健保ニュース
健保ニュース 2025年3月中旬号
高額療養費の自己負担上限額等
石破首相見直し全体の実施を見送り
今秋まで再検討し方針決定
石破茂首相は7日、高額療養費制度見直しに関する患者団体との面会後に記者会見し、令和7年8月に予定していた自己負担上限額の引き上げを含む全体の実施を見合わせる方針を表明した。今秋までに改めて方針を検討し、決定する意向を示した。石破首相は、「7年度予算案の衆議院通過後に、このようなことを申し上げるのは大変申し訳ないが、引き続き、予算の年度内成立に向けて努力していく」と発言。関係者に対しては、「本当に極めて厳しい決断だということを理解いただきたい」と述べたうえで、高額療養費が持続可能な制度として次世代に引き継がれるよう、努力していくとした。
石破茂首相は7日、首相官邸で、高額療養費制度の見直しに関し、患者団体と面会した。
面会の冒頭あいさつした石破首相は、「これまでも、福岡資麿厚生労働相から皆さんの意見は、その都度、報告を受けてきた」と述べたうえで、今回、直接に意見を受ける機会をいただいたことに謝意を示した。
全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、今回の高額療養費制度の見直しは、▽当事者の意見やデータが入っていないというプロセスの問題▽高額療養費は医療費全体の6%にとどまるという優先順位の問題▽自己負担上限額の引き上げ幅、患者の負担感は極めて大きいという問題─があると指摘。負担に苦しむ患者や、その家族の声を受け、一旦、全面凍結し、立ち止まって命のために再検討するよう求めた。
日本難病・疾病団体協議会の辻邦夫常務理事は、病気を抱える方の自己負担が引き上がる高額療養費制度の見直しを再考するよう要望。また、社会保障制度改革は喫緊の課題との考えを示し、患者、国民の立場として協力できる機会を切望した。
その後、患者団体から石破首相と福岡厚労相に対し、「高額療養費制度の負担上限額引き上げ反対に関するアンケート取りまとめ結果(第1版)~3623人の声」と「高額療養費制度引き上げ反対の緊急署名(13万5287筆)」を手交し、意見交換を行った。
意見交換では、患者団体が、高額療養費制度の見直しにより、多くの患者が困っていることや、患者から切実な声が寄せられていることなどの現状を伝えた。
これに対し、石破首相は、被保険者の意見なども踏まえ、早急に対応したいと回答。高額療養費制度を維持することが重要とも述べた。
患者団体との面会後に記者会見した石破首相は、高額療養費制度の見直しについて、「検討プロセスに丁寧さを欠いた」との患者団体からの指摘を政府として重く受け止めなければならないと発言。患者に不安を与えたまま、見直しを実施することは望ましいことではないとの考えを示した。
また、国会審議の過程でも、立憲民主党の野田佳彦代表から質疑を受け、日本維新の会、公明党、自民党からも意見を受けたと言及。こうしたことから、令和7年8月に予定している定率改定を含む見直し全体について、実施を見合わせると決断し、本年秋までに改めて方針を検討して決定する方針を表明した。
自民党の森山裕幹事長、小野寺五典政調会長に対して、所要の手続きを検討するよう指示するとともに、公明党の西田実仁幹事長、岡本三成政調会長に協力を依頼したことを報告。
また、「7年度予算案が衆議院を通過した後に、このようなことを申し上げるのは大変申し訳ないこと」と陳謝したうえで、「引き続き、7年度予算の年度内成立に向けて、努力していく」との意向を示した。
関係者に対しては、「今回の対応が本当に極めて厳しい決断である」ということに理解を求めたうえで、高額療養費制度が患者にとって大切な制度であるからこそ、丁寧なプロセスを積み重ねることで持続可能な制度として次の世代に引き継がれるよう努力していくと強調した。
石破首相の見送り方針表明後に記者会見した全国がん患者団体連合会の天野理事長は、7年8月に予定されていた第1段階の定率値上げが回避された決断に感謝したうえで、今秋までの検討プロセスで同様の引き上げ策が出てくることを懸念。
今秋までの検討において、3月3日に発起会を開催した超党派議連「高額療養費制度と社会保障制度を考える会(仮称)」の果たす役割は極めて大きいとの考えを示した。
日本難病・疾病団体協議会の辻常務理事は、7年度予算案が回っていく時期に高額療養費制度の見直しを見合わせる決断をしたことを評価する一方、ここまで結論を先延ばししてきたことを問題視。丁寧な検討プロセスにより、拙速な結論を出さないことを期待した。
また、「高額療養費制度の見直しは保険者救済をどう考えるかという議論にすり替わりつつある」との認識を示し、「保険者救済とは別の議論として行うべき」と主張した。
高額療養費制度の見直しは、昨年12月25日の7年度政府予算編成の重要事項に対する加藤勝信財務相と福岡厚労相の折衝を踏まえて決定。自己負担上限額の引き上げや所得区分の細分化、外来特例の見直しについて、7年8月、8年8月、9年8月の3段階で実施することとした。
この見直しにより、7年度予算案で約▲200億円の財源を見込んでいた。
年明けの国会審議では、高額療養費の自己負担上限額引き上げについて、野党議員から、「来年度は一旦凍結し、患者の意見を踏まえ、再検討すべき」等の質疑が集中。
2月14日には、福岡厚労相が患者団体と面会し、全体の自己負担上限額の引き上げは当初の予定通り行う一方、過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合に4回目から上限額が下がる「多数回該当」の現行額を据え置く方針を表明した。
他方、2月28日の衆院予算委員会では、立憲民主党の野田代表の質疑に対し、石破首相が、経済・物価の高騰に対応した7年度の定率改定を行うこととし、8年度以降に実施する所得区分の細分化は今秋までに政府として患者団体を含む関係者の意見を踏まえたうえで、増大する高額療養費を能力に応じてどのように分かち合うかという観点から改めて方針を検討し、決定すると答弁。
その後、高額療養費制度の「多数回該当」の現行額を据え置く等の修正を行った7年度予算案は3月4日の衆議院本会議で、自民・公明党の与党と日本維新の会の賛成多数で可決し、参院に送付した。
参院予算委員会では、再度、野党議員から高額療養費制度見直しの全面凍結を求める質疑が集中したほか、与党議員からも国民の納得と共感を重要視すべき等、見直しに慎重な質疑が散見された。
7年8月に予定していた自己負担上限額の引き上げを見送る方針により、政府は7年度予算案の再修正や、その手続き等について検討する対応が想定される。