健保ニュース
健保ニュース 2025年新年号
適用拡大・医療保険財政の影響
健保組合は190億円の改善
佐野会長代理 短時間労働業種への支援を
社会保障審議会医療保険部会は12月12日、被用者保険の適用拡大および、いわゆる「年収の壁」への対応をテーマに議論した。
この日の会合では、厚生労働省が、「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」および社保審年金部会・医療保険部会の議論を踏まえ、①賃金要件の撤廃②企業規模要件の撤廃③非適用業種の解消─にかかる見直しの方向性と進め方を提示。
このうち、①は、最低賃金の引き上げに伴い労働時間要件を満たせば本要件を満たす地域や事業所が増加していることを踏まえ、賃金要件を撤廃。その際は最低賃金の動向を踏まえつつ、撤廃の時期に配慮する考えを示した。
また、②は、企業規模要件の撤廃の際に短時間労働者が適用対象となる事業所は50人以下の中小事業所であり、配慮が必要なことから、十分な周知・準備期間を確保。
③は、新たに被用者保険の適用事業所となり、短時間労働者のみならず、フルタイム相当の通常労働者も適用対象となることから、さらに十分な周知・準備期間を確保するとした。
厚労省は、①~③の影響により、医療保険の加入者数は、▽協会けんぽ+125万人(被保険者+155万人、被扶養者▲30万人)▽健保組合+5万人(同45万人、同▲40万人)▽共済組合▲15万人(被扶養者)▽市町村国保▲110万人(被保険者)─にそれぞれ増減すると試算。
また、医療保険財政への影響は、▽協会けんぽ▲510億円▽健保組合+190億円▽共済組合+280億円▽市町村国保+170億円─となり、協会けんぽの財政が大きく悪化する反面、健保組合、共済組合、市町村国保の財政は改善する。
他方、いわゆる「年収の壁」への対応では、被用者保険の適用に伴う保険料負担の発生・手取り収入の減少を回避するために就業調整を行う層に対し、被用者保険(厚生年金・健康保険)で、従業員と事業主との合意にもとづき事業主が被保険者の保険料負担を軽減し、事業主負担の割合を増加させる特例を時限的に設ける案を改めて提示。協会けんぽも健保組合と同様の特例を導入する案も示した。
このほか、被用者保険の適用拡大による市町村国保への影響について、これまでの被用者保険の適用拡大による市町村国保の異動数・財政影響から、▽従前の改正と比較し、今回の見直し案で国保から異動する被保険者が多数▽こうした被保険者数の減少に対しては、保険料水準統一、事務の効率化等の取り組みを進めるとともに、個別の保険者への影響も注視─と整理。そのうえで、国保の構造的な課題への対応は今後の制度改革のなかで検討する方針を示した。
健保連の佐野雅宏会長代理は、「被用者保険の適用拡大における見直しの方向性と進め方に異論はない」と言及。そのうえで、「健保組合は190億円程度、財政が改善するとの試算が示されたが、適用拡大の影響は健保組合の業種ごとにまちまちだ」と指摘し、短時間労働者を多く抱える業種の健保組合への財政支援を求めた。
保険料負担割合を変更できる特例については、「特定の標準報酬月額の者に限って負担割合を変更すると、事務負担が増加し、システム改修も必要となる」と改めて問題提起し、「本質的な対応も合わせて検討しないと、真の解決策にはならない」との考えを示した。
北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は、「今回の適用拡大に伴い、協会けんぽの財政運営において、▲510億円という大きな影響が生じる可能性があることが明らかになった」と言及。
また、新たに155万人の被保険者が加入することになる場合に適用、徴収、給付などの課題が発生するほか、保険者機能を発揮するための体制確保についても準備が必要と強調し、段階的に実施するよう訴えた。