健康コラム
離れて暮らす親のケア vol.156
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが、親と離れて暮らす子の介護に関する悩みや不安について、事例を交えながら親のケアを考えていきます。
いろいろな状況をシミュレーション
さまざまな種類の高齢者向けの施設や住宅があります。多くは利用料を払って借りるスタイルですが、購入する分譲型物件も増えつつあります。
Tさん(50代)の伯母(80代)は伯父が亡くなってから、1人暮らしを続けてきました。一昨年、分譲のシニアマンションを購入して入居。一人娘は海外在住のため、将来に不安があったのかもしれません。伯母が選んだ物件は共用スペースにシアタールームがあるリッチな仕様。「伯母は『老人ホームには入りたくない』と言っていたので、マンションにしたのだと思います」とTさん。
入居後、伯母は新たな生活を満喫していましたが、久しぶりにTさんが会いに行くと、元気がなく「ここは〝終の棲家(ついのすみか)〟にならないかもしれない」と言います。実は、仲良くなった友人が認知症になり、他の入居者の玄関ドアをたたくことが続き、クレームが噴出。結局、友人は介護付きの施設に移ったというのです。
分譲型に限らず、有料老人ホームなどでも、病気の進行などにより住み続けることが難しくなることがあります。しかし、だからと言って、将来のリスクにおびえ、現在の生活の幅を縮小することは得策とはいえないでしょう。「こんなはずではなかった」といつか慌てないよう、将来に備え、介護体制を確認し、いろいろな状況をシミュレーションしておくことが大事なのではないでしょうか。
1カ月後、伯母からTさんに電話がかかってきました。「『もしものときは、介護をしてくれる施設に移して』と娘に頼んだわ」と明るい声。伯母は元気を取り戻し、シアタールームでの映画鑑賞を楽しんでいるそうです。