健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
株式会社KSK
「銘柄」選定を通過点に家族を含めた健康目指す
情報・通信事業で成長を続けている株式会社KSK。長期的、継続的な成長を実現するためには、グループ企業も含めた社員の健康が不可欠との認識のもと、2014年10月に「健康経営宣言」を行い、15年11月には喫煙者ゼロを達成したほか、定期健康診断受診率100%の継続などに取り組み、17年から3年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されている。さらに、今年は「健康経営銘柄2019」にも選定された。
同社のこれまでの具体的な取り組み内容について、KSK代表取締役社長・牧野信之さん、同社管理本部人事担当・佐藤美友希さん(産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)、同・中尾陽子さん(スペシャリスト)、同・木戸美里さん(保健師)に話を聞いた。
【株式会社KSK】
設 立:1974年5月23日
本 社:東京都稲城市百村1625-2
代表取締役社長:牧野 信之
従業員数(連結):1,955人(2019年3月末現在)
──健康づくりに取り組む背景
KSK代表取締役社長
牧野 信之 さん
牧野さん ▶
2013 年4月から取り組んでいる「禁煙運動」が大きな契機となりました。きっかけとなったのは、この運動を始める1カ月ほど前に、2人の社員がくも膜下出血により相次いで倒れてしまったことです。
その2人は無事に復職していますが、どちらもヘビースモーカーでした。そのため、当時の河村具美社長(現会長)が「社員の健康を守るために、徹底的に禁煙運動をやろう」と決断したのが始まりでした。
当時、全社員の31%を占める483人が喫煙者でした。運動の開始当初は、相当な反発もありましたが、受動喫煙の害など、徹底的にたばこの害をアピールしながら、ありとあらゆる手立てを講じました。その結果、運動開始から1年で喫煙者は5人にまで激減しました。
株式会社KSK
管理本部人事担当
佐藤 美友希 さん
佐藤さん ▶
禁煙運動の会社としての取り組み状況を周知するメールマガジンを作成するために、当社の管理職などから禁煙体験談を聞き取ったのですが、その過程で苦労話を聞いたり、相談を受けました。苦戦している社員が結構いましたが、「何よりも家族が禁煙に取り組む姿に喜んでくれた」と、とても嬉しそうに報告してくれたことが印象的です。振り返っても、当時は本当に会社が一丸となって「禁煙をするぞ」というムーブメントになっていたと思います。
──主な健康への取り組み
牧野さん ▶
「禁煙運動」に取り組む以前から、当社の定期健康診断の受診率は100%でした。当社のようなIT企業で受診率100%を維持するのは珍しいとよく言われますが、当社には1人ひとりの社員が自らの健康に関心を持つベースができていたと思います。
また、社員を孤独にせず、上司や同僚と支え合う心の絆を形成するため、「エンゲージメント(社員同士の絆・社員と会社の絆)重視の経営」にも取り組んでいます。そうした素地がある中で、さらに社員の健康を守る活動を展開するため、14年10月には「健康経営宣言」を行い、以降もさまざまな活動を進めてきました。
佐藤さん ▶
当社の健診受診率100%は、15年継続しています。以前は、受診しない社員もいましたので、こうした状況を打破するため、法定通り100%を達成する取り組みを始めました。具体的には、「健診は上期(4〜9月)に全員受診」との方針を出しました。その期間中に受診できなかった社員に対しては個別にアプローチするのを基本に、それが難しい場合には、その社員の直属の上司に配慮、サポートをお願いし、年度末までに全員の受診を終了させるように取り組み、100%受診につなげています。
株式会社KSK管理本部人事担当
中尾 陽子 さん
中尾さん ▶
健診については、全社員に対して、いつまでに受診するのかを申請してもらっています。申請した日付を過ぎた場合には、アプローチもしています。健診の予約は、14年度からシステム化しています。最近では、受診の遅い社員を把握してきているので、早期の声かけを行うようにしています。
牧野さん ▶
当社では、100%は当たり前のことですので、むしろ取り組むべきテーマは、「健診結果を踏まえた、ケアすべき社員へのアプローチ」です。具体的には、要治療・要再検査の対象者をリストアップしています。今年度は276人の対象者がいますが、木戸さんが粘り強く、治療や再検査に行ったかどうかなどフォローしてくれています。これは「エンジェルアシスト」と名付けて16年度から開始した取り組みです。その結果、17年度は99%、18年度は96%をカバーして、治療・再検査に行ってもらっています。
株式会社KSK管理本部人事担当
木戸 美里 さん
木戸さん ▶
取り組みを始めた16年度は受診するよう通知するだけでした。そのため、治療・再検査の受診率は34%にとどまっていました。健診結果をただ放置しているのでは意味がないと思い、「いつまでに再検査の受診の報告をしてください」と期日を定め、対象者の1人ひとりにメールを送りました。17年度は99%の受診率を達成しましたが、なかには、「健診を受けたからいいじゃないか」と言う社員もいました。そのため、再検査に行くことの必要性や、再検査項目を踏まえ、どのような病気のリスクがあるか説明し、やっと前向きに受診する社員が増えました。
佐藤さん ▶
禁煙運動がひと通り落ち着いた後、社員の健康にもっと力を入れる必要があるとの認識から、14年10月から「わくわく健康プラン」(以下「わっ健」)を開始しました。「わっ健」は、健康づくりに取り組んだ内容を記録し、翌月に報告するサイクルによる取り組みです。社員の3割くらいエントリーすればよいとの目標を立てたのですが、瞬く間にエントリーが増え、同年10月末の時点で約700人、12月時点では社員の6割以上、1000人近くになりました。まさに、「走りながら制度を作り上げていく」といった流れでしたが、18年度からは全面IT化して取り組んでいます。
「わっ健」の活動には、女性社員の有志による「わくわく健康エンジェル隊」がサポートしてくれています。人事によるメールマガジンとは別に、15年の年明けから、毎月レポートを発行しています。「わっ健」でがんばっている社員や独自に結成したチームを取材してもらい、お互いに励まし合ったり、モチベーションの維持につながる内容の記事を掲載しています。
牧野さん ▶
「わっ健」導入のコンセプトの1つには、当時の河村社長が常に、「健康であるためには、自分の心身に関心を持つ」と言っていたことが背景あります。例えば、毎日、血圧や体重を測るなど、簡単な目標を設定することから始めました。2つ目は、負担がかからず、楽しく、面白く取り組める運動であること。3つ目は、独自のチームでも取り組めるということ。ピーク時には、社員の約8割がエントリーし、現在は74%がエントリーしています。
中尾さん ▶
「わっ健」に関してはもう1つ、1年間で最も良い活動をした「MOSTわくわくパーソン」と「MOSTわくわくチーム」を毎年表彰しています。その際、ちょっとしたご褒美、インセンティブも用意しています。
──新たな健康への取り組み
牧野さん ▶
いろいろなデータ分析を進めていく中で、今後、重点を置くべき項目として、脂質、肝機能、血糖といった3つの課題への対応があります。いずれも全国平均値よりも高い水準にあります。
中尾さん ▶
加えて、毎年1回実施している健康に関するアンケート結果と健診結果を分析すると、よく飲酒する人と、とくに飲酒量の多い人は、この3つの課題に該当することが多いことも分かりました。そこで、今年度からの新たな取り組みとして、「適正飲酒運動」を進めていくことになりました。
──「健康経営銘柄2019」に選定
牧野さん ▶
ジャスダック上場企業で健康経営銘柄に選定されたのは当社だけであり、社員がKSKで働くことの誇りにつながっているのではないかと思います。さらに、選定されたからには、社員の健康により一層気を付けなければならないという気持ちになります。また、社員も健康経営銘柄に選定された会社で働く者であることを意識し、その名に恥じないような生活を心掛けるなど、健康について、さらに真剣に取り組むようになってほしいと思っています。
対外的には、3年連続で「ホワイト500」に認定されたことだけでも影響は大きいですが、健康経営銘柄の選定は、採用活動の面でもさらに大きな影響力があると思います。
中尾さん ▶
健康経営銘柄については、もともと3、4年先の目標として考えていましたので、選定の連絡があったときには、本当にびっくりしました。もちろん嬉しかったです。
木戸さん ▶
健康経営銘柄の選定は、19年度からの次期経営中期計画の目標に掲げる予定でしたので、選定の連絡を受けたときには驚きと同時に、これを維持しなくては、という気持ちになりました。他の企業が行っていない取り組みや、社員自身が楽しく取り組むことがKSKの特徴、強みだと思っているので、ここで止まらず、今後もどのような展開ができるのか、楽しみな面があります。
佐藤さん ▶
まずは「ホワイト500」の認定を継続することが目標で、健康経営銘柄も選定されたいと思っていましたが、さすがにまだ遠い存在という感覚でした。そのため、本当に嬉しかったです。同時に、少し冷静になる自分がいました。今度は当社がお手本、注目される側になると思うと、背筋を正していかなければならないという気持ちです。これからも、PDCAサイクルを回しながら向上していき、来年も健康経営銘柄に選定してもらえるよう、努力していかなければならないと心を新たにしました。
──今後の展望
牧野さん ▶
これからも継続して健康経営銘柄に選定してもらえる経営、マネジメントをしていきたいです。ただ選定を受けることがゴールではありません。「さすが健康経営銘柄に選定された企業だけあって、病気になる人が少ない」と評価されるよう、さらに結果を出したいです。その結果は、社員の家族の健康も含めたものにしていきたいと思います。具体的には、最低限、配偶者の健診受診率100%を目指すことから始まり、家族も含めた健康を勝ち取ることが最終ゴールだと考えています。
中尾さん ▶
自分の健康に無頓着で、意識の低い社員もまだいますので、今回の健康経営銘柄の選定を追い風にもっと自分の健康に関心を持って、「健康であることは幸せであること」を意識してもらえるよう取り組んでいきたいです。
木戸さん ▶
選定されましたが、会社が旗を振っている部分もまだ多いです。やはり、健康は自分のものなので、自己管理ができる社員がもっと増えるよう、健康についての情報をさらに発信していきます。
佐藤さん ▶
20代の社員に「わっ健」のことを伝えても、どうも反応が鈍いように感じます。多分、「自分はまだ健康」と思い、意識も低いのかもしれません。当社の河村会長は、「健康は害さないと気付かない空気みたいな存在。若いときから習慣として身に付けることが大切」と発信していますが、そうしたことを社員がもっと意識できるように工夫していきたいです。