健保ニュース
健保ニュース 2024年11月下旬号
年金部会が「年収の壁」を議論
保険料負担割合 就業調整に対応した特例を検討
社会保障審議会年金部会(座長・菊池馨実早稲田大学理事・法学学術院教授)は15日、令和7年の次期年金法改正に向けて、「年収の壁」への対応策の検討に当たり、就業調整に対応した保険料負担割合を変更できる特例などを議論した。
この日の会合では、厚生労働省が、被用者保険の適用拡大および第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応として、見直しの方向性や論点を提示した。
「被用者保険の適用拡大」は、これまでの議論を踏まえ、短時間労働者の①労働時間要件(週の所定労働時間が20時間以上)②賃金要件(賃金が月額8万8000円(年収換算で約106万円相当)以上)③学生除外要件④企業規模要件(従業員50人超)─および⑤個人事業所の被用者保険の適用範囲─の見直しの方向性案を示した。
このうち、②は、最低賃金の引き上げに伴い労働時間を満たせば要件(時給換算で1016円以上)を満たす地域や事業所が増加していることを踏まえ、検討を要するとした。
また、④は、労働者の勤め先などに中立的な制度を構築する観点から、年金法の次期改正において撤廃する方向性が示された。
「第3号被保険者制度を念頭に置いたいわゆる「年収の壁」への対応」は、「年収の壁」への対応策の考え方を整理したうえで、(1)就業調整に対応した保険料負担割合を変更できる特例の新設(2)第3号被保険者制度のあり方─を論点として示した。
(1)は、被用者保険の適用に伴う手取り収入の減少などから就業調整を行う層を対象として、事業主と従業員との合意にもとづき、被用者保険(厚生年金・健康保険)の保険料負担割合を被保険者の利益になるよう変更し、事業主の負担割合を増加させることを認める特例を提案した。
(2)は、これまでの被用者保険の適用拡大や「年収の壁」への対応によって、第3号被保険者制度は縮小の方向に向かっていくことから、制度の在り方や今後のステップを論点として提示した。
小林洋一委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は、「被用者保険の適用拡大」における②の撤廃について、今以上に就業調整の拡大や人手不足の誘因となることを懸念した。
「年収の壁」への対応の(1)については、「現行、健保組合のみで認められている特例で、おそらく大企業での活用が多いのではないか」と指摘したうえで、「事業主の負担割合を引き上げられる企業が多いとはとても思えず、待遇格差を助長し、人材の流出を助長するだけだ」と主張した。
出口博基委員(日本経済団体連合会社会保障委員会年金改革部会長)は、「被用者保険の適用拡大」の④を速やかに撤廃すべきと言及した。
「年収の壁」への対応の(2)については、「企業においても、L字カーブの是正・解消をめざす取り組みを加速させるとともに、年金制度の適用拡大を進め、第3号被保険者の縮小に取り組むことが肝要」と主張。「今後は、適用拡大の進捗状況も踏まえたうえで、第3号被保険者制度の在り方を検討することが望ましい」との考えを示した。
厚労省は今後、各論点を年金部会で再度議論したうえで年末までに年金制度改正の内容を取りまとめる。来年の次期通常国会に年金制度等改正法案を提出する予定とした。