健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
ヤマトシステム開発株式会社
心身両面の健康増進に主体的に取り組む風土づくりに向けて
ヤマトシステム開発株式会社はヤマトグループ健康保険組合に加入する、社員約2,700人のIT企業。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」「社員よし」の「四方よし」を掲げ、健康経営に取り組んでいる。平均年齢は38歳と比較的若いものの、コロナ禍による働き方の変化に伴いコミュニケーション不足や運動不足が増え、メンタルヘルス不調や肥満の増加など心身の健康課題が浮上してきた。そうした健康課題への対応も含め、同社の健康経営の取り組みについて、ヤマトシステム開発株式会社デジタル管理本部人事戦略部健康増進マネジャー・大森純平さん、保健師・舩田未来さん、小島弘さん、瀧澤正喜さん、田中智子さんに話を聞いた。
【ヤマトシステム開発株式会社】
設 立:1973年1月20日
本 店:東京都江東区南砂2−5−15
代表取締役社長:栗丸信昭
社員数:2,696人(2023年3月末現在)
2012年に「ヤマトシステム開発健康宣言」を制定
──健康優良企業認定からスタートした健康経営
ヤマトシステム開発株式会社
デジタル管理本部
人事戦略部健康増進
小島 弘 さん
小島さん ▶
当社の健康経営は、2010年にヤマトグループの健康宣言が発信され、それに対してどのように取り組んでいくかを検討する専門チームが2012年につくられたのが始まりです。具体的に何に取り組めばよいのか、健康保険組合連合会東京連合会が推進している「健康優良企業」の「銀の認定」を取得するための要件を参考にしました。そして、「ヤマトシステム健康宣言」を定め、生活習慣病への取り組み、メンタルヘルスへの取り組み、禁煙への取り組みを開始しました。「銀の認定」を取得後、「健康経営優良法人大規模法人部門」の認定を受け、その後、「健康優良企業」の「金の認定」を取得。ヤマトグループ健保組合と連携を図りながら、健康経営の取り組みをステップアップさせてきました。
昨年からは、健康宣言の前に、経営トップのメッセージとして「四方よし」を加えました(表1)。「四方よし」とは、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」は、社員が心身ともに健康でイキイキしていないと実現できない、つまり「社員よし」が全ての土台であるという栗丸社長の思いを表しています。
【表1】ヤマトシステム開発のトップメッセージ
ヤマトシステム開発株式会社
デジタル管理本部
人事戦略部健康増進
マネジャー 大森 純平 さん
大森さん ▶
当社の社員の平均年齢は38.3歳と比較的若く、20歳代から40歳代の男性が多い構成となっています。従来からテレワークを導入していましたが、コロナ禍によってテレワークでの働き方が増えました。こうした中でコミュニケーションの問題が顕在化してきています。長く働いているベテランは仕事の進め方も分かっているし人間関係が構築されているので問題ないのですが、コロナ禍以降に入社した社員は仕事にも慣れていない、人間関係もできていない状態でのテレワークで、仕事で分からないことを聞こうと思っても誰にどのタイミングで聞けばよいか分からなかったり、ためらったりしてしまって、誰にも相談できずメンタルヘルス不調になってしまうケースが見られるようになりました。そうした状況をなくすのが喫緊の課題であることから、メンタルヘルス対策を重点課題として取り組んでいます。
小島さん ▶
メンタルヘルス不調はコロナ禍で増えたというより、これまでは「いつもと違う」状態に早めに気付いて声掛けができていたのが、直に接する機会がなくなり、細やかに目が行き届かなくなって不調に気付くのが遅れてしまっている状況があるのではないかと思います。オンラインのミーティングでは顔を出すように働き掛けたり、1on1ミーティングを推奨したりしています。1on1ミーティングは5年ほど前から推奨してきたものですが、コミュニケーションのきっかけづくりとしてさらに活用をすすめていこうと考えています。
──若年層の肥満が課題特定保健指導実施率は97%
ヤマトシステム開発株式会社
デジタル管理本部
人事戦略部健康増進
保健師 舩田 未来 さん
舩田さん ▶
テレワークが定着する中で、身体面での健康課題の1つが若年層の肥満です。朝から晩まで自宅でほとんど動かず、食事も毎日カップラーメンなど手軽なもので済ませる、という生活が〝普通〟と思っている方が増えています。BMI25以上が肥満とされますが、BMI30や40という方が多いのです。ただ、年齢が若く健康診断で血圧や血中脂質等のデータに異常は出ているわけではないので、多くの方が生活習慣病予備軍という認識が低いと感じます。このままでは50歳代、60歳代になったときに脳血管疾患や心臓疾患で倒れるリスクが非常に高いと感じています。ヤマトグループ健保組合とも連携して、家でできる、しかも座りながらできるストレッチなど、2〜3分の短い動画を配信していく予定です。肥満へのアプローチは今後の課題であり、健康づくりに主体的に取り組む風土づくりが必要だと思っています。
小島さん ▶
当社では毎年、全社意識調査を実施しており、自覚症状や健康意識なども調査しています。その中で睡眠に関する悩みがかなり多いことが分かり、BMI25以上で睡眠の悩みがある方への健康支援として、一昨年から睡眠時無呼吸症候群の簡易検査による睡眠状態のチェックとフォローを実施しています。希望者に簡易検査キットを送付して、検査の結果、要治療となった方には医療機関受診をすすめています。検査結果は個人に送られると同時に、保健師が結果を確認して、必要に応じて面談をしたり、受診勧奨を行い、要治療の場合は確実に精密検査を受けるよう強く働き掛けたりしています。睡眠は健康の基盤ですから、良質な睡眠をとってもらうために、ここ数年、力を入れて取り組んでいます。
ヤマトシステム開発株式会社
デジタル管理本部
人事戦略部健康増進
瀧澤 正喜 さん
瀧澤さん ▶
健康診断で有所見となった方への受診勧奨も昨年から強化しています。毎年、有所見者に受診勧奨を行い、受診の結果(服薬や生活習慣改善指導を受けたなど)を報告してもらっています。これまで郵送で行っていたのを、ウェブからも報告できるようにしたところ、受診勧奨後の医療機関受診率は80%超となりました。
舩田さん ▶
二次元バーコードを読み取るとフォームが表示され、受診後の待ち時間などで記入して送信することができるので、スマートフォンからの報告がとても多くなっています。
瀧澤さん ▶
特定保健指導も対象者全員が受けることを目指して働き掛けています。対象者から欠席の連絡が入ったら、必ず翌日までにフォローを入れて、対象者の上司とも連携を図り、取りこぼしのないようにして、特定保健指導実施率は約97%となっています。
小島さん ▶
ほかにも、健保組合と連携している取り組みとしては禁煙施策があります。ヤマトグループは喫煙率が高く、健保組合では昔から禁煙推進に力を入れています。当社の喫煙率はヤマトグループの中では低いほうで、現在約20%です。健保組合の方と意見交換をしながら、健保組合の事業も活用して、禁煙推進に取り組んでいます。
舩田さん ▶
健保組合の保健師さんと連携を図って、今年は、5月31日の世界禁煙デーに、健保組合が作成した、禁煙の必要性や受動喫煙の害などをまとめた3分動画を配信して、禁煙を呼び掛けました。
──職場環境改善に一歩踏み込み 主体的に取り組む土台づくり
舩田さん ▶
メンタルヘルス対策として今年から職場環境改善にも取り組んでいます。昨年までにメンタルヘルス不調で休職した方の原因分析を行ったところ、業務量が多いことが原因となっていても、実は背景には、人間関係がうまくいっていないなど、業務以外の原因があることが分かりました。そこで、改めて部署ごとに休職要因を分析して、部署の傾向や特色、対策のアドバイスをまとめて、各部署の管理職に対してフィードバックしていくことにしました。たとえば、若手社員が相談しづらいと感じている傾向のある部署には、1on1で顔を出して話をする、若手と話す機会をもっと増やすなど、管理職の方の話も聞きながらアドバイスをしています。
大森さん ▶
これまで、ストレスチェックの集団分析の結果のフィードバックはしていましたが、部署ごとへのアプローチはしていなかったため、今年から行う予定です。月に1回、部長以上が参加する「働き方創造委員会」でこれらの取り組みの説明を行い、了承を得るとともに、理解と協力を仰いでいます。
舩田さん ▶
実際に管理職の方と話をしてみると、身体の健康やメンタルヘルスに関することは触れてはいけない、話してはいけないと思っている方が多い印象を受けました。私たちより上司の方のほうが身近で話しやすい立場なんですよ、といったことをお伝えすると納得されて、他人事ではなくご自身の部署のこととして取り組んでいただけるようになっていると感じます。上司の方への支援にもなればと思い取り組んでいます。
ヤマトシステム開発株式会社
デジタル管理本部
人事戦略部健康増進
田中 智子 さん
田中さん ▶
管理職の方は職場のメンタルヘルス対策において重要な役割を担っています。ラインケアの重要性を今一度認識していただくために、今年度から管理職向けのeラーニングを実施する予定です。
舩田さん ▶
これまでの取り組みを通じて、相談しやすい環境づくりはできてきたと実感しています。今後は、職場が自主的に健康増進に取り組むような風土づくりにつなげていきたいと考えています。
小島さん ▶
健康経営を推進していくキーマンは管理職ですので、自身が管轄する部署の社員の健康管理・健康増進も、社員の成長を促すマネジメントの1つであることを明文化することが必要だと思っています。加えて、健康経営にどれだけ貢献しているかを、管理職の評価項目にするような仕組みも必要だと思っています。
大森さん ▶
これまではわれわれ、健康経営を推進するチームからの発信がメインとなっていましたが、今後は現場の社員の皆さんも一緒に考えて、心身の健康のために主体的に取り組んでいただけるようにサポートしていきます。これが根付いて当たり前となるよう、今期は土台づくりをしていきたいと考えています。