健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

TOTO株式会社

健康リスクを層別し有所見者削減等の施策を階層ごとに展開

トイレ、バスルーム、システムキッチンなど水まわり住宅総合機器メーカーであるTOTO株式会社は、健康管理・メンタルヘルス対策・健康増進を三本柱として、健康経営の取り組みを推進している。健康リスクを層別し、階層ごとに病気や体調不良の重症化予防や再発予防、生活習慣病予防等の施策を展開している。2024年に「健康経営銘柄」に9回目の選定、「健康経営優良法人(大規模法人部門)ホワイト500」に8年連続で選定されている。

同社の取り組みについて、TOTO株式会社人財本部ヘルスケアセンター所長の加邉直樹さん、同本部健康管理第一G・保健師の沼田麻菜美さん、TOTO健康保険組合常務理事の鶴田康司さん、同保健事業担当の白井澄江さんに話を聞いた。

【TOTO株式会社】
設立:1917年5月
本社:福岡県北九州市小倉北区中島2-1-1
代表取締役 社長執行役員:清田 徳明
従業員数:16,248名(国内、2023年3月現在)

──社員と家族の健康を第一に健康経営を推進


TOTO株式会社 人財本部
ヘルスケアセンター所長
加邉 直樹 さん

加邉さん ▶

 TOTOグループでは、企業理念として、「1人ひとりの個性を尊重し、いきいきとした職場を実現する」ことを掲げています。社長メッセージでは、事業活動の源泉は「人財」であり、社員と家族の健康を第一と考え、その向上を図り、それが会社の事業運営、ひいては社会の貢献につながっていくという思いで、健康経営を会社経営の最重要事項の1つとして推進するとしています。

 経緯としては、2006年に、「治療型・対症療法型」の診療所に替わって、「予防・リスク管理型」の「ヘルスケアセンター」を設置し、病気や体調不良があってから治療をするのではなく、社員1人ひとりが自身の健康を考え、行動できるようにする環境づくりを推進しています。本社のヘルスケアセンターを中心に、健保組合、労働組合の三者の協力体制でコラボヘルスを推進しています。

鶴田さん ▶

 会社の安衛法に基づく健診、健保組合の特定健診は、いずれも有所見者を減らし、社員の健康を維持・増進させることが目的ですので、定期健康診断は両者を兼ねたかたちで実施しています。健診データは若年層も含めて共有し、有所見者の減少に向けた各種取り組みの実施・検討に活用しています。特定保健指導も、各事業所の保健師に応援をいただきながら、会社と一緒に推進し、社員についてはほぼ100%の実施率を維持できています。

加邉さん ▶

 健康リスクの低減を目指して、フィジカル、メンタルヘルスそれぞれのリスクを層別し、階層ごとにさまざまな施策を展開しています(図)。フィジカルに関しては、高リスク層に対して事後措置や有所見者への医療機関受診の勧奨を行っていますが、健康層から中・低リスク層に対する取り組みは、健保組合にお願いしている部分も多く、役割分担をしながら実施しています。メンタルヘルスについては、会社が主体となって取り組みを進めています。


(図) 健康リスクの層化


TOTO健康保険組合
常務理事 鶴田 康司 さん

鶴田さん ▶

 健保組合では、社員自身の健康の維持・改善のための気付きを与えるツールとして、2021年10月から「健康ポータルサイト」を導入、運営しています。自身の健康診断結果を閲覧できるだけでなく、定期的なイベントの実施や健康情報、健保組合からのお知らせを発信し、健康リテラシーの底上げを図っています。導入当初のID登録率は30%程度でしたが、例えば、製造部門ではメール等の電子媒体の通知が届きにくい面もあり、事業所の保健師に協力していただいて登録会を開催するなど、少しずつ底上げを図っています。2023年度末では67%まで向上しており、今後も80%、さらにそれ以上を目指していきたいと考えています。

白井さん ▶

 ポータルサイトの導入により全社横断での各種イベントや情報提供、e―ラーニングの実施が可能となりました。健診結果の推移や改善を確認していただくだけでなく、楽しみながら気軽に使っていただき、ヘルスリテラシーの向上につなげることがこの取り組みの狙いとなっています。

加邉さん ▶

 情報発信の取り組みとしては、本社等のトイレ内のちょうど目に付きやすい場所に、自身の健康について意識してほしいこと、メンタルヘルス対策やその窓口など、周知啓発、情報提供のためのポスターをおおむね3カ月に1回更新しながら掲示しています。

──若手層・管理職のメンタル不調の増加に対策

加邉さん ▶

 メンタルヘルス対策としては、1次予防(未然防止・健康増進)、2次予防(早期発見・対応)、3次予防(復職支援・再発防止)の段階に応じて、①セルフケア、②ラインケア、③産業保健スタッフによるケア、④事業場外資源によるケア――を推進しています。当社でも2019年頃からメンタル不調者が少しずつ増えてきています。特に若手層での増加がみられたため、入社3年目までの全社員を対象に医療職との面談を実施しています。また、管理職層でも増加傾向にあったため、管理職のセルフケアについても研修の中に組み込む等、対策を実施しています。

沼田さん ▶

 「相談窓口カード」を作成し、入社時研修の際に配布し、社内外の相談窓口を周知しています。イントラネット上でも相談窓口を掲載し、悩んでいる方がすぐに相談できるようにしています。

鶴田さん ▶

 健保組合で社外相談窓口を2023年度から設置しています。相談の性質上、外部の人に話を聞いてほしいというニーズは一定程度あるようで、窓口を設置して良かったと思っています。

加邉さん ▶

 健康増進に関して、TOTOグループ(国内の正社員・契約社員)の喫煙率は、2022年度実績で男性32.4%、女性9.8%と、全国平均に比べ高い状況にあり、健康課題の1つだと認識しています。喫煙率は2025年度目標値として男性29.0%、女性8.1%を設定していますが、ここ数年は下げ止まりに近い状況となっています。健康増進法対応として2025年度に全拠点で屋内の喫煙室を廃止し、全て屋外に設置する予定で、禁煙のきっかけとしていただけたらと思っています。

鶴田さん ▶

 健保組合では、2つの禁煙プログラムを用意しています。1つは、「オンライン卒煙プログラム」で、卒煙カウンセラーによるオンライン面談を含む6カ月間のプログラムとなります。もう1つは、「ノンスモ禁煙サポートプログラム」で、禁煙補助剤を3日間使用して禁煙体験をしていただくものです。


TOTO株式会社 人財本部
健康管理第一G・保健師
沼田 麻菜美 さん

沼田さん ▶

 2021年度から減煙企画「プロジェクトT」を展開しています。健保組合で卒煙サポートのプログラムを用意していただいていますが、参加者が減少傾向にあり、喫煙率も下げ止まり状況にありました。そこで健保組合と協同で、「タバコの本数を減らすところから始めてみませんか」といった少しライトな取り組みを実施することにしました。タバコを吸う社員と吸わない社員が2人1組のチームを組み、1カ月間、ペアになって楽しく減煙にチャレンジするイベントで、減らしたタバコの本数に応じて、会社・健保組合が外部に募金する社会貢献の取り組みにもなっています。2021年度の参加者(喫煙者)は85人、2022年度は147人、2023年度は109人でした。2023年度には参加者の60%が3割減を達成しています。

 事務局として嬉しかったのは、減煙企画の結果として、禁煙を達成する社員が出てきていることです。2023年度は21人がイベント期間中の禁煙を達成されています。また、2022年度からイベント終了後に、プラス6カ月間の禁煙継続チャレンジも始めていて、再喫煙のリスクが高い禁煙後3〜6カ月の期間をフォローしています。2023年度は21人中15人が禁煙を達成されています。


TOTO健康保険組合
保健事業担当
白井 澄江 さん

白井さん ▶

 企画したイベントを社員1人ひとりに届けるには、各事業所の健康管理担当部署や保健師の協力が不可欠です。喫煙対策についても全体の目標達成には各事業所で「何%下げる」ではなく「何人禁煙しなければならない」といったように具体的にイメージしやすい伝え方にしています。

加邉さん ▶

 運動不足解消、職場コミュニケーションの活性化を目的として、ウォーキングイベントを実施しています。本社・小倉第一工場では、5つの部門に分けて1チーム2〜4人で参加し、1カ月間の平均歩数を競うイベント「歩KING(あるきんぐ)CUP」を秋に実施しています。このほかにも、事業所対抗や、販売部門の支社対抗など、社員が楽しんで参加できるよう工夫しています。

鶴田さん ▶

 健保組合では、被保険者である全社員を対象に、「TOTOみんなでウォーキング」というイベントを実施しています。個人または3〜10人のチームで参加し、1カ月間の平均歩数を競います。歩数を健康ポータルサイトに入力することで、タイムリーに順位が反映されます。5月の開催で新入社員や転入者とのコミュニケーションも兼ねて参加いただいています。

──会社と健保組合が知恵を出し合い取り組みを充実

加邉さん ▶

 2024年度も健康管理・健康増進等に係る各種事業について継続してしっかりと取り組んでいきます。私がヘルスケアセンターに着任してから、メンタルヘルス対策に注力してきましたが、今後はフィジカルのほうも、数値的な推移もみながら、健保組合とも協力して取り組みを充実させていきたいと考えています。

沼田さん ▶

 全社展開の各種イベントの充実に取り組むと同時に、社員の皆さん1人ひとりに丁寧に対応して、そこからきめ細かくニーズを拾って施策につなげていくことも重要だと思っています。

鶴田さん ▶

 企業理念の「1人ひとりの個性を尊重し、いきいきとした職場を実現する」ことの土台は、やはり心身とも健康であることだと思っています。健保組合では、新しいデータヘルス計画や加算・減算指標もありますし、社会環境・経営環境の変化も踏まえつつ、変えずに継続していくことと、変えることで新たな価値を生む取り組みもあると思います。会社とも知恵を出し合いながら、社員、家族の健康を守るという軸がぶれることのないよう取り組んでいきたいと思っています。

白井さん ▶

 健保組合では昨年から女性の健康にフォーカスしたオンライン相談のプログラムを開始しています。その中で参加者より「こんなプログラムを提供してもらって、TOTOグループで働いて良かった」という嬉しい声をたくさんいただき、保健事業の意義を改めて感じました。今後も健保組合の事業を通じて、自身の健康に興味を持っていただけるよう取り組んでいきたいと思っています。

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