健保ニュース
健保ニュース 2024年11月下旬号
財務省が社会保障改革の方向性
現役世代の負担軽減へ 高額療養費制度の見直し提言
医師偏在は診療報酬の減算措置
財政制度等審議会(十倉雅和会長)の財政制度分科会は13日、令和7年度予算編成と今後の財政運営への考え方を提言する「建議」の取りまとめに向け、財務省の社会保障改革案にもとづき議論した。医療分野では、財務省が高額療養費制度について、現役世代をはじめとする被保険者の保険料負担の軽減を図る観点から、物価・賃金の上昇など経済環境の変化も踏まえ、必要な見直しを検討するよう提言した。他方、実効性ある医師偏在対策のためには、診療報酬上のディスインセンティブ措置が不可欠と強調。7年度薬価改定に向けては、すべての品目に算定ルールを適用する完全実施を求めた。
令和7年度の薬価改定
対象と適用ルール拡大
この日の財政制度分科会は、社会保障をテーマに議論し、財務省から総論や医療・介護・年金分野における課題と改革の方向性が示された。
総論では、令和7年度予算編成における課題を、▽こども未来戦略にもとづく加速化プランの着実な実施▽全世代型社会保障制度の構築▽年金制度改革─と整理。
このうち、「全世代型社会保障制度の構築」は、現役世代の保険料負担上昇の抑制に向けた具体策として、▽保険給付の効率的な提供▽保険給付範囲の在り方の見直し▽高齢化・人口減少下での負担の公平化─を掲げた。
社会保障にかかる現役世代の保険料率は3割を超える水準で、今後も継続的に上昇する見込みと指摘。医療・介護の保険料率の上昇を抑制する取り組みを強化しないと、足元の構造的賃上げ等の動きを阻害するほか、中期的にも保険制度が持続できないと問題提起した。
医療分野では、①医薬品関係②医療提供体制③その他、全世代型社会保障構築に向け取り組むべき項目④制度の持続可能性を確保していくための今後の改革の方向性─について提言。
①は、7年度薬価改定について、原則すべての医薬品を対象に、実勢価格に合わせた改定を実施すべきと強調。合わせて、現役世代を含む国民負担軽減の観点から、「新薬創出等加算の累積額控除」や「長期収載品の薬価改定」など、既収載品の算定ルールをすべて適用すべきとの考えを示した。
他方、現役世代の保険料負担の上昇に直結する「調整幅」について、国民皆保険制度の持続可能性を確保する観点から、「少なくとも、価格や薬剤の種類によらず一律に2%としていることについて、在り方の検討が必要」とした。
リフィル処方は、患者の通院負担の軽減や利便性の向上、医療機関の効率的な経営、医療費の適正化の「三方良し」となりうるもので、国民各層への周知徹底と医療関係者への一層の普及により、「リフィルが当たり前」の世の中になることが期待されると指摘。
今後、政府を挙げてリフィル処方を短期的に強力に推進していく観点から、早急に的確なKPIを設定するとともに、さらなる利用促進のために必要な政策対応を検討するよう訴えた。
自助・公助の適切な組み合わせの観点から、保険給付範囲の在り方について提言。セルフメディケーションの推進、市販品と医療用医薬品とのバランス、リスクに応じた自己負担の観点等を踏まえ、OTC類似薬に関する薬剤自己負担の在り方のほか、医薬品の有用性に応じた自己負担率の設定や薬剤費の定額自己負担の導入について検討を進めるべきとの考えを示した。
過剰サービスの保険給付
超過額に精算措置導入を
②は、医師偏在対策について、「骨太方針2024」にもとづき、医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在是正に向けた強力な対策を講じるべきとした。
病院勤務医から開業医へのシフトを促すことのないよう、診療報酬体系を適正化していく必要があるとしたほか、外来医師多数区域での保険医の新規参入に一定の制限を設けることはもとより、既存の保険医療機関も含めて需給調整を行う仕組みを創設するなど、真に実効性ある医師偏在対策となるよう、これまでにない踏み込んだ対応を行うべきと提言した。
地域別診療報酬の仕組みを活用し、報酬面からも診療所過剰地域から診療所不足地域への医療資源のシフトを促していくべきと主張。当面の措置として、診療所過剰地域における1点当たり単価(10円)の引き下げを先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化する考えを示した。
さらに、実効性ある医師偏在対策のためには、診療報酬上のディスインセンティブ措置が不可欠と強調し、適切なアウトカム指標導入とセットで、「特定過剰サービス(特定の診療科にかかる医療サービスが過剰)」に対する減算措置の導入を提言。
「特定過剰サービス」にかかる保険給付については、アウトカム指標に応じた減算措置に加え、各年度の「基準額」を超過した場合の精算措置の導入を検討する必要があるとした。
新たな地域医療構想は、地域医療提供体制の効率化を反映した必要病床数や外来需要等に立脚したものであるべきとした。
このほか、後期高齢者医療制度は、都道府県とは別の地方公共団体として「後期高齢者医療広域連合」が設置され、医療費適正化計画や地域医療構想の推進主体と、保険財政の運営主体とが切り離される形となっており、ガバナンス機能を発揮すべき責任主体が曖昧となっていると指摘。
後期高齢者医療制度も、財政運営の主体を都道府県とする検討を求めた。
現役並み所得者の判定
世帯収入要件を見直し
③は、現役と同様、患者負担3割を求める後期高齢者の「現役並み所得者」の割合が実行負担率に影響することも踏まえ、「現役並み所得」の判定基準について現役世代との公平性を図り、世帯収入要件について見直しを行うべきとした。
他方、高額療養費制度については、世代間・世代内での負担の公平化を図り、負担能力に応じた負担を求めることを通じ、現役世代をはじめとする被保険者の保険料負担の軽減を図る観点から、物価・賃金の上昇など経済環境の変化も踏まえ、必要な見直しを検討すべきと提言した。
介護分野では、「改革工程」に沿って、所得だけでなく金融資産の保有状況等の反映の在り方や、きめ細かい負担割合の在り方と合わせて検討したうえで、2割負担の対象者の範囲拡大について早急に実現すべきと主張。また、医療保険と同様に、利用者負担を原則2割とすることや、現役並み所得(3割)等の判断基準を見直すことの検討を求めた。
年金分野では、被用者保険の適用拡大に対し、今般の改正において、企業規模要件の撤廃および常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消について確実に実現すべきとした。