健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
北海道農業団体健康保険組合
事業所の健康課題を分析し計画的に実践可能な提案型支援を実施
北海道農業団体健康保険組合は、北海道全域のJA(農業協同組合)とその関連企業の職員とその家族が加入しており、加入者が将来に向けて健康で安心した生活を送れるよう、健康づくり・疾病予防を中心とした質の高い保健事業を積極的に展開し、「加入していてよかった」と思われる健保組合であることを目指してコラボヘルスを行っている。具体的には、個別事業所ごとに健診結果、健康チェックデータ等から分析した健康管理の現状と健康課題の提示を行い、経年での健康づくり施策および「健康経営優良法人」の認定取得の提案を行っている。
これらの取り組みの状況について、北海道農業団体健保組合事務長の宮本力さん、総務部部長の釜谷茂樹さん、総務部総務課課長の吉田こずえさん、健康推進部健康推進課課長の佐々木勝彦さん、健康推進部保健指導課課長(保健師)の秋田朋香さん、健康推進部健康推進課課長代理(健康運動指導士)の髙井朋美さんに聞いた。
【北海道農業団体健康保険組合】
設立:1947年8月
本社:北海道札幌市中央区北4条西7-1-4
事業所数:226カ所
被保険者数:2万8,553人(2024年8月現在)
被扶養者数:2万183人(同上)
保険料率: 100.23/1000(調整保険料率含む)
──独自の表彰制度と訪問を通じ健康経営の意識高揚を
宮本さん ▶
北海道農業団体健保組合は、北海道全域のJA(農業協同組合)とその関連企業の方が加入しており、2024年8月末現在で被保険者数約2万9千人、被扶養者約2万人、加入者全体は約5万人となっています。
加入者が将来に向けて健康で安定した生活を送れるよう、健康づくり・疾病予防を中心とした質の高い保健事業を積極的に展開し、「加入していてよかった」と思われる健保組合であることを目指しています。
北海道農業団体健康保険組合
総務部部長 釜谷 茂樹 さん
釜谷さん ▶
2012年に、健診を通じて、被保険者の二次予防から一次予防に力を入れるよう転換する国全体の流れができてから、被保険者全員に「健康チェック」を行い、それをもとに被保険者の生活習慣の改善を呼びかけるようになりました。
当時は、健康は個人のもので、「組織で取り組む」という考え方は一般的ではありませんでした。そこで、「組織的に健康について取り組んでもらうためにはどうしたらよいか」という問題意識から、「健康経営」を推していくこととなりました。
その上で、各事業所に「健康企業宣言」をしていただき、事業所として被保険者の生活習慣改善に努めていただくことで、健康な方を増やすことを目途としました。
具体的な流れとしては、2015年から、加入事業所の経営層や管理者向けに、健康に関する研修会を実施するなどの取り組みを始めました。2018年からは、コラボヘルスの一環として、健康経営支援を推進しています。
北海道農業団体健康保険組合
総務部総務課課長
吉田 こずえ さん
吉田さん ▶
健康経営支援の推進に当たり、まずは私たち北農健保組合が「健康経営優良法人」の認定を取得し、組合職員の健康増進に取り組みました。
その後、2019年に、「健康企業宣言」を行うよう、実際に事業所に訪問して働きかけるようになりました。事業所が抱える健康課題に対して、計画的に実践可能な提案型支援を行うことで、健康経営に積極的に取り組む事業所の増加を目指しています。
なお、当組合の該当部署の職員は、「健康経営エキスパートアドバイザー」の資格を取得しており、各事業所にアドバイスできるような体制を構築しています。
秋田さん ▶
2022年からは、各事業所に対し、当組合の常務理事と保健師を含む3人体制で事業所の経営者層を個別に訪問し、健診結果や健康チェックデータ等から分析した健康管理の現状と健康課題の提示を行い、その課題解決に向けた3カ年の健康づくり計画と「健康経営優良法人」の認定取得を提案する支援を行うようになりました。
当組合で毎年実施している「健康経営取組状況調査」の結果とヒアリング結果等から、「健康経営優良法人」の認定要件を満たすための取り組みを提示するほか、法人規模に応じた申請に必要な書類の作成支援等を行います。
「健康経営優良法人」の申請期限が毎年10月であるため、事業所への初回訪問を5~9月に行い、申請支援等の必要性に応じて適宜訪問等の対応を行っています。初回訪問後、おおむね申請期限前にもう一度事業所に訪問していることから、平均して年に2回は各事業所に伺っています。
北海道農業団体健康保険組合
事務長 宮本 力 さん
宮本さん ▶
訪問する事業所については、まずは「健康企業宣言」をし、健康経営の取り組みを開始しているところ、当組合で毎年独自に行っている「健康優良事業所表彰」の表彰事業所を対象としています。「健康優良事業所表彰」は、事業主の健康経営を通じた職員の健康づくり活動に係る優良事例を表彰することで、健康経営に対する意識高揚を図ることを目的に実施しています。
「健康優良事業所表彰」の表彰事業所の選定基準としては、「健康経営取組状況調査書」の回答結果をみています。健診受診率や特定健診・保健指導の実施率、健康増進支援アプリ「PepUp」の登録率の高さ、精密検査の受診率等を点数化し、評価しています。
北海道農業団体健康保険組合
健康推進部健康推進課課長
佐々木 勝彦 さん
佐々木さん ▶
2022年度から始めたこの提案型支援の実施目標としては、健康経営優良法人の認定取得事業所数を、「2024年度までに10事業所」「2026年度までに15事業所」とすることを掲げていました。
健康経営優良法人の認定取得事業所数は、2022 年度時点では3事業所でしたが、これが2023年度には6事業所となり、2024 年9月末現在で14事業所となっていることから、2026年度を待たずに目標を達成する見込みです。
提案型の健康経営支援を開始したのは2022年であるため、これらの支援を行ったことによる被保険者の健康状態への効果に関する分析は行っていませんが、「健康企業宣言」を行う事業所、「健康経営優良法人」の申請をする事業所は着実に増加しています。
──肥満該当者と喫煙率の低下目指しプログラム実施
秋田さん ▶
このほかの当組合の保健事業について説明します。
当組合の被保険者の特徴として、血糖値の所見率、肥満該当率が高く、生活習慣病の改善が重要課題となっています。また、北海道の全体平均と比較しても喫煙率が高く、積雪、近隣に運動施設がないこと、車社会であること等を理由に、運動不足の方が多いことも課題です。これらについて、データヘルスの中でも取り上げて、対策を進めているところです。
釜谷さん ▶
被保険者の性比として、女性が増えてきてはいるといっても男性が圧倒的に多いことも肥満該当者の多さにつながっています。
髙井さん ▶
これらの健康課題に対しては、被保険者を対象に提供している健康増進支援アプリ「PepUp」を活用したウォーキングラリー等のイベントを開催しています。「PepUp」の登録率は27%程度となっており、ウォーキングラリーの参加者は1600人程度であることから、アプリのさらなる活用、イベント参加者の増加が今後の課題です。
また、事業所の要請に応じて、健康をテーマとした職場研修会に無料で講師を派遣しているほか、当組合主催の健康管理担当者等を対象とした研修会や女性の健康課題セミナーを行っています。
そのほか、健康運動指導士により、仕事の合間にもできる体力測定を実施し、運動の動機づけ等を行っています。
北海道農業団体健康保険組合
健康推進部保健指導課課長
(保健師) 秋田 朋香 さん
秋田さん ▶
特定健診・保健指導の対象者のみならず、30代の被保険者を対象とした「プレ特定保健指導」も実施しているほか、3カ月で3㎏減量を目指す「3・3ダイエット」プログラムも行っています。
「3・3ダイエット」プログラムでは、3カ月で3㎏体重を落とすためには毎日の摂取カロリーを240キロカロリー減らす必要があることから、具体的な食事、飲酒量等を提案し、対象者本人に実行する内容を決定してもらった上で、3カ月間記録してもらい、毎月報告を受けます。その記録をもとに、保健師がアドバイスを行います。
プログラムの対象者は、定期健診におけるBMI25以上の偶数年齢の方としており、保健師からプログラムへの参加を直接呼びかけています。行動目標は、保健師、管理栄養士、健康運動指導士が検討し、本人に提案しています。昨年は70人程度が参加し、今年は現在50人弱が参加しています。
喫煙率低下の取り組みとしては、「禁煙チャレンジ」とオンライン禁煙プログラムを行っています。「禁煙チャレンジ」では、毎年行う「健康チェック」のアンケートで禁煙を希望している方に当組合から案内を送り、「3・3ダイエット」と同様に、取り組みの記録・相談を行ってもらいます。
当組合からは、プログラム参加者の禁煙がつらくなるタイミング等に合わせてお手紙を送付するなどの取り組みも行っています。
このほか、オンライン診療や禁煙補助薬の処方を受けることができる2カ月のオンライン禁煙プログラムも展開しています。
今年は、各事業所に訪問した際、事業所として禁煙に取り組んでいただくよう働きかけ、事業所の担当者にオンライン禁煙プログラムへの参加を募っていただき、50人弱の参加者となりました。
北海道農業団体健康保険組合
健康推進部健康推進課課長代理
(健康運動指導士)
髙井 朋美 さん
なお、定期健診の結果において、生活習慣病に関わる血液検査で精密検査の対象となった方に対し、健診受診2カ月後に精密検査の受診勧奨のお知らせを送付しています。さらに、7カ月後には、事業主宛てと個人宛てのお知らせをお送りし、事業所にも従業員の精密検査受診の勧奨をお願いするようにしています。
髙井さん ▶
併せて、北海道歯科医師会と協力して、歯科医師会に登録している歯科医院で加入者が歯科健診を受けられるようにしています。治療が必要な方については、健診を受けた歯科医院でそのまま治療を受ける方が多いとは思いますが、必要に応じて当組合から治療の受診も勧奨しています。
──各事業所の実情を踏まえた自走型の健康施策展開を
秋田さん ▶
今後は、加入者の健康づくりとして、肥満該当者と喫煙率を着実に減らしていきたいです。このため、「3・3ダイエット」プログラム等を積極的に推進していきます。
宮本さん ▶
健康経営支援については、当組合からのプッシュ型の訪問、提案による支援に伴い、事業所の「健康経営優良法人」の申請は年々増加しているものの、事業所からの自発的な健康関連施策の提案等はない状況です。
つまり、現状として、コラボヘルスを健保組合側からのみ持ちかけている状態にあることから、今後は、各事業所が実情に応じた健康経営施策を自発的に打ち出し、自走した取り組みを行っていただきたいと考えています。
関連して、各事業所の健康経営施策の横展開や、事業所同士で健康経営の取り組みを競い合わせるような取り組みも行っていきたいと考えています。