健保ニュース
健保ニュース 2024年12月上旬号
福岡厚生労働相が会見
全世代型社会保障構築へ改革
保険料 負担上昇抑制を重要課題
福岡資麿厚生労働相は11月20日、専門誌・紙記者と会見し、全世代型社会保障の構築や令和7年度薬価改定に向けた対応などを語った。全世代型社会保障の構築に向け、現役世代の負担に配慮し社会保険料の負担上昇を抑制していくことは、非常に重要な課題と指摘し、昨年末に閣議決定した「改革工程」にもとづき、必要な改革を組み込んでいくと強調。7年度薬価改定は、「イノベーションの推進」と「国民皆保険の持続可能性」の両立を図ることが必要との認識を示し、政府の「骨太方針2024」を踏まえ、中央社会保険医療協議会で議論していくとした。(福岡厚労相の発言要旨は次のとおり)
─就任にあたっての抱負と決意
厚生労働省は国民の生活を生涯にわたり支えるという使命を担っており、国民からの期待が大変大きい分野だと認識している。改めて、その責任の大きさに身の引き締まる思いだ。
総理からの指示も踏まえ、実質賃金の増加を実現するとともに人生の多様な選択肢を実現できる柔軟な社会保障制度を構築し、すべての方に安心・安全をもたらすことができるよう全力で取り組んでいきたい。
─全世代型社会保障の構築
私自身が「団塊ジュニア」世代だ。2025年にいわゆる「団塊の世代」がすべて後期高齢者に移行し、2030年以降に生産年齢人口が急激に減少していくなか、2040年には高齢者人口がピークを迎え、以降、急激な人口減少社会に入っていくことが見込まれている。
少子高齢化・人口減少といった変革期において、国民1人ひとりが安心して活躍できる社会保障制度を構築し、しっかりと次世代に引き継いでいくことが、厚生労働大臣としての使命だと感じている。
社会保障給付の水準が増大し、所得に占める社会保険料の負担割合が増加傾向にあることを踏まえると、現役世代の負担に配慮し社会保険料の負担上昇を抑制していくことは、非常に重要な課題だ。
このため、能力に応じて支え合う全世代型社会保障の構築に向けて全力を挙げて取り組んでおり、引き続き、昨年末に閣議決定した「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」にもとづき、必要な改革を組み込みながら、必要な保障が欠けることがないよう取り組んでいく。
─医療提供体制の方向性
保険料を支払った方が医療を必要とした時にサービスをしっかりと受けられることが医療保険制度の1番の信頼の基礎になると考えている。医師偏在地域でこれが保たれないとすれば、改善していく必要がある。
医師偏在については、8月末に、経済的なインセンティブや医師養成過程での取り組み、規制的手法等を組み合わせた「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」の骨子案を示した。
今後の人口動態も踏まえた、地域ごとの実態を反映した実効ある取り組みを進めることが重要であり、医療関係者や地方自治体からの意見を踏まえ、年末の「総合的な対策パッケージ」策定に向け、検討を進めていきたい。
また、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」では、医療機関から報告を求めるかかりつけ医機能の内容や令和5年に成立した改正医療法の施行に向けた議論を行い、7月末に取りまとめた。
各医療機関にかかりつけ医機能に関する報告を求め、その情報を広く提供することで、国民・患者の適切な医療機関の選択に資するとともに、地域ごとに必要となる医療機関を確保するための関係者間の検討を促す仕組みだ。制度の円滑な施行に向けて必要な取り組みを着実に進めていきたい。
2040年頃を見据えた新たな地域医療構想では、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上の高齢者の人口増大に対応できるよう、対象範囲を入院医療だけではなく、外来医療や在宅医療、医療介護連携に拡大していく。また、高齢者救急の受け入れ体制の確保や在宅医療の推進など医療機関の機能に着目した医療提供体制を構築する。
限られた医療資源を効率的に提供する体制を実現することを基本的な方向性として議論を行っている。年末の取りまとめに向けて、有識者による検討会で議論を進めていく。
─マイナ保険証の利用促進
直近10月のマイナ保険証の利用件数は3412万件で利用率は15.67%。上昇傾向ではあるが、さらなる利用促進の取り組みが必要だ。
マイナ保険証は過去の医療情報を活用し、より良い医療の提供を可能にする。このメリットを国民に実感してもらうため、本年12月2日からマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する方針を示しており、しっかりと進めていきたい。
一方で、移行に不安を感じている方のことも認識している。このため、最長1年間は現行の保険証を使い続けられることやマイナ保険証を取得していない場合は申請をすることなく、保険者から資格確認書が交付されることなどを周知し、すべての方が12月2日以降も安心して保険診療を受けられる環境整備に取り組んでいる。
他方、マイナ保険証は、医療DXを推進するうえでの基盤だ。電子処方箋によるリアルタイムの薬剤情報の共有によって重複投薬や併用禁忌の防止が可能となり、救急医療での医療情報共有によって速やかに必要な医療の提供が可能となる。医療DXの推進により、より安全で質の高い効率的な医療が提供可能となるよう、マイナ保険証の利用をさらに促進し、医療DXを推進していきたい。
─令和7年度薬価改定に向けた対応
令和7年度薬価改定は大きな課題だ。イノベーションの推進と国民皆保険の持続可能性の両立を図っていくことが必要な観点となる。また、医薬品の安定供給は、一部支障を来していると言われている。国民に必要とされる医薬品をどう適切に提供していくかが、極めて大きな課題だと考えている。
令和7年度薬価改定については、6月に閣議決定した「骨太の方針2024」で「イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、そのあり方について検討する」とされたことを踏まえ、中央社会保険医療協議会で議論していきたい。
─人材確保に向けた賃上げ
医療・介護のニーズが一層高まる一方、人材確保に苦慮する状況と認識している。処遇改善により人材を確保し、それだけでは賄いきれない部分を医療DXの推進で効率化を図っていきたい。
まずは、令和6年度の診療報酬と介護報酬の同時改定を通じた処遇改善に向けた措置が最大限に活用され、医療・介護分野における確実な賃上げを実感してもらえるようにすることが大切だと考えている。
一方、賃上げを実施しても、他産業と比べて十分ではないとの声が多数あり、政府の「総合経済対策」に処遇改善に資する支援策を盛り込むことを検討しているところだ。
─年金制度改革
7月に令和6年度財政検証結果を公表した。現在、次期年金制度改正に向け、働き方に中立的な年金制度の構築や年金制度の所得保障の再分配機能の強化といった観点から検討を進めており、先般の社会保障審議会年金部会において被用者保険の適用拡大やいわゆる「年収の壁」について議論した。
引き続き、年金部会における年末の取りまとめに向け、与党と調整しながら丁寧に検討していきたい。