に気軽に立ち寄ることができる「CAアテンドサロン」があります。

茅原さん ▶

 たばこ対策については、昨年度に「卒煙キャンペーン」を実施し、禁煙プログラムに係る自己負担の半額を補助するとともに、卒煙成功者には特典をつけました。今年度も別の角度からキャンペーンの実施を検討しています。

白駒さん ▶

 女性の健康については、日本航空(単体)をはじめ女性社員の比率が高いグループ会社も多く、取り組みが求められています。このため、乳がん検診や子宮がん検診の受診率向上を図るため、女性社員が定期健診と同日に同会場で婦人科健診が受診できるようにしました。これによって、従前は受診率が4割前後でしたが、6割前後に向上しました。また、女性特有の健康課題に対しては、月経、更年期障害に対するオンライン診療や服薬費用の一部補助を行う実証実験を進めるとともに、フェムテックの活用への支援を行っています。

茅原さん ▶

 健保組合では、女性の被扶養配偶者や特例退職被保険者の方がたが婦人科健診を受診できるよう会場を用意したり、再検査が必要な方がたへの受診勧奨を行っています。このほか、社員も含めて各種の女性の健康セミナーやe-Learningを用意しています。

浦井さん ▶

 健診全般について、健保組合としては、被扶養配偶者や特例退職被保険者のOBの方がたが受診しやすい会場を用意したり、受診ハガキに近隣の会場を案内するなど工夫をしています。

 また、健診を1つのイベントとして楽しめるよう、成田空港の事業場に会場を設け、家族が一緒になって職場見学をしたり、OBOGには、かつての職場を訪れつつ受診できるようなこともしてきました。

白駒さん ▶

 「JAL Wellness 2025」は先ほどの5つの重点施策に加えて、健康リテラシーや「Wellness活動」、ライフスタイルに関する指標も設けて取り組みを進めています。職場における健康づくりの取り組みを推進する「Wellness活動」について、職場での健康づくりの定着を図る取り組みの1つとして、「本気の!ラジオ体操」を広めており、2023年に10周年記念として、各種イベントを実施しました。

──積極的に参加したくなる健康づくり施策を

白駒さん ▶

 近年、60歳以上のシニア層や障がいを持つ仲間も増えてきたので安心して働けるようサポートしたいと思っています。

 また、毎年度の目標指標に対する結果を見ていると、なかなか目標に届いていない項目もあり、カンフル剤として何らかインセンティブのような取り組みが必要ではないかと考えています。

 さらに各自が「やらされている」と感じるのではなく、誰もが気軽に参加でき、かつ楽しめて、健康に関することを日々職場で話題にしたくなるような、そんな形にしていきたいと考えています。

浦井さん ▶

 加入事業所全体を見渡すと、どうしても距離感や温度差がある事業所があると感じています。これからは、全体的な底上げを図っていきたいと考えています。

 また、健保組合としては、最終的には元気なシニア層を国保や後期高齢者医療制度にバトンタッチするということが使命だと思っています。ぜひ当健保組合に加入している間に、健康へのいろいろな気付きを持ってもらえるよう、各事業所と一緒になって取り組んでいきたいです。

茅原さん ▶

 バンコクなど海外の現地社員にも「Wellnessリーダー」が少しずつ誕生しています。そうした方がたへのサポートの充実をしていきたいと思います。

 また、健保組合としては、社員だけでなくその家族へのアプローチも重要だと考えています。家族が元気でないと安心して働けないので、健保組合においてトータルサポートに取り組み、企業理念の実現と安全運航の堅持に貢献してまいります。

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