健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

味の素株式会社

全員面談をベースにセルフケアを支援する健康施策を展開

2017年から4年連続で「健康経営銘柄」に選定されている味の素株式会社。定期健診後に実施する全社員を対象とした産業保健スタッフによる「全員面談」を基盤に、セルフケアを支援する種々の健康施策を、同社の人事部と健康推進センター、健康保険組合が一体となって展開している。また、19年度には「味の素グループ『吸わない会社』宣言」を行い、受動喫煙防止対策を推進している。同社における健康経営の取り組みについて、味の素人事部労政グループ健康推進センター・健康経営担当の浅井誠一郎さん、同シニアマネージャーの菊地さや子さん、味の素健保組合常務理事の笠井丈彦さん、同事務長・神垣祐子さんに話を聞いた。

【味の素株式会社】
創 業:1909年5月20日
本 社:東京都中央区京橋1丁目15番1号
代表取締役社長:西井孝明
従業員数:3,494人(単体)、34,504人(凍結)

──経営課題を解決する健康経営の推進


味の素人事部労政グループ
健康推進センター・
健康経営担当
浅井 誠一郎 さん

浅井さん ▶

 当社は「Eat Well, Live Well.」〝おいしく食べて健康づくり〟という創業からの志で事業を展開してきました。健康寿命の延伸が重要な課題となる現在、2030年に向けて、当社をはじめ味の素グループは食と健康の課題解決企業として、あらゆる年代の毎日の食習慣の改善により、健康寿命の延伸に貢献すべく新たなスタートを切っています。例えば、世界的課題となっている「過剰な塩分摂取」と「加齢に伴う機能低下」。味の素は、アミノ酸の働きでこれらの課題解決に取り組んでいます。

 当社は、創業以来一貫して事業を通じた社会課題の解決に取り組んでおり、「事業活動を通じて社会価値を創造し、その結果として経済的価値を生む」ことで成長を続けてきました。この一連のサイクルを「ASV(味の素グループシェアードバリュー)」と呼び、推進しています。

 こうした大きな方針を踏まえて、経営課題を解決する健康経営を推進しなければならないと考えています。健康経営は、社員の心身の健康増進を図ることで経営基盤を強化し、事業活動を通じて個人と会社がともに成長し、ASVを通じたグローバルな成長の実現を目指しています。「自らのこころとからだが健康だ」と感じている社員の割合を80%以上にすることが20年度の目標です。

 健康経営推進の目的は「味の素グループで働いていると、自然に健康になる」です。社員のセルフケア能力を高めることを重視して、定期健診後に行う全社員を対象とした「全員面談」をベースに、種々の施策を展開しています。18年5月に「味の素グループ健康宣言」を行い、改めて健康経営の取り組みを整理して社員に発信しました。

菊地さん ▶

 健康経営は、健康推進センター、健保組合、人事部が一体となって推進しています。3者で月1回、健保組合と人事部の2者で月1回のミーティングを行い、連携を密にしています。健康推進センターは全国に6カ所あり、産業医9人、保健師・看護師13人が所属しています。


味の素健保組合常務理事
笠井 丈彦 さん

笠井さん ▶

 母体企業の健康経営をサポートする立場の健保組合側からみて、味の素の健康経営は経営層からの明確なメッセージがあり、かつ 〝全員面談〟という全社員をしっかりフォローする仕組みが出来上がっているところが強みだと思います。他健保組合の方がたからも「〝全員面談〟を実施しているなんてすごいね」というお褒めの言葉をいただきます。会社のビジョンに織り込まれている〝健康〟への取り組みが、健康経営の推進によってまさに具現化してきていると思います。

──年1回の全員面談と日々のセルフケア支援

浅井さん ▶

 全員面談は01年に、事業所の診療所を全て廃止し、予防に専念する体制に転換したのを機に開始しました。03年に健康管理規程を制定して、社員は心身の健康保持増進に努めることを規定し、健康推進センターを設置しました。

菊地さん ▶

 全員面談は健康推進センターの産業医や保健師等が毎年、健診やストレスチェックの結果をもとに、個々人の価値観や生活スタイルを尊重した面談を1人30分かけて実施しています。これによって自覚のない不調の発見や対応につながっており、何よりも社員との信頼関係が構築されています。

浅井さん ▶

 ただし、全員面談は1年に1回。生活習慣や健康状態は日々変わるので、それを自身でモニタリングして変化に気付いて生活改善につなげてもらうためのアプリ「カラダかわるNavi」を18年8月に導入しました。食事や活動量、睡眠状態等のデータを管理できるものですが、本人同意のもとで産業保健スタッフも保健指導に活用できるようにしています。今後、効率的・効果的な保健指導の実施に役立てる予定です。アプリの利用は社員に強制していません。重要なのは、本人が気付いたときに使えるツールが身近にあることです。その環境を整えるのが会社の役割だと考えています。

 食後の血糖値に着目して気付きを促す「適正糖質セミナー」を全国の事業所で展開するほか、5カ所ある社員食堂では栄養バランス等の統一基準を定め、自社製品も活用した健康メニュー「My Healthランチ」の提供を始めています。


味の素健保組合常事務長
神垣 祐子 さん

神垣さん ▶

 味の素社員の特定保健指導は、健康推進センターに委託して全員面談の仕組みを生かして実施しています。特定保健指導のモデル実施として、「適正糖質セミナー」を加えたプログラムも実施して効果検証を行っています。

──健康状態や勤務状況のデータを一元管理

浅井さん ▶

 18年12月には、1人ひとりが健康状態をモニタリングして最高のコンディションを維持していけるように、会社と健保組合の持つさまざまなデータを一元管理するシステムを構築し、健康状態を可視化できる仕組みを作りました。社員は「My Health」というサイトで、総労働時間や残業時間、有休取得日数などの勤務状況、健診結果、食事内容や歩数などのライフログデータ、医療費等をいつでも見ることができます。また、健康推進センターや健保組合のサイトにもリンクを貼り、健康に関する情報を集約して分かりやすくしました。

笠井さん ▶

 一元管理のシステム導入により、全年齢層の健診結果と医療データを分析できるようにしました。これまでも健保組合では、事業所ごとに医療費や健診データを分析して課題を抽出・整理し、解決策を提案してきましたが、新システム導入により、さらに多岐にわたって分析された詳細な「事業所レポート」が作成できるようになりました。今後はこれをベースに、各事業所に対して、より効果の高い施策を立案・実施していくことが可能になると考えています。

──「吸わない会社」を目指し受動喫煙対策に本腰

浅井さん ▶

 現在注力する施策の1つが受動喫煙対策です。20年度に就業時間内禁煙、屋内全面禁煙を実現し、非喫煙率88%を目指すため、19年5月に「味の素グループ『吸わない会社』宣言」を行いました。「意思をもって吸わない」ことをみんなで応援し、吸わない人を増やすことを目標にしています。メールマガジンの配信など、健保組合と連携して取り組んでいます。

神垣さん ▶

 受動喫煙対策は各事業所が工夫して取り組んでいますので、健保組合も外部の研究会活動で得た情報等を参考にしながら積極的に協力しています。19年1月からはオンライン禁煙プログラムの提供を開始し、19年度は83%の成功率と成果を上げています。また、広報誌やホームページで禁煙成功者の声を届けるなど、心に響くPRを心掛けています。

──自社事業とのコラボも推進より効果のある施策を

浅井さん ▶

 これまでの取り組みによって、特定保健指導では積極的支援対象者が減少するなど成果はみえてきています。さらにデータを分析して確認していくとともに、今後はグループ全体の健康経営を推進していくことが課題です。

笠井さん ▶

 健保組合に加入しているグループ会社に対して、味の素本体での成功事例を横展開し、グループ全体の健康度を上げていくことが健保組合の重要な使命です。他健保組合の情報も得ながら、より効果的な施策を提案・実施していきたいと思います。

浅井さん ▶

 さらに、自社事業とのコラボも発展させていきたいと考えています。アスリートのパフォーマンス向上のための食事プログラム「勝ち飯®」を若年女性の低栄養や過栄養のメタボ対策等に発展させるほか、三大疾病(がん・脳卒中・心筋梗塞)のリスクを評価できる「アミノインデックス®リスクスクリーニング」を活用して特定保健指導の対象になる前の予防対策を展開していきたいです。

神垣さん ▶

 味の素の製品も活用しながらセルフケアを実践して、社員の方がたが健康になっていることをさらに示していけるといいですね。

浅井さん ▶

 経営課題と連動した健康経営を実現していくことが重要です。これまでの施策を有機的に連動させて進化させながら、職場の栄養改善を通じて生活習慣病のリスク者の低減を図っていくこと、ASVを個人で実践できるようになることを目指していきます。そのために、データの分析・活用で健保組合とのコラボを一層推進し、社員にとって何が重要なのかをともに考え、より効果のある施策を展開していきたいと考えています。

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