健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
住友生命保険相互会社
“住友生命「Vitality」”を通じて健康寿命を延伸し社会課題の解決に取り組む
1907年の創業以来、生命保険事業を通じて多くの人の人生を支えることを使命としている住友生命保険相互会社は、2018年の健康増進型保険“住友生命「Vitality」”(以下、「Vitality」)の発売を契機に健康経営の取り組みを強化し、6年連続で「健康経営優良法人(大規模法人部門)〜ホワイト500〜」の認定を受けている。また、Vitalityを通じて、職員のみならず、社会全体の健康維持・増進、健康寿命の延伸を図り、社会課題の解決に取り組むことを掲げている。その一例を挙げると、コラボヘルスとして、企業と健保組合で健診データの共同利用を行い、健康状態と将来の疾病リスクの相関関係の分析等を行うことで、医療費適正化に取り組んでいる。
同社の取り組みについて、住友生命保険相互会社の人事部次長兼福利厚生室長(住友生命健康保険組合常務理事)の伊藤裕美さん、住友生命保険相互会社人事部(福利厚生室)上席部長代理の神田貴之さん、住友生命健康保険組合事務長の三上竜也さんに話を聞いた。
【住友生命保険相互会社】
設 立:1907年5月
本 店:大阪府大阪市中央区城見1-4-35
代表執行役社長:高田幸徳
社員数:44,049人(2022年度末現在)
2017年4月に「住友生命グループ健康経営宣言」策定(2021年7月改定)
──健康増進型保険の発売を契機に健康経営の意識醸成
住友生命保険相互会社
人事部次長兼福利厚生室長
(住友生命健康保険組合常務理事)
伊藤 裕美 さん
伊藤さん ▶
住友生命保険相互会社は、2017年4月に「住友生命グループ健康経営宣言」を制定し、2021年7月に改定しました。1人ひとりの職員が個々の能力をいきいきと最大限に発揮するためには、まずは職員自身やその家族が心と体の健康を大切にし、「ウェルビーイング」であることが非常に重要であるとの考えを掲げています。
「健康経営宣言」の制定のきっかけとしては、2018年に発売したVitalityの開発があります。この保険の発売を見据え、社内でも「健康経営を推進しなければならない」という意識が醸成されていきました。
Vitalityは、お客さまが健康増進活動に取り組むことにより、さまざまなメリットを享受できる保険です。例えば、健康診断を毎年受診して、その結果をアップロードすることや、スポーツイベントへの参加、フィットネスジムの利用、ウェアラブルデバイス等で計測した日々の歩数などに応じてポイントを獲得し、累計ポイントに応じて判定されたステータスに連動して、保険料割引や各種特典(リワード)を利用することができます。
なお、住友生命では、「社会公共の福祉に貢献する」とのパーパスのもと、果たすべき使命として「サステナビリティ経営方針」を定め、その実現に向けた目指す姿として「住友生命グループVision2030」(以下、「Vision2030」)を策定しています。
Vision2030では、2030年時点のありたい姿を、「ウェルビーイングに貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」とし、その実現のため、Vitalityを核とした先進価値で、保険や健康増進といったお客さまのニーズに応えていく領域はもとより、地域創生や地球環境といった社会課題の解決にも積極的に取り組んでいくことを定めています。
さらに、ビジネスパートナーや従業員といった全てのステークホルダーのウェルビーイングを支える取り組みを進め、1人でも多くの方の「よりよく生きる」に貢献し、持続可能な未来の実現を目指すこととしています。Vision2030では、目指すべき目標として、「ウェルビーイング価値提供顧客数2000万人、うちVitality会員数500万人」を設定しています。
このように、Vitalityを核とした保険領域はもちろん、非保険領域においても、お客さまの健康維持・増進を応援し、健康寿命の延伸という社会課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。
これらの取り組みを進めていく上では、私たち職員1人ひとりが健康に対する「意識」と「行動」をしっかりと身に付け、健康である必要があります。このため、企業と健康保険組合が協力して、職員やその家族の健康維持・増進活動に取り組む健康経営を推進することで、1人でも多くの人の「よりよく生きる」ことに貢献すること、持続可能な未来の実現を目指しています。
住友生命保険相互会社
人事部(福利厚生室)
上席部長代理 神田 貴之 さん
神田さん ▶
健康経営の推進体制については、人事部門に「健康経営推進事務局」を設置し、健保組合や、産業医・保健師との連携を行うなど、健康経営に関する事項全体の取りまとめを行っています。
「健康経営推進事務局」のもと、職員の健康維持・増進の推進のみならず、Vitalityを通じたお客さまや社会の健康維持・増進も健康経営の1つであると考えていることから、Vitality等の保険の販売部門や、普及啓発に関連する部門とも連携して取り組みを進めています。
併せて、全国の支社においても支社長、総務部長等が中心になり、各支社の健康経営の推進体制等について検討する「健康管理推進委員会」を定期的に実施しています。
──特定健診・保健指導の受診率向上でコラボヘルスに尽力
伊藤さん ▶
住友生命は、「健康経営優良法人(大規模法人部門)〜ホワイト500〜」に6年連続で認定されています。
健康経営の主な取り組みについては、メイン指標として、「定期健康診断における2次健診対象者占率30%未満」を掲げています。2022年度は27.2%となり、2021年度の28.2%、 2020年度の29.0%と目標を達成するだけでなく、年々減少となっております。
モニタリング指標としては、「定期健康診断の1次健診受診率100%」、「2次健診受診率70%」、「特定健診受診率81%」、「特定保健指導完了率30%」、「喫煙率の前年比改善」、「ウオーキングキャンペーンの参加者前年比増加」を設定しています。
定期健康診断の1次健診受診については、2021年度に100%を達成し、2022年度もそれに続きました。一方で、2次健診受診は課題となっており、人事部から受診率向上に向けて強く働きかけを行っています。2022年度の2次健診受診率は62.9%で、目標の70%には届いていないものの、2021年度の60.6%よりも改善しています。引き続き、受診率向上に向けた働きかけを継続していきます。
喫煙率については、約24%と高く、大きな課題であると認識しています。とくに、住友生命は全体の9割が女性職員ですが、女性の喫煙率も全国平均より高いことが課題です。このため、従来は社内禁煙の日を月に1回「22日(スワンの日)」のみとしていましたが、2022年度より「1日、10日、22日」の月3回に増やしました。大阪本社では、屋内喫煙所を毎月22日前後の1週間閉鎖するなどの取り組みも行っています。
このほか、禁煙に向けた教材等を作成するとともに、社内報で禁煙に挑戦する職員の日々の取り組みを共有しています。また、月に1回、健康増進アプリを通じて、禁煙に関する情報の発信も行っています。
この健康増進アプリでは、定期的に健康に関する情報を配信しています。健診結果等も配信され、その健康状態に応じた関連度の高い情報が表示されるような仕組みになっています。
住友生命健康保険組合
事務長 三上 竜也 さん
三上さん ▶
特定健診受診率については、目標81%であるのに対し、2021年度の実績値は78.6%となっています。特定保健指導の指導完了率は、目標値30%に対して、2020年度は33.4%、2021年度は44.6%となるなど、目標を達成することができました。
定期健診の受診率が特定健診・保健指導の受診率向上につながり、特定健診・保健指導の受診勧奨を行うことで、加入者の健康管理の習慣付けと意識の向上につながることから、力を入れて取り組んでいます。
このため健保組合では、コラボヘルスの一環として、事業主経由で対象者に特定健診・保健指導の受診勧奨を行っています。対象者にとっても、受診することが最良の選択であるため、健保組合の理事長と人事部長の連名で受診勧奨を行うなどの取り組みも行っています。
被扶養者への特定健診・特定保健指導の受診勧奨についても、今後はより一層力を入れていきたいと考えています。現在は、健診受診の重要性等をお伝えし、受診を促す資料が各家庭に届くようにしているほか、被保険者に被扶養者の健診受診が重要であることを啓発するようにしています。
また、健保組合が主催するウオーキングキャンペーンについては、毎年5月と11月に1カ月間開催し、期間中は1日8千歩以上歩くことを目標としています。社内で1チーム10人を上限に集まり、そのチームごとの歩数の合計や、1人当たりの歩数等を競い合います。チーム内でコミュニケーションを取りながら、健康に関する意識付けや働きかけを行うきっかけになることから、グループ全体でも定着しつつあるイベントです。
2020年度は、コロナ禍のため秋のみイベントを開催しましたが、参加者は1万2413人となりました。2021年度の参加者は延べ2万1197人で、2022年度には延べ2万2075人となるなど、「前年比で増加」という目標を達成しています。
神田さん ▶
健康リスクの軽減に向けた取り組みとしては、長時間労働の抑制と働き方改革にも取り組んでいます。テレワークや、「フレックスタイム制」などの柔軟な働き方を推進するとともに、全社的に業務の効率化に取り組んでいます。さらに、年次有給休暇を月1日以上取得するようにする「イキイキ休暇12運営」を推進しています。
──定期健診データを分析し将来の疾病リスクを啓発
三上さん ▶
40歳未満の健診データについては、企業と健保組合で共同利用できるようにしています。その上で、40歳未満の若年層においても、必要に応じて特定保健指導と同様の指導を受けることのできる体制を構築しています。
健診データを事業主と健保組合で共同利用する上では、健保組合の保持するレセプトデータと合わせて分析を行い、高リスク者を抽出して重症化予防の取り組みを行っています。とくに、糖尿病のリスク保有者への個別受診勧奨を行っているほか、心筋梗塞や脳梗塞のリスク保有者には、委託業者による状態の改善に向けたプログラムを実施しています。
伊藤さん ▶
また近年、現在の健康状態と将来の生活習慣病などの疾病リスクの相関等に関する健診データの分析も開始しました。これらの分析により明らかになった課題について、企業と健保組合で協力して対応していく必要があります。
医療費の将来的な抑制に向け、若年層から健康維持・増進に取り組む必要があります。新型コロナウイルス関連の医療費等の影響もあり、昨今医療費の増加がみられることから、保健事業を推進することで加入者の皆さまに健康になっていただき、医療費削減を進めたいと考えています。その際には、現状の健康状態と将来の疾病リスク、さらには医療費との相関関係について、加入者の皆さまにも周知していきたいと考えています。
神田さん ▶
ストレスチェックについても、今年度は委託業者を変更したことで、健診データや勤怠データと合わせたクロス分析や、業務パフォーマンスの把握などさまざまな分析が行えるようになりました。今後は、受検勧奨を強化するとともに、分析により明らかになってきた課題についても対応していきたいと考えています。