健保ニュース
健保ニュース 2024年11月中旬号
セルメディ・シンポジウム
五十嵐氏 医療費削減効果を推計
日本一般用医薬品連合会は6日、「医療におけるOTC医薬品の価値」セルフメディケーションシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、「スイッチOTCによる医療費削減のポテンシャル」をテーマに東京大学大学院薬学系研究科医療政策・公衆衛生学特任准教授五十嵐中氏が基調講演を行った。
五十嵐氏は、「日本は「みんなが安価で必要な医療にアクセスできる国民皆保険」に加え、ほぼすべての薬を保険でカバーしている国際的にも例外的な国」と述べる一方、「コロナを機に、医療財源だけではなく、モノやヒトに限りがあると実感したことで、国民の意識に変化が生じている」と指摘した。
2021年調査で、現状の公的医療保険制度を維持していくための方法を聞いたところ、「一部の薬は保険から外す(給付制限)」と回答した者が、「自己負担や保険料・税金を上げてすべてをカバーする」と回答した者を、30代以上の全世代で上回る結果となった。2023年の調査では、給付制限を支持する若い世代の割合が上昇したと報告。
給付制限で最初のターゲットになる医療は、OTC医薬品で代替可能な軽医療(湿布、鎮痛剤、うがい薬など)と6割が回答していると指摘した。
行動変容が起点
取り組みの社会実装を
五十嵐氏は、OTC医薬品への置き換えによる医療費削減効果にかかる推計を3回にわたり実践している。2020年には、初・再診料、調剤料なども含む医療費を前提に推計。すでにOTC対応可能なかぜ症候群や鼻炎などの治療薬と将来的にOTC化の可能性がある高血圧治療薬などを合わせると、3210億円が削減可能とした。
2022年には、現状でOTC医薬品に置き換え可能となる薬剤費は3278億円、OTCが存在する成分がある範囲で6510億円、OTCが存在する薬効分類まで拡大すると6.0兆円のシェアがあると推計した。
直近の2024年には、生活習慣病関連5疾患に限定し推計を行った。1年以上の間、同一薬剤1剤のみの投薬を受け、併発疾患がない「状態が安定している患者」を対象に医薬品をOTC化すると、1123億円の医療費削減が可能になる。
こうした結果について五十嵐氏は、「あくまでも潜在的な削減幅でしかない」と説明。「潜在」を「顕在」にするためには、セルフメディケーション・セルフメディケーション税制の利用のための「道しるべ」の提供が必要と強調した。セルフメディケーションは、患者・国民の行動が起点となるため、行動変容を促す取り組みの社会実装が重要と言及。
様々な取り組みのうち、メリットを享受できる保険者の事例として、健保組合の保健事業を紹介した。花粉症・アレルギー性鼻炎などの疾患に絞り、レセプトデータから対象者を選定し、OTC医薬品で購入できるという通知を送付。相談窓口や購入サイトの情報を付加する。自分の飲んでいる薬と同じ成分の薬が市販薬で買えるという選択肢に気づきを与えるもの。
五十嵐氏は、「治療の価値」は、家族の負担・仕事への影響など様々な要素から定義できると述べ、医療資源をひっ迫させないことそのものが価値を持つ時代になってきていると述べた。
保険医療費を削減することで保険医療システムを、本当に必要な人が必要な回数だけ医療機関に来ることで物理的な医療資源を「持ちこたえさせること」、これがセルフメディケーションの役割と述べ、講演を締め括った。