健保ニュース
健保ニュース 2024年12月中旬号
厚労省が高額療養費見直しへ試算
保険料は最大で4300億円減
佐野会長代理 現役世代の負担軽減へ改革必須
厚生労働省は5日の社会保障審議会医療保険部会(田辺国昭部会長)に、高額療養費の機械的なモデル試算を提示した。所得区分の細分化を行ったうえで、自己負担限度額を機械的に5~15%引き上げた場合の保険料等への影響を分析。保険料は▲2600~▲4300億円、加入者1人当たり保険料は年▲600~▲5600円が軽減される。健保連の佐野雅宏会長代理は、現役世代の負担軽減が喫緊の課題との観点から、「高額療養費の見直しは不可欠」と強調した。高額療養費の見直しは、同部会で方向性を了承した後、政府・与党の調整を経て、年末の令和7年度予算編成過程で決着する見通し。
社会保障審議会医療保険部会は5日、医療保険制度改革をテーマに議論した。
11月21日の会合では、被保険者の保険料負担を軽減する観点から、高額療養費の自己負担限度額の引き上げや所得区分の細分化を見直しの視点とした検討の方向性を了承。この日の会合では、厚生労働省が、機械的なモデル試算の考え方を示した。
きめ細かい制度設計を行う観点から、住民税非課税区分を除く各所得区分の細分化を行ったうえで、自己負担限度額を機械的に一律の率で引き上げた場合の保険料率等への影響について分析。70歳未満の所得区分は、現行の5区分から13区分へと細分化する案を例示した。
一律の率は、平成27年度から令和5年度の▽世帯主収入(+7.0%)▽CPI(+7.5%)▽平均給与(+9.5%)▽世帯収入(+15.9%)─の変化や、平成27年度から令和4年度の協会けんぽ・平均総報酬月額の推移(+6.5%)を参考に、①+5%、②+7.5%、③+10%④+12.5%⑤+15%─の5パターンで試算。
それによると、「保険料」は①▲2600億円②▲3100億円③▲3500億円④▲3900億円⑤▲4300億円─、「加入者1人当たり保険料軽減額(年額)」は①▲600円~▲3500円②▲800円~4100円③▲900円~4600円④▲1100円~▲5100円⑤▲1200円~▲5600円─がそれぞれ軽減される。
他方、「給付費」は①▲3600億円②▲4300億円③▲5000億円④▲5600億円⑤▲6200億円─、「実効給付率の低下幅」は①▲0.43%②▲0.51%③▲0.59%④▲0.67%⑤▲0.74%─が軽減。
また、公費は①▲1000億円②▲1200億円③▲1500億円④▲1700億円⑤▲1900億円─が軽減されると見込んだ。
厚労省は、「加入者1人当たり保険料軽減額(年額)」について、現役世代は医療費と高齢者支援金の二重で効いてくるため、後期高齢者に比べ軽減幅が大きくなると説明。また、実効給付率は平成27年度から令和3年度の6年間で+0.62%増加していると報告した。
健保連の佐野雅宏会長代理は、加入者1人当たり保険料軽減額は高齢者で小さく、現役世代で大きい試算結果について、「現在、現役世代が高齢者医療にかかる拠出金も含めて過重な負担を強いられていることの裏返しだ」と発言し、現役世代の負担軽減が喫緊の課題との観点から、「高額療養費の見直しは不可欠」との考えを示した。
所得区分の引き上げ幅については、実効給付率が前回の高額療養費の見直しを行った平成27年度から6年間で0.62%増加し、今後も伸びる見通しの増加幅をカバーできるような水準にするよう要望。
合わせて、「前回の見直しでは、上位所得者・区分の自己負担限度額は標準報酬に対応する総報酬月額の25%、一般所得者・区分の自己負担限度額は協会けんぽの平均標準報酬に対応する総報酬月額の25%となるよう設定された」と指摘したうえで、今回の見直しにあたり、直近の賃上げ状況も踏まえつつ、同様の考え方で引き上げ幅を見直すべきと訴えた。
他方、「70歳以上高齢者の外来特例は、二重、三重のセーフティネットになっている」と問題提起し、上位所得者・区分の自己負担限度額の見直しに合わせて、外来特例の廃止も含めた抜本的な見直しが必要と強調。年間上限額の廃止や月額上限額の引き上げについて検討を進めるべきと述べた。
横本美津子委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)は、高額療養費の自己負担限度額について、「現役世代が保険料負担の軽減を実感できるよう、相当程度、高い水準で引き上げていくことが重要」と言及。70歳以上の外来上限特例についても、廃止の方向で検討するよう求めた。
一方、城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、「外来特例に該当する高齢者は類型も含め様々だ」との認識を示し、「外来特例の廃止には明確に反対する」と主張。該当者の分析を適切に行ったうえで、追加負担の可否を丁寧に議論する必要があるとした。
北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は、「保険料負担の軽減を図る観点から、負担能力に応じた負担となるよう見直していくべき」と述べたうえで、施行時期については、保険者がシステム改修に必要な期間を確保できるような配慮を要請した。
高額療養費の見直しについて厚労省は、次回会合で方向性の取りまとめをめざす。その後、政府・与党で調整を進め、年末の令和7年度予算編成過程で決着する見通しだ。