健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
出光興産株式会社
経営の原点である「人間尊重」をベースに健康経営を推進
石油製品の製造・販売を中心とした「エネルギーの総合企業」である出光興産株式会社は、「健康経営銘柄2022」に選定され(初選出)、「健康経営優良法人2022(ホワイト500)」に認定されている(「健康経営優良法人」の認定は2018年から5回連続)。同社では、健康経営を、人が中心の事業経営の一環と捉え、社員の健康推進、働きやすい環境の整備、また健保組合とのコラボヘルスとして特定健診・特定保健指導の実施や運動プログラム、糖尿病重症化予防等の保健事業を推進している。同社の健康経営の取り組みについて、出光興産株式会社人事部人事サポート課担当マネージャーの岡﨑宏さん、出光興産健康保険組合事務長の岩永大地さんに話を聞いた。
【出光興産株式会社】
設 立:1940年3月(創業1911年6月)
本 社:東京都千代田区大手町1-2-1
代表取締役社長:木藤俊一
従業員数:連結1.4万人(2021年3月末時点)
2021年10月に出光グループで「健康経営宣言」
──会社統合に合わせて21年4月に健保組合を合併
出光興産株式会社
人事部人事サポート課
担当マネージャー
岡﨑 宏 さん
岡﨑さん ▶
当社では、創業当時より「人間尊重」を経営の原点として、「事業を通じて人を育てる」ことを究極の事業目的としてきました。この考えをもとに、当社は社員の健康維持・増進のためのさまざまな取り組みを行ってきました。「健康経営優良法人」には、2018年から5回連続で認定されています。認定の取得を念頭に取り組んだわけではなく、日々取り組んでいることに対する結果として認定されたのだと感じています。
健康経営については、「社員のフィジカル・メンタルの健康管理・健康推進」を土台として、社員を取り巻く会社全体の「働きやすい環境整備」そして「PDCAを回していく仕組み」を三本柱と考えています。例えば、環境整備については、ハード面では働きやすい事務所環境、ソフト面ではフレックスやテレワーク等の柔軟な働き方などの制度面、そしてD&I(ダイバーシティ& インクルージョン)や女性活躍、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進などを含めた風土醸成といった取り組みも健康経営の1つと位置付けています。
もちろん土台である従業員に対する健康管理・健康推進については、例えば手厚いメンタルヘルスケアの仕組みや、フィジカル面では徹底した保健指導も行っています。PDCAについては従業員のエンゲージメントを測る「やりがい調査」や「ストレスチェック」を継続し、両者の結果を職場へフィードバックし、職場風土改善の活動へつなげています。
なお、19年4月に、出光興産と昭和シェル石油は合併しました。その際、異なる文化を持つ会社が1つになるという苦労はありましたが、「人が中心」という根本の考えはお互い通ずるものがありました。今でもその考えは継続しています。
出光興産健康保険組合
事務長 岩永 大地 さん
岩永さん ▶
出光では、人を育てることが事業目的そのものであるため、その中の1つの部分が健康経営であると捉えています。当健保組合の大きな特徴として、退職者も継続して加入できる「特例退職被保険者制度」があります。出光興産健保組合はその制度の第1号の健保組合ですが、これもOBを含めて「人を大切にする」という企業理念によるものです。
母体企業の合併を受けて、両者の健保組合では、21年4月に合併が実現し、出光興産健保組合となりました。それぞれの旧健保組合においては、出光には特例退職被保険者の制度があり、昭和シェルには付加給付が充実していることなどの特徴がありました。被保険者へのしっかりとした説明を行い、納得を得た上で合併をする必要がありましたが、比較的スムーズな合併ができたのではないかと思います。
さらに、合併に際しては、実務の擦り合わせを行うことに加えて、「基本方針」の策定を行いました。最初に目指すべき方向を示す「基本方針」を定めることで、何か判断に迷いが生じたときに立ち返ることのできる原点をつくりました。
具体的には、「ミッション」として、「加入者・事業者にとって何が必要かを常に考え、保険給付・保健事業を通じて貢献すること」を掲げました。その上で、①加入者に対して、入社から勇退後にわたって健康をサポートし、「安心」を提供すること、②事業主に対して、積極的に情報・サービスの提供を行い「健康経営」に貢献することを掲げ、これらの実現に向け、長期的な視点に立ち、先進的かつ安定したサービスを継続して提供することを基本的方針としました。
──保健職からの積極的声掛けで保健指導や糖尿病予防を実施
岩永さん ▶
もともと、企業と健保組合で一体的に健康経営を行うことが当たり前の環境にあるため、コラボヘルスの実現に障壁はあまり感じません。一方で、企業と健保組合の役割分担について考えてみると、働きかけを行う対象者が異なることが挙げられます。企業は従業員への働きかけを行うことになりますが、健保組合はそれに加えて被扶養者や、OBとその扶養者を対象とすることになります。
出光では、全国の事業所内の医務室に産業医計18人、保健師・看護師計19人を配置しており、コラボヘルスを進める際にはこれらの方々との連携が重要です。健保組合が実施したいと考える取り組みは、基本的に事業所を通じて実行することが大半を占めます。健保組合が希望ばかり打ち出しても、事業所側の優先順位もあり対応が難しいこともあるため、双方の考え方を調整していく必要があります。また、各事業所への取り組み実施のお願いはするものの、できる限り現場に手間をかけさせないよう、健保組合があらかじめ枠組みを整えるようにしています。
コラボヘルスとしては、特定健診・特定保健指導の実施にはじまり、運動プログラムの実施、被扶養者やOBの健康診断受診に向けた事業所への協力要請、各事業所での歯科健診の実施、インフルエンザ予防接種の実施等が挙げられます。最近では、新たに糖尿病重症化予防のトライアルも行いました。
特定健診・特定保健指導については、事業所も多く、OBや被扶養者の存在も多いことを踏まえると、どうしても実施率向上の取り組みを一律に行うことは難しく、まずは従業員の実施率を優先的に引き上げることに注力しています。
岡﨑さん ▶
特定保健指導については、事業所の保健職・人事担当・健保組合がタッグを組み進めています。対象の従業員に対して保健職から「しっかりと保健指導を受けて下さい」ということを発信しています。さらには保健指導の初回面談日程もあらかじめ保健師がスケジューリングし、それに従業員が応じる形となっています。健保組合から発信するより、身近な保健職から声掛けすることで、ほぼ全員が指導に参加する事業所が増えました。また、指導結果については、毎年各事業所保健職・人事担当を含めたフィードバック報告会を行っています。タッグを組んで進めることが重要だと考えています。
最近はアプリなどのオンラインツールも活用し、保健指導等への参加モチベーションも向上しています。
補足ですが、がん検診については、健康診断の中に組み込んでいるため、従業員はほぼ100%受診することになります。また、健診の結果、要精密検査の結果が出た場合には、二次検査受診まで、対象者全員へ保健職らによるフォローアップを行うことも特徴です。
岩永さん ▶
運動プログラムについては、外部に委託して作成した独自のパッケージを、健保組合から各事業所に提案しています。事業所は、このパッケージの中から実施するプログラムを選び、健保組合に申請します。意識の差はありますが、保健職が常駐していない事業所や関連会社も積極的にプログラムに取り組んでいる印象です。新型コロナウイルスが流行してからはこの運動プログラムを実施できていませんが、開催を望む声は多く寄せられています。関連して、健康応援サイト「KENPOS」を通じたウオーキングイベントも行っています。なお、運動プログラムを行う際、「部署対抗のゲーム形式にするか否か」、「景品を用意するか、何にするか」などの具体的な運用については、各事業所で独自に考えてもらっています。
21年度から新たに始めた糖尿病重症化予防の取り組みでは、服薬等の段階には至っていない糖尿病予備群の社員を対象に、食前食後の血糖値の測定や、委託先の保健師による目標設定と保健指導を行いました。血糖値を上げない食事の仕方と運動について指導を受けることで、少し頑張って継続すれば効果を上げることができるという〝気付き〟を得ることができます。この取り組みの実施について各事業所に呼び掛けたところ、保健師から従業員への積極的な働きかけを行っていただき、全部で12人に取り組んでもらうことができました。
岡﨑さん ▶
保健職メンバーは、「自分が社員を守っている」という意識がとても強く、結果として保健職の積極的な働きかけに社員が応える形で、さまざまな取り組みが実現しているように感じます。また、保健職が常駐していない事業所・関係会社等においても、役職層に対して必要性などを丁寧に説明すれば、しっかりと取り組みを進めてくれるという感触があります。
このほか、禁煙や喫煙率低下にも取り組んでいます。毎月22日を「スワンスワン(吸わん吸わん)の日」として、就業時間内の禁煙活動を実施しています。先日の22年2月22日は「ビッグスワンスワンの日」として、通常の取り組みに加え、産業医の講話等を実施しました。
──若い世代の健康意識を醸成し理解を深化
岡﨑さん ▶
以前から人事部門や健保組合が健康に関するさまざまな取り組みを考え進めてきました。ただ結果として、どちらかというと従業員は、健康への意識を持つというより〝守られている〟状態になっている気がします。仕方がありませんがついつい仕事に没頭し過ぎてしまうことも多々みられます。従業員が自律的に健康管理をすることの大切さを、意識する機会を少しでも増やすことが必要と考えています。
岩永さん ▶
身体が悪くなり、入院等をしたときに初めて健保組合のありがたさが分かるという人が多くいます。40歳代以降の従業員は比較的健康意識が高く、運動をして食事に気を付けている人も多いように感じますが、若いうちから健康への意識を持たせることが課題です。現場の保健師もこの点に問題意識を持っている方が多く、30歳代にも働きかけをしたいという声もあります。健保組合としては、そのような声に少しでも協力し健康経営に貢献するとともに、結果として医療費の削減につなげていくことが、本当のコラボヘルスではないかと考えています。
引き続き、被扶養者、OB等の健診受診率向上等に向けた働きかけの強化や、給付の一層の効率化、DXの推進等も今後の課題です。なお、21年度は、健保組合の合併もあり、いかに円滑に実務を行うかが最重要課題でした。22年度は、合併した健保組合として、今後中長期的に何を目指していくのか、そのためにどのようなことを行うのかということを検討していきたいと考えています。