健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
あすか製薬ホールディングス株式会社
健康経営の実践により自ら考え、学び、行動する従業員に進化
あすか製薬ホールディングス株式会社は、グループ全社で東京薬業健康保険組合に加入している。その中核子会社である、あすか製薬株式会社は1920年にホルモン製剤のパイオニアとして誕生した。1世紀にわたる歴史の中で産婦人科領域のリーディングカンパニーであり、甲状腺領域でも国内シェア9割以上を占める。健康経営優良法人では、女性の健康課題に積極的に取り組む施策が評価され5年連続で「ホワイト500」に認定されている。同社の健康経営の取り組みについて、あすか製薬ホールディングス株式会社代表取締役専務取締役・丸尾篤嗣さん、グループ経営管理本部グループ人事部部長・髙橋直樹さん、同給与・労政課課長・幡野隆志さん、同給与・労政課係長・稲生久美さん、東京薬業健康保険組合専務理事・渡辺智明さん、同企画部企画課長・小山博さん、同健康開発センター健診部予防課予防第一係長・藤野篤史さんに聞いた。
【あすか製薬ホールディングス株式会社】
設立:2021年4月1日
本店:東京都港区芝浦二丁目5番1号
代表取締役社長:山口 隆
従業員数:864名(2023年3月末現在)
あすか製薬株式会社の完全親会社として設立。
2018年のあすか製薬の健康経営宣言を引き継ぎ、ホールディングス体制移行後はグループ全社で健康経営に取り組む。
──従業員の自律的な成長を目標に健康経営施策を展開
あすか製薬ホールディングス
株式会社
代表取締役専務取締役
丸尾 篤嗣 さん
丸尾さん ▶
当社グループは、2021年より「あすか製薬ホールディングス中期経営計画2025」を開始しました。その1つに「成長戦略を実現するための人材育成」を掲げており、持続的な価値向上を実現するための最も重要な資源を人材と捉え、その能力最大化を促進しています。
健康経営は、これらを実現する一部を担っており単純な健康管理に留まらず、人材の自律的な成長と組織の生産性・創造性の向上を目標にしています。
さらには、健康経営を通じて従業員と組織、社会が相互に「健康」という価値のある幸せを共有できるようさまざまな角度から推進しています。
あすか製薬ホールディングス
株式会社
グループ経営管理本部
グループ人事部 部長
髙橋 直樹 さん
髙橋さん ▶
あすか製薬ホールディングスの中核子会社となるあすか製薬は、早くから女性医療の重要性と社会課題解決に取り組んでまいりました。産婦人科領域を中心とした医療用医薬品を取り扱う会社として、これらの情報を広く提供し女性の健康をサポートすることが重要な使命の1つであると考え、創立100周年を機に社会貢献事業「女性のための健康ラボMint+」を設立しています。Mint+では、一般女性に向けた健康情報の発信の他に、教育現場への性教育資材の配布、女性の健康に役立つレシピ提供や無料のオンラインセミナー開催など、女性のトータルヘルスケアのリーディングカンパニーであり続けるべく、健康支援事業に積極的に取り組んでいます。
当社グループ内においても2020年より企業アイデンティティを活かしたテーマを定め、検査から、体質改善のための食事提供や医療情報の提供、学びの環境整備等をグループ全社共通で実施し、不定愁訴の早期発見とヘルスリテラシーの底上げを図っています。
「コーポレートアイデンティティ企画」として周知しているこの施策は当社グループの特徴的な健康経営施策であり、現在までに甲状腺機能、フェリチン値、乳がん・子宮がん等をテーマとして取り上げ、グループ従業員から高い満足度を得ています。
あすか製薬ホールディングス
株式会社
グループ経営管理本部
グループ人事部 給与・労政課
課長 幡野 隆志 さん
幡野さん ▶
当社グループでは、各社のステージに合わせ「健康維持・増進」と「働き方改革」の両輪から健康経営の取り組みを進めています。最終的な健康経営目標は、プレゼンティーズムの改善とエンゲージメントの向上としています。中核子会社となるあすか製薬では、グループの中でも一歩進んだ取り組みとして生活習慣(運動・睡眠・食事・喫煙・飲酒・メンタルケア)の改善とワークエンゲージメントに数値目標を掲げ、2025年の達成を目指しています。
「働き方改革」については、多様で柔軟な働き方に注力しており、新型コロナウイルス感染症の流行を機に工場勤務を除いた全従業員にフルフレックスを導入しました。最低就業時間を満たせば自由度の高い働き方が可能となる設計となっています。また時間単位の有給休暇制度も導入しており、中抜けも1分単位でできるほか、在宅勤務の制限も設けていないため、性別にかかわらず、育児・介護・治療との両立が可能となっています。
あすか製薬ホールディングス
株式会社
グループ経営管理本部
グループ人事部 給与・労政課
係長 稲生 久美 さん
稲生さん ▶
「健康維持・増進」の施策については、健診の有所見率が約7割であることから、診療室の産業保健スタッフから手厚いアプローチを個別実施しています。血糖、血圧、脂質異常に加え、身体活動量が少ない従業員が多いことが課題です。これらの情報は当社が加入する東京薬業健康保険組合からご提供いただく『ヘルスケアレポート』から分析しています。従業員の健康状態や生活習慣の課題がひと目で理解できるよう工夫されていて、健康経営を推進する上で非常に有意義な資料です。これに加えて社内調査の結果をクロス集計し分析することでさまざまな課題を把握し健康経営施策に反映しています。
渡辺さん ▶
東京薬業健康保険組合は今年で設立67年。加入事業所は1500を超え、加入者は約45万人にのぼります。その中にあって、あすか製薬はトップクラスの健康管理を実践されています。健保組合には健診等データの蓄積がありますが、いかに活用するかがポイントだと思っています。加入事業所の健康管理に役立てていただけるよう、情報交換しながら、データを提供しています。
小山さん ▶
『ヘルスケアレポート』は加入事業所ごとに健診結果と医療費の状況をまとめたもので、毎年、加入事業所に提供しています。昨年度リニューアルを図った際に意見交換を重ね、改良していきました。提供している私たちの側は満足していても、受け取る側の目線で見ると分かりにくい表記など課題は複数あり、貴重な機会となりました。また、属性ごとのデータ提供などの要望にも対応しています。
藤野さん ▶
健保組合としては、各社の健康管理に貢献できるよう、可能な範囲で健診データをお渡しする方針です。受診率や特定保健指導実施率、問診などのデータを電子媒体で提供しています。
──従業員の行動変容と家族の見守りに期待
小山さん ▶
当組合健康開発センターで実施した二次検査の案内・結果については、これまで事業所に送付していましたが、コロナ禍でテレワークが浸透したことに対応し、被保険者の自宅直送に切り替えました。再検査や特定保健指導の対象になった場合も同様に自宅に送付しています。
稲生さん ▶
当社診療室でも健診後の保健指導や、再検査等の受診勧奨を従業員ごとに実施していますが、自宅に通知を送付いただくことで、会社と家庭で一体となって健康管理ができるようになると期待しています。特に特定保健指導については途中脱落が課題ですので、家庭からの見守りは従業員の意識付けとして有効だと考えています。
東京薬業健康保険組合
専務理事 渡辺 智明 さん
渡辺さん ▶
私自身が特定保健指導の対象者になった際に、〝毎朝体重を測ってください〟と指導されて実践したところ、次第に体重が減少しました。変化が見えると興味深く、今では体重測定は習慣になりました。
小山さん ▶
『ヘルスケアレポート』でも紹介していますが、愛知県蒲郡市で「体重測定100日チャレンジ!」を実施して体重が減ったという記事がありました。本当か否か健保組合でも試してみたところ、見事に体重が減りました。毎日記録していると、体重が増えると気になって、なぜ増えたんだろうと振り返り、その原因に気付いて、自身で調整しようとする意識が芽生えるのですね。
稲生さん ▶
特定保健指導を受けている従業員のほとんどは運動指導を受けており、当社全体の課題としても「運動不足」が挙げられます。肥満を予防するためにも東京薬業健康保険組合の年2回の「Webウォーキング大会」やスポーツイベントへの参加をグループ全体で推奨しています。
東京薬業健康保険組合
企画部 企画課 課長
小山 博 さん
小山さん ▶
Web ウォーキング大会は部署対抗で競って成果をあげている事業所もあります。
幡野さん ▶
グループ全体で会社対抗、部署対抗などコミュニティを作って実施すれば、コミュニケーションの活性化にもつながりさまざまな副次的効果が期待できますね。現在は個人参加となっているのでぜひ参考にしていきたいと思います。
──従業員とその家族、さらには社会全体のウェルビーイングを目指す
稲生さん ▶
私たちは2018年に健康経営宣言を内外に発信しましたが、それ以前は安全衛生を中心として従業員の心と体の健康維持・増進を進めてまいりました。生命関連企業であるため健康に関する従業員のリテラシーは高く、健康診断およびストレスチェックの受検率は100%を継続しています。
近年は「コーポレートアイデンティティ企画」により従業員の認知度も向上し、健康経営のインナーブランディングにも効果が見受けられます。
医療用医薬品を取り扱う企業として医療従事者との関わりも深く有益な情報が得られるため、今年度から従業員の家族に対し学びの環境を提供する試みを開始しました。検査のみで完了せず、関連する疾病についての講演会でリテラシーを高め、予防のための行動変容につなげることを重視しています。
具体的に今年度は子宮頸がんの検査を導入したため、子宮頸がんワクチンをテーマに、家族も参加できる講演会を開催し、中学生とその保護者が参加しました。今後は家族へのアプローチも増やし、従業員とその家族が健康となるよう視野を広げた施策を検討してまいります。
渡辺さん ▶
まさに今、お話があったご家族の健康は、健保組合にとっても大きな課題です。被扶養者の特定健診受診率は約45%で、これをいかに上げるかが課題の1つです。健診等の情報はどうしたらご家族に届くのか。ぜひ、事業所と健保組合のコラボで進めていければと思っています。
東京薬業健康保険組合
健康開発センター 健診部
予防課 予防第一係長
藤野 篤史 さん
髙橋さん ▶
当社グループは、中核子会社であるあすか製薬の健康経営を好事例として、グループ全体の底上げをしてまいります。自身の健康を価値あるものと考えて自ら行動できる従業員や、心身ともにエネルギーが充実していきいきと働く従業員が増えることを願って、健康経営の取り組みが会社と従業員とその家族、そして社会全体のウェルビーイングにつながることを目指していきます。
渡辺さん ▶
健保組合としても、来年度からデータヘルス計画が第3期目に入ります。あすか製薬ホールディングスをはじめ、加入事業所とのコラボを強化し、加入事業所内で健康経営を広めるためのお手伝いを、ご要望をお聞きしながら展開していきたいと思います。