健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
サトーホールディングス株式会社
社員が「全員参画」で行う健康づくり
1940年の創業以来、「あくなき創造で、社会に貢献する」という企業理念の下、バーコードやICタグを利用した自動認識システムなど、革新的な商品・サービスを世に送り出してきたサトーホールディングス株式会社。「社員が顧客価値創造におけるすべての基盤である」という観点から、社員がいきいきと働くことができるよう健康増進や効率的な業務の推進など働き方改革に取り組んでいます。2015年には執行役員が最高健康経営責任者(CWO)に就任し、健康経営宣言を行うことで健康経営を本格化しました。17年には健康経営銘柄に選定され、17年、18年と2年連続で健康経営優良法人に認定されました。その具体的な取り組みについて伺いました。
※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
【埼玉機械工業健康保険組合概要】
加入事業所数:225事業所(2018年4月末現在)
加入者数:5万1200名 ※被扶養者2万4100名を含む
──健康づくりに取り組むきっかけや背景などをお聞かせください。
サトーホールディングス ▼
サトーホールディングス株式会社
人財開発部 ウェルネスマネジメントグループ
グループ長 赤坂 泰造 さん
サトーグループでは、30年以上景気の良し悪しにかかわらず、毎年運動会を開催するなど、社員の健康増進は会社において重要な位置付けにありました。他方、アメリカで提唱された健康経営の考え方が日本にも浸透し始めていたこともあり、2015年7月に執行取締役でサトーヘルスケア株式会社代表取締役社長の小沼宏行が最高健康経営責任者(CWO)に就任するとともに、健康企業宣言をしました。それに合わせて社員への健康情報の提供や健康投資を促す仕組みを構築するなど、社員の健康度を高めて生産性の向上を図る健康経営に本格的に取り組み始めました。
また当社には、社員全員が経営をサポートし会社をよりよくするための「三行提報(さんぎょうていほう)」という仕組みがあります。1976年から40年以上続く三行提報は、全社員が毎日現場で集めてきたお客さまの声やさまざまな情報、アイデアを三行(127文字)にまとめて、経営トップに直接報告する独自の取り組みです。この仕組みで、「全員参画の経営」を実現しており、健康経営における全員参画にも役立っています。
──具体的にはどのような取り組みをしていますか。
サトーホールディングス ▼
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●個人ごとに健康増進目標を設定
健康経営の本格実施に際し、まず禁煙施策として非喫煙者に支給していた「非喫煙手当」を廃止し、社員全員に対して健康管理、増進を目的とした「健康増進アクション手当」を支給することにしました。すると、「就労時間内の喫煙は離席時間が長くなり不公平」「健康増進手当がタバコ代になってしまうのでは」――など、非喫煙者から大反発が起こりました。
しかし本来の目的は、社員全員が健康になることです。そこで、社員一人ひとりに毎月「わたしの健康目標」を設定するように呼びかけて、目標を設定した人に毎月2000円の手当を支給することにしました。目標設定では、スマートの法則といって必ず数値目標を入れることを条件にしています。年度末には各自が振り返りを行い、気づきを翌年度の健康目標に反映させて、PDCAサイクルを回します。
結果的に、社員の目標提出率は100%を達成しました。また数値目標に対する実施率や具体的な数値が報告されることから、健康経営を進めるうえでの重要な分析ツールとして役立っています。この取り組みが浸透してからは、社員が三行提報を通じて、こんな活動がやりたいといったアイデアを提案してくれるようになりました。
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●健康経営推進のための体制強化
健康経営を推進するために、「健康経営推進委員会」を設置して、全国のグループ会社や各拠点・部門の健康経営責任者(拠点長・部門長)と健康経営推進担当者を中心に、健康増進活動ができる体制を構築しました。初年度は、拠点長・部門長が担う健康経営責任者のみ配置していたのですが、通常の業務をしながらですので、拠点・部門ごとに実施状況にバラツキが生じてきました。そこで16年度からは、健康に関心が高い社員に健康経営推進担当者を担ってもらい、健康増進活動の実施計画を立てて、実行してもらうようにしました。こうすることで、うまく機能するようになりました。
社内コミュニティサイトまた、健康経営推進における社員同士の情報交換や相互の学び合いなどを目的に、社内コミュニティサイトを立ち上げました。このサイトでは、各拠点・部門が実施計画に基づいて独自に行っているマラソン大会やウオーキングイベントへの参加、ボーリング大会の開催といった健康増進活動の様子が写真とともに報告されます。
健康増進においては、健診受診が基本となります。当社では、14年までは社員の健診受診率が90%程度でしたが、未受診者に対して電話で督促するなど、地道に声掛けをしました。また社員の興味軸による健康づくりなど、健康リテラシーの向上と組み合わせて健診実施率の向上を図り、15年には実施率100%を達成しました。
さらに16年には、産業医と保健師を配置しました。産業医の介入により社員の就労状況を改善させるなど、メンタルヘルス不調の早期発見、未然予防に役立っています。産業医・保健師の配置によって、ようやく健康増進の体制が整ったと感じています。
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●禁煙への取り組み
15年から受動喫煙防止に力を入れていて、東京本社のエントランスには副流煙除去のための装置も取り付けました。19年にはサトーグループの全国事業所にある喫煙所の完全撤廃を目指して、今年から役員と東京本社での敷地内禁煙を実施しています。
──保健事業について、どのような事業を展開されていますか。
健保組合 ▼
一般的な保健事業は行っています。なかでも人間ドック健診については、36歳と38歳、40歳以上を対象に一律2万円の補助を実施していましたが、何年か実施しているうちに、38歳以上で実施すると効率的だということがわかり、18年度からは38歳以上に設定しました。サトーグループでは、残りの自己負担の部分については会社が負担されていると伺っています。人間ドックは経費の面では非常に重いのですが、詳細な健康情報が分かり、早期発見、早期治療により重症化を防ぐなど、医療費抑制の観点からも効果が期待できると感じています。
ところが、人間ドックで再検査が必要になった場合に、受診されない方が案外多いため、その方たちへの督促にも取り組んでいます。1回督促した程度では受診してもらえないので、事業主の協力を得て、2回、3回と行っています。
またケンコムというスマホアプリを導入して、健診結果の閲覧やアプリ内で歩数を競い合うウオーキング大会を実施し、上位入賞者にはギフト券の進呈といったインセンティブを導入しています。サトーグループの社員も参加いただいていて、上位に入賞されています。しかし、参加率は伸び悩んでいて、加入者5万人に対して2000名程度にとどまっています。そのため、加入者に対するPRを強化していきたいと考えています。
埼玉機械工業健康保険組合
常務理事 金久保 浩一 さん
このほかにも、運動習慣の向上を図るために、フィットネスクラブやスポーツ施設などとの契約も行っています。18年度からは、歯周病予防を目的とした歯科検診や歯科に関する講習会の実施を予定しています。また、定期健康診断と同時に歯科検診ができるように準備を進めています。
当健保組合では、人工透析の予防策として、健診受診者が腎検査の項目に血清クレアチニンを追加すると、インセンティブを与えていました。18年度からは、特定健診の項目に血清クレアチニンが追加されるので、ますます人工透析の予防が加速していくことを期待しています。
──現状の課題や今度の展開についてお聞かせください。
サトーホールディングス ▼
課題の1つに、メタボ対策があります。当社のメタボ該当率は現在13.5%で、2020年までに10%以内まで減少したいと思っています。また、運動習慣者比率については、現在の25%から40%まで引き上げたいという目標があります。
そこで5年ほど前から、ウオーキングに力を入れています。健康経営推進委員会では、年に2回セミナーを開催していますが、たとえば身体活動と疾病予防の研究をされている東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利先生によるウオーキングに関する講演や、KENKO企業会という健康経営銘柄を取得している企業など約70社で開催するウオーキングイベントへの参加など、さまざまな施策を講じています。またKENKO企業会では、参加企業が健康に対する意識を高め、従業員の健康増進の取り組み事例の情報を交換するなど横展開して、自社の施策の参考にしています。
また、加入している埼玉機械工業健保組合でもウオーキングイベントを実施しているため、当社も積極的に参加しています。しかし健保組合との連携・協力という面では、まだ始まったばかりです。
健保組合 ▼
当健保組合は総合組合ですので、いろいろな企業が集まっています。その中で、コラボヘルスを実施していくのはなかなか困難で、手探り状態ですが、これまで実施してきた集合健診の実施に加えて、たとえばサトーグループと共催して、保健指導対象者向けに講習会を開催したりしています。今後はこうした事業主と協働で実施する取り組みを拡大していきたいと考えています。
近年は健康経営への関心の高まりから、事業主の方から健康データの提供依頼が来るようになりました。そこで、そうした企業に向けた情報提供を行い、事業主の健康企業宣言への取り組みなどを後押ししていこうと思っています。
事業主からのデータ提供依頼をきっかけに、事業所ごとに健康度を数値やグラフで示して、事業所に出向いて説明したり、改善に向けたアドバイスをしようと考えていて、外部に分析を委託するなど、準備を進めています。
被保険者の健診受診率については、90%ですが、被扶養者の受診率の向上に苦戦しています。どうアプローチしていくかが課題で、要再検の方がた同様、事業所と連携を強化していきたいです。
健保組合ではこうした課題解決に向けて、保健事業の見直しやアイデアを出し合うなど全職員が一体となって業務改善に取り組んでいます。
サトーホールディングス株式会社 人財開発部 ウェルネスマネジメントグループ グループ長 赤坂 泰造 さん
「行動変容につながる仕掛けづくりは容易ではありませんが、社員一人ひとりが健康課題にリーチできるような環境整備をさらに強化していきたいと思います」
埼玉機械工業健康保険組合 常務理事 金久保 浩一 さん
「今後はデータ分析をもとに、事業所ごとに健康度を出し、事業所に出向いて説明するなど、健保組合として積極的に働きかけていきたいと思います」