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健保ニュース 2025年新年号

偏在区域・医師の手当増額費用
各保険者が拠出金で全額負担
佐野会長代理 健保組合から厳しい反応多数

厚生労働省は、「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」への派遣医師や勤務医師に対する手当増額支援事業の概要案をまとめ、12月19日に開催された社会保障審議会医療保険部会(田辺国昭部会長)に提示した。

地域偏在対策における経済的インセンティブとして、医師の手当増額支援に要する費用の財源は、各医療保険者が一般保険料の拠出により全額負担する対応を提案。健保連の佐野雅宏会長代理は、「本来、国・都道府県の責任で負担すべき費用を保険者に肩代わりさせる提案で、事業主・被保険者に説明がつかず、到底容認できない」と健保組合から厳しい反応が多数寄せられている状況を訴えた。

本事業は、人口規模、地理的条件、今後の人口動態等から、医療機関の維持が困難な地域である「重点医師偏在対策支援区域(仮称)」で、都道府県の地域医療対策協議会および保険者協議会で支援対象として合意を得た医療機関に対し、派遣される医師および従事する医師への手当増額の支援を行う。

事業費の総額を国が設定したうえで、その範囲内で人口、可住地面積、医師の高齢化率、医師偏在指標等にもとづき、都道府県ごとに按分し、配分する。

医師の手当増額支援に要する費用は、保険者から徴収する拠出金を全額充当。社会保険診療報酬支払基金を徴収事務の実施主体とする。

本事業が本来診療報酬により賄われている人件費に充てられるものであることを踏まえ、拠出金の各保険者の負担は、把握できる直近年度の診療報酬支払実績に応じて按分し、一般保険料として徴収。

医療給付費と同様の、保険者間の財政調整(前期高齢者財政調整、後期高齢者支援金)および公費負担を行う。保険者からの拠出は、保険者の事務を簡素化するため、後期高齢者支援金等と相殺することとした。

実施時期は、国保・後期の保険料設定の考え方や、システム改修期間を考慮して検討する。
 保険者が負担する拠出金について厚労省は、医療給付費全体のなかで一体的に捉える考えを示し、その他の制度改革や診療報酬上の対応とセットで、被保険者の追加負担とならないような形で実施できるよう検討を進めていく意向を示した。

健保連の佐野雅宏会長代理は、医師少数地域における経済的インセンティブとして保険者が費用を負担することについて、「本来、国、都道府県の責任で負担すべき費用を保険者に肩代わりさせるものであり、事業主ならびに被保険者に対する説明がつかず、保険者の立場から到底容認できない」と健保組合から厳しい反応が多数寄せられていると言及。

こういった状況のなかで、仮に保険者に負担を求めるとしても極めて限定的な対応とすべきと指摘し、その際は、▽現役世代の保険料負担の増加につながっていないか▽医師偏在の是正に貢献しているか▽地域ごとに取り組み格差が生じていないか─等について進捗状況をチェックする仕組みが極めて重要との考えを示した。

また、医師偏在対策に向けて、数値目標を含めたきめ細かい計画を策定し、その計画と実際の進捗状況をチェックできるような会議体の設置を要望した。

北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は、仮に、保険者に拠出を求めるのであれば、事業主や被保険者が納得できるような環境整備が必須と強調。

今後、様々な視点から際限なく保険料の拠出を求められることを懸念し、法令等で明確に規定するほか、今回提案された拠出を前例として、さらなる制度拡大の根拠としないよう訴えた。

井上隆参考人(日本経済団体連合会専務理事)は、職域保険は従業員のエンゲージメントを高めていくところに重点が置かれているとの観点から、保険料を医師偏在対策に流用することは納得感に欠けると発言。

保険者の拠出だけが追加的に発生することのないよう、診療報酬全体のなかで十分な調整を図るとともに、今後は保険料の保険給付外の使用が拡大することのないよう留意する必要があるとした。

藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は、保険者に負担を求めるのであれば、事業費を最小限にとどめるとともに、これ以上は負担が増加しないよう、予め上限を設定することや保険者、被保険者の側で効果が確認・検証できるようなガバナンスを構築することなどの取り組みが前提になると主張した。

村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、「保険給付と関連性の乏しい使途に保険料を充当することは妥当性を欠くことや、給付と負担の関係性にもとづく社会保険の原則からしても、被保険者の納得を得ることは難しい」と述べた。

前葉泰幸委員(全国市長会相談役・社会文教委員/津市長)は、「仮に、保険者からの拠出を求める場合でも、恒久的な制度とせず、厳格なチェック体制の元で運用するべき」と要請。今後の医療保険制度に大きな影響を及ぼすことも想定されると指摘し、拙速に議論を進めるのではなく、時間をかけた丁寧な議論が必要との考えを示した。

田辺部会長は、厚労省に対し、委員からの意見を踏まえ必要な対応を図ったうえで、制度改正等を進めるよう求めた。

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