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健保ニュース 2024年11月上旬号

宮永俊一会長・基調演説
持続可能な制度へ改革断行を
2025年乗り越え皆保険を未来に継承

健保連の宮永俊一会長は10月24日の令和6年度健康保険組合全国大会で基調演説した。団塊の世代がすべて後期高齢者入りし、高齢者医療費のさらなる増大と現役世代の減少が重なる「2025年問題」への対応が「焦眉の急であることは間違いない」と指摘。制度の安定と持続性を高めるための「給付と負担の見直し」をはじめとしたさらなる改革の断行が不可欠と強調した。国民の安心の礎となる皆保険制度を将来世代へ確実に引き継いでいくためにも、制度の支え手である現役世代の負担を軽減し、全世代が納得して負担し合える持続可能な制度に向けた改革の断行を訴求。健保連で今年4月以降、議論を重ねている「新提言」の策定などの新たな取り組みを通じて2025年を乗り越え、皆保険制度を未来につなげていく考えを示し、健保組合の理解と協力を求めた。また、国政に様々な要請活動を行うなど、健保組合の主張を浸透させ、改革の実現につなげるために、先頭に立って取り組んでいく決意を表明した。(宮永会長の基調演説は次のとおり)




令和6年度健康保険組合全国大会の開会にあたり、一言あいさつ申し上げる。

今年度は、例年と会場を替えての開催となったが、全国からおよそ1200名の方に出席いただき、また、WEBでも2000名以上の方に視聴いただいている。

健保組合全国大会は、全国の健保組合関係者が一堂に会し、われわれの団結をさらに強めるとともに、われわれの声を世論に、そして国政に広く訴える重要な大会だ。

本日は、衆議院議員総選挙期間中の大変お忙しい時期ではあるが、福岡資麿厚生労働大臣にお越しいただき、われわれが共有する危機感と、改革への強い思いを込めた「大会決議文」を直接手交することになっている。

本日の全国大会を通じて、健保組合加入者2800万人の声を広く世の中に、そして国政にしっかりと届けていきたいと思う。

今日、われわれは、かつてない大きな時代の変化に直面していると感じている。

世界情勢は緊迫し、長期化するロシアによるウクライナ侵攻はもとより、中東情勢の悪化や、大国間の覇権争いなど、分断と混迷の度合いが、より深まっているように思う。

11月には世界が注目するアメリカ大統領選挙も控えており、世界のリーダー達が皆で平和への歩みを進め、世界がより良い方向へ向かうことを願って止まない。

また、国内では、この夏の猛暑に加えて、度重なる地震や勢力の強い台風、集中豪雨、初の南海トラフ地震臨時情報の発表など、実際の自然災害や発生リスクなどに、われわれの社会生活が大きな影響を受け、身の回りの防災、減災に取り組む大切さを痛感した。

お亡くなりになった方々に、心から哀悼の意を表するとともに、被災された多くの皆様にお見舞い申し上げる。被災地の復旧と復興が加速されることを切に願う次第だ。

「2025年問題」への
対応は「焦眉の急」

さて、わが国の社会・経済の状況をみると、物価高や為替変動など懸念要素が一部残っているものの、昨年に続き、高水準となった春闘を契機に賃上げの機運がより多くの企業に広がりつつあり、景気にも明るい兆しが見えてきた。

引き続き、大企業のみならず、全国の事業者・団体全体に賃上げが拡がっていくことで、実質賃金をプラス状態に維持していくことが大切だ。

こうしたなか、今月1日には、自民党、公明党連立による、石破内閣が発足した。
 石破首相は所信表明演説で、「国民の納得と共感」を得ながら、「安心で豊かな日本を再構築する」と力強く述べられた。

長く続いたデフレ脱却を確実なものとして、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現をめざすとしている。

少子化対策や社会保障改革も重要課題にあげられ、国民が安心して暮らせる制度を確立し、「次の時代に負担を先送りしない、それが今を生きるわれわれの責任」との決意を示された。

こうした状況下にあって、われわれ健保組合、そして医療・社会保障を取巻く環境は、年々、厳しさを増している。

少子化の影響はとりわけ顕著であり、昨年の出生数は72.7万人、合計特殊出生率は1.20と、いずれも過去最低となった。

今年は70万人を下回る可能性も指摘されており、少子化と人口減少に歯止めがかかる兆しが見えない。

一方、いわゆる「団塊の世代」がすべて後期高齢者入りし、高齢者医療費のさらなる増大と、現役世代の減少が重なる「2025年問題」への対応は焦眉の急であることは間違いない。

先ごろ公表した令和5年度の健保組合全体の決算見込みでは、経常収支は1367億円の赤字となった。

経常赤字は2年ぶり、1000億円を超える赤字額は平成25年度以来、10年ぶりの大きさである。赤字組合は、全体の5割を超える726組合にのぼる。

保険料収入は、昨年の賃上げの影響もあって、2.7%増加したが、一方で、保険給付費は5.3%、さらに、高齢者医療への拠出金は7.3%と、大きく増加した。

特に、後期高齢者支援金は10%近くも増加しており、これから高齢化のピークを迎える2040年頃にかけて、この傾向はさらに強まっていくものとみられ、高齢者医療制度の見直しや高額医療費への対応が必要だ。

今現在でも、拠出金は健保組合の支出のおよそ半分を占め、自主・自立で運営するわれわれの財政を圧迫する大きな要因となっている。

健保組合がこれ以上財政的に苦しみ、負担に耐え切れず解散に追い込まれるような事態は何としても避けなければならない。

政府は、これまでもすべての世代が負担能力に応じて支え合う、「全世代型社会保障制度の構築」に向けた改革を進めてきたが、まだまだ十分な内容とは言えない。

制度の安定と持続性を高めるためには、「給付と負担の見直し」をはじめとしたさらなる改革の断行が不可欠だ。

また、医療体制やサービス面にも多くの課題が残されている。
 コロナ禍を経て明らかとなった医療提供体制の課題を総括し、患者や国民が真に良質かつ効率的な医療サービスを受けられるようにするため、AIやデジタルツールを駆使して展開している他国のプラットフォームや他の産業分野の知見等を参考にしつつ、医療・介護分野のDXをいっそう前に進めていく必要がある。

そして、なによりわれわれ保険者としても、加入者の健康を守るために、これらの課題にしっかりと取り組んでいかなければならない。

皆保険制度は安心の礎
将来世代に確実に継承

こうした状況認識のもと、本年度の大会テーマは「現役世代を守るための改革断行を!‐2025年を乗り越え、未来につながる皆保険制度に‐」とした。

国民の安心の礎となる皆保険制度は、世界に類を見ない素晴らしい制度であり、未来へつなげ、次の時代を担う若者たち、将来世代に確実に引き継いでいかなければならない。

そのためにも、制度の支え手である現役世代の負担を軽減し、全世代が納得して負担し合える、持続可能な制度に向けた改革の断行を訴えたい。

こうした強い決意の下、本日の全国大会では4つのスローガンを掲げている。

1つ目は「皆保険を全世代で支える持続可能な制度の実現」 だ。
 国民の安心を支えてきた皆保険制度は現在、文字どおり存続の危機に直面している。

世界に誇る皆保険制度を持続させるためにも、今こそ「現役世代の負担軽減」や「世代間の給付と負担のアンバランス解消」などの課題に道筋をつけ、皆保険制度を全世代で支える仕組みに改革しなければならない。

具体的には、前期高齢者の年齢を70歳に引き上げることや74歳までの窓口負担割合を原則3割にするなどの制度改革を実行すべきだ。

また、今年の通常国会で成立した、子ども子育て支援金については、本来の保険原理の考え方からは離れた事柄だが、国民全員によって支え合う必要があることに変わりはなく、国がしっかりと説明責任を果たすこと、また、各医療保険者で差が生じないよう、一般保険料率とは別に、実務上、一律の率を示す取り扱いを堅持するよう求めていく。

出産費用の保険適用に関しては、厚生労働省において検討会が始まったところだが、「透明性・公平性の担保」や「適切な保険適用範囲の設定」などを基本に今後、幅広い観点で主張をしていく。

2つ目は「医療の効率化に資する医療DXの推進」だ。
 医療DXは、国民がより良質かつ効率的なサービスを受けられる体制を構築するものであり、持続可能な社会保障制度を築くためには不可欠な施策だ。

12月2日には、いよいよマイナ保険証を基本とする仕組みに移行することになるが、国民がそのメリットを実感していくためには、国が責任をもって「全国医療情報プラットフォーム」を構築し、「電子処方箋の普及」や「電子カルテ情報の標準化」などを着実に進めていく必要がある。

現在のところ、マイナ保険証の利用率は全体の目標には届いていないが、現行の保険証では実現できなかった、各種の質の高い医療の提供や医療の効率化、さらには、患者の利便性向上や個人の健康管理の増進にも貢献する、重要な新しい基盤であることは間違いない。

健保組合の現場におかれては、業務ご多忙のなか、大変なご苦労を掛けていることと思うが、引き続き、ご協力を賜るようお願い申し上げる。

3つ目は「安全・安心で効果的・効率的な医療提供体制の構築」だ。
 医療ニーズの質・量の変化、医療・介護従事者の人材不足などを背景に、国民一人ひとりが「必要な時に必要な医療」を受けられる医療提供体制をいかに構築し、維持していくことが、極めて重要だと言える。

今後も適切な医療サービスを確保し質を向上させていくためには、医療機能の分化・連携の強化が必須だ。

まずは、来年度からはじまる「かかりつけ医機能報告制度」をしっかりと軌道にのせ、国民にとってわかりやすく、安全・安心で効果的な医療提供体制を構築していかなければならない。

また、医療の重点化・効率化の観点から、医療の質を担保しつつ、保険給付のあり方や薬剤処方の適正化などの「給付と負担の見直し」にも取り組んでいく必要がある。

4つ目は、「健康寿命の延伸につなげる健保組合の役割強化」だ。
 これまで健保組合は事業主とともに、加入者の特性に応じたきめ細やかな保健事業を効果的・効率的に展開してきた。

働く世代の健康づくり・疾病予防などに取り組むことで国民の健康寿命の延伸にも貢献してきた。

今年度からは、第3次の「健康日本21」が始まり、健康への取り組みは新たなステージに入る。

働き方やライフスタイルが多様化するなかで、健保組合としても、「第3期データヘルス計画」、「第4期特定健診・特定保健指導」にも注力し、医療DXを活用しながら、これまで以上に保険者としての役割を強化し、先駆的な取り組みを実施していく。

主張、改革の実現へ
先頭に立って活動

長い歴史を有するわが国の社会保障制度は、先人たちの努力によって、その時代、時代にあった形に見直され、少しずつ変化を遂げながら、国民の暮らしを支え続けてきた。

急速に変化するこの令和の社会においても、より良い制度の実現に向けた不断の努力を続けることは今を生きるわれわれの責務でもある。

もちろん一朝一夕にはなしえないが、それゆえに国だけでなく、保険者も、医療提供者も、そして患者も、国民全員も、みんなが当事者として、国民皆保険制度の崩壊を防ぎ、守り、そして未来につなげていかなければならない。

こうした認識のもと、健保連では、本年4月から、新たな「提言」の策定に向けて「ポスト2025」新提言検討WG(ワーキンググループ)を組織し、議論を重ねているところだ。

この提言は、高齢化のピークを迎える2040年頃までの社会変化を想定しつつ、加入者、国民の皆様にお願いすることに加えて、5年後、10年後に向けて国が実現すべき改革や健保組合に求められる新たな役割などを意識する必要がある。

まずは、加入者、国民に医療保険制度の厳しい現状と今後の課題を理解いただくための取り組みを含め、健保組合としての発信力の強化にも努めていく。

こうした新たな取り組みを通じて、われわれの応援団、ご支援いただく方々を増やしていきながら、2025年を乗り越え、皆保険制度を未来につなげていきたいと考えている。

健保組合の皆様には、引き続き提言の策定とともに今後の活動にご理解をいただき、ご協力をお願いする。

また、われわれの主張を浸透させ、改革の実現につなげるためには、国政に様々な要請活動を行っていく必要があり、健保組合の活動に理解ある国会議員の先生が1人でも増えるように、取り組んでいかなければならない。

私も先頭に立って取り組んでいくので、引き続き、皆様の絶大なご支援・ご協力賜るようお願い申し上げる。

最後になるが、健保組合の益々の発展と、本日ここにお集まりの健保組合の関係者の方々、並びに、WEBでご視聴いただいている皆様のご健勝を祈念して私の基調演説とする。

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