健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

ヤフー株式会社

働く人の心身のコンディションを最高にし、パフォーマンスを最大化

インターネット企業として著名なヤフー株式会社は、働く人の心身のコンディションを最高にすることで、パフォーマンスを最大化させることを目指し、健康経営(コンディショニングの推進)に取り組んでいる。その結果、2018年度には、健康診断(人間ドックを含む)の受診率100%を達成し、「健康経営銘柄2019」に選定されている。同社のこれまでの取り組みについて、グッドコンディション推進室長兼YG健康保険組合常務理事の市川久浩さん、同グッドコンディション推進室の川村由起子さん、大塚真美さん(保健師)、大石智亜紀さん(同)、YG健保組合事務長の來田宣之さんに話を聞いた。

【ヤフー株式会社】
本 社:東京都千代田区紀尾井町1-3 東京ガーデンテラス紀尾井町紀尾井タワー
代表取締役社長:川邊 健太郎
従業員数: 6,515人(2019年3月末現在)

──企業理念とこれまでの健康づくりの取り組み


グッドコンディション推進室長
兼YG健康保険組合常務理事
市川 久浩 さん

市川さん ▶

 当社では従業員の健康づくりにおいて、心身の調子(状態)を意味するコンディションという言葉を使っています。当社のコンディショニング推進体制が進化したきっかけは、2016年10月の本社移転です。六本木のミッドタウンから、紀尾井町に引っ越した際に、オフィスビル内にクリニックを開設しました。社内レストランも作り、専門のチームが食の課題の解決に向けて取り組んでいます。

 当時の社長である宮坂は、健康管理に責任を持つCCO(チーフコンディショニングオフィサー)という役職を新設して就任し、「UPDATEコンディション」、働く人の身体の健康(安全)と心の健康(安心)をアップデートする、という健康宣言を行いました。

 社長が現在の川邊になった18年4月にはYG健保組合を設立し、12月にはクリニックに健診機能を追加しました。私たちでデータを利活用するためには、有効なデータを集める必要があると考えたからです。

 これまで積み重ねてきた施策を健康経営銘柄の「調査票」(申請用紙)に書き、不足している部分を補って提出した結果、「健康経営銘柄2019」に選定されました。


グッドコンディション推進室
川村 由起子 さん

川村さん ▶

 「調査票」の設問をみると、国の方針が分かります。私たちの施策をさらに加速させるツールとして活用しています。また、他社とコミュニケーションを取ることもでき、会社の垣根を越えて、働く人の健康をアップデートするというゴールに向かって走っていると感じています。

市川さん ▶

 コンディションが良くなければ、パフォーマンスは上がりません。社員のコンディションと会社の成長がつながるのがハッピーであり、プレゼンティーイズム(出勤しているにもかかわらず、健康問題により、パフォーマンスが上がらない状態)やアブセンティーイズム(病欠)をコントロールする視点が大切です。

 18 年度に調査した結果、プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムで生産性が2割程度損失していることが分かり、パフォーマンスを上げるためのコンディショニングが重要であると再認識しました。

川村さん ▶

 当社は働き方改革にも力を入れています。経営トップの判断により、オフィスも働き方改革に沿った設計となっています。また、オフィス環境や過重労働対策を整えた結果、残業時間が100時間程度削減されました。それが会社の成果にもつながっていると考えています。


グッドコンディション推進室・
保健師
大塚 真美 さん

大塚さん ▶

 他にも、健診受診後のフォローに力を入れています。高リスク者には産業医や看護職が面談をし、必要に応じて治療につなげています。重症化を確実に予防するため、数値が改善するまでフォローを続けています。

大石さん ▶

 医療職として、傷病になった人や休職される人たちと面談することが多くあります。そういった人が確実に相談できるように健康相談窓口を設置しています。また、復職後に再び休職しないように手厚くサポートしています。

──2018年度は健康診断の受診率100%を達成

市川さん ▶

 18年度には、健診の受診率100%を達成できました。がん検診の受診率も高いです。ただ、人のコンディションはすぐには変わりません。喫煙率は下がっていますが、健診の結果や運動習慣が劇的に変わったわけではありません。


グッドコンディション推進室・
保健師
大石 智亜紀 さん

大石さん ▶

 2カ月に1回、社内レストランで体脂肪や筋肉量などの体組成測定会を開いており、毎回200人程度が参加しています。また、健康に関連するセミナーを開催するとすぐに満員になるなど、社員の健康意識が高まっていると感じています。

來田さん ▶

 特定保健指導は健保組合の責務であり、しっかりと取り組みます。健保組合設立初年度である昨年には、電話よりもメールの方が反応が良いことが分かりました。今年度は、そういった特性も踏まえて受診勧奨をしていきます。

市川さん ▶

 グループ会社が増え、出向者も増えてきました。出向先のメールアドレスが分からず、コミュニケーションが取りにくかったという反省を踏まえ、今年はグループ会社の人事部門経由で健診を案内するなど、新しいアプローチをしています。

──会社と健保組合が同じ目標に向かって取り組む

市川さん ▶

 社員の平均年齢が上がっていると同時に、将来に対するリスクも上がってきています。そのリスクを減らすため、生活習慣病の予防など、コラボヘルスとして、会社と健保組合が同じ目標に向かって取り組んでいます。

 会社が解決しやすい課題と、健保組合が解決しやすい課題は異なります。そのため、会社の事業と健保組合の事業をある程度分けた方が、お互いの強みを生かせると思います。

 プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムのコントロール、例えば、パフォーマンスを上げるための肩こり、腰痛予防など目の前の課題には、社員に直接コミュニケーションを取ることができる会社が対処した方が良いでしょう。

 将来のリスクがある場合には、会社と健保組合が連携して取り組んでいます。特定保健指導では、健保組合の保健師を中心にプログラムを作り、進捗状況を管理しています。特定保健指導の対象者と会社の健診後の対象者が重なることもあるため、会社と健保組合がコミュニケーションを取ってアプローチしています。

大塚さん ▶

 プレゼンティーイズムを上げるための企画が動いています。健康な人が、より健康になって働けるように取り組みたいと考えています。

大石さん ▶

 血圧がかなり高く、業務に支障が出かねない人や、脳疾患などの重大な疾患のリスクが高い人には、即時に対応できる体制を取っています。長期的な対応が必要な人には健保組合とコラボしながら取り組んでいます。

──今年の10月は自分の健康を振り返る月間に


YG健保組合事務長
來田 宣之 さん

來田さん ▶

 当健保組合には16事業所が加入しており、規模や体制が異なっています。それぞれの事情を踏まえ、丁寧に対応する必要があると考えています。ある事業所で効果のあった取り組みを、他の事業所に展開していくことも考えています。

川村さん ▶

 当社には、食に関わるチームがあり、会社と健保組合がタッグを組んで、生活習慣病を改善していくスキームができていると思います。

來田さん ▶

 健保組合がプラットフォームやサービスを提供し、会社がそれを活用するという役割分担もあると思います。健保組合としても「Pep Up」というアプリケーションを使ったサービスを提供しています。キャンペーンで1日の歩数が8000歩を超えると、社内レストランに併設したカフェのドリンクを無料・割引にする特典もありました(19年5月〜9月実施)。インストールした社員の数も伸びていますし、歩数も伸びています。

市川さん ▶

 健保組合と私たちと食に関わるチームが連携を取って運用しています。平均して毎日300人程度の社員が特典の対象となっており、なかなかのヒットだと思います。カフェはこのビルにしかありません。公平性の観点から、他の事業所では、ドリンクをプレゼントする特典も実施しました。

來田さん ▶

 10月からはウオーキング大会の参加に上限5000円の補助を始めます。また、ヤフーでは東日本大震災の復興支援を目的とした「ツール・ド・東北」を主催しています。ヘルスツーリズムの一環として協賛し、参加者を募って運動習慣を見直す機会を提供しています。

川村さん ▶

 個人的には、会社が健康の保持増進に多額の費用をかけるのは難しいと感じています。国が実施するイベントなども活用できたらいいと思います。

 今年は、10月を1年に1度自分の健康を振り返るための月間にします。健保組合と当社の健康に関わる部署が連携し、試験的にイベントなどを実施します。成果が出れば、毎年恒例の行事にしたいと考えています。

 10月は、スポーツ庁の「FUN+WALK月間」、健保連の「健康強調月間」であり、健康に関する情報が多く発信されます。そういった情報とリンクする形で啓発活動を行います。

 健保組合が、ウオークラリーを実施し、それを社内で周知します。イントラネット上で特設サイトを作ります。社内のサイネージ(電子看板)を活用して、歩くことを啓発したり、正しい歩き方、歩幅を体験できるスペースを作ったりします。

 また、社内レストランを活用して、社員の食事の内容に点数を付けます。点数が悪ければ、メニューを見直した方がいいと直感的に分かる仕組みをつくります。

──健保組合に期待すること

市川さん ▶

 健保組合が実施したレセプト・健診データの分析結果をもらい、会社の施策に生かしたいと思います。そのために、各事業所から正確なデータを迅速に収集する仕組みを構築することを期待しています。

 また、健診というサービスについても、ヤフーグループの従業員と家族に最適な項目は何か、健診を予約し、受診し、結果が手元に届くまでの質をどう上げていくのかを考えていただきたいですね。

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