健保ニュース
健保ニュース 2024年10月中旬号
健保組合・令和5年度決算見込
▲1367億円で半数超が赤字
佐野会長代理 現役世代の負担軽減へ要望
健保連は3日、厚生労働省内で記者会見を開き、健保組合の令和5年度決算見込を発表した。経常収支差引額は1367億円の赤字で、前年度から2734億円悪化し、赤字組合は全体の5割を超える726組合となった。収支悪化は、保険給付費の高止まりに加え、高齢者拠出金が前年度の一時的な減少の反動で大きく増加し、保険料収入の伸びを上回ったことが要因。平均保険料率は9.27%に上昇し、過去最高を更新した。6年度も後期高齢者支援金の増加等の影響により、▲1700億円の赤字を見通す。健保連の佐野雅宏会長代理は、「賃上げで保険料収入が伸びているなかで経常収支が赤字となる現状は相当に厳しい」と危機感を露わにし、現役世代の負担軽減に向けて、①高齢者医療制度のあり方の見直し②高額医療費への対応─を主張。①は前期高齢者の年齢範囲に加え、後期高齢者も含む窓口負担割合の見直しを要望。②は高額療養費制度の自己負担限度額等の見直しのほか、高額医療交付金交付事業への国庫補助金の増額を訴えた。
平均月額は1.6%増
平均賞与額は1.5%増
令和5年度の健保組合決算見込は、本会へ報告のあった1379組合の数値をもとに、6年3月末時点に存在する1380組合の財政状況を推計した。
組合数は前年度から3組合減の1380組合で、被保険者数は1674万4284人と前年度に比べ14万7571人(0.9%)増加した。また、被扶養者数は同30万488人(2.6%)減の1135万2112人。扶養率は同0.02人減の0.68人となっている。
被保険者数と被扶養者数を合わせた総加入者数は2809万6396人で、前年度比15万2917人(0.5%)減となった。
保険料の基礎となる被保険者1人当たり平均標準報酬月額は38万9033円で同6121円(1.6%)増、平均標準賞与額は123万7986円で同1万8036円(1.5%)増と、月額および賞与額とも増加した。
平均保険料率が過去最高
協会平均以上314組合
平均保険料率(一般保険料率+調整保険料率)は9.27%(単一組合9.14%、総合組合9.83%)と、前年度比0.01ポイント増加し過去最高を更新した。
被保険者1人当たり保険料負担額(年額)は同9199円(1.80%)増の52万677円に上昇した。
収支均衡に必要な実質保険料率は、同0.24ポイント増の9.35%(単一組合9.20%、総合組合10.04%)で、過去最高となった令和3年度と同率となった。
協会けんぽの平均保険料率10.0%以上の健保組合は314組合で、全組合の22.8%。
保険料率の負担状況をみると、事業主分5.034%、被保険者分4.236%だった。
保険給付費と拠出金が
保険料収入の伸び上回る
令和5年度決算見込の経常収支状況をみると、経常収入総額は前年度比2255億円(2.6%)増の8兆8313億円、経常支出総額は同4989億円(5.9%)増の8兆9680億円で、経常収支差引額は同2734億円悪化し、1367億円の赤字を計上した。
3年度以来、2年ぶりとなる赤字決算で、赤字額が1000億円を超える規模となるのは、平成25年度(1154億円の赤字)以来、10年ぶりとなる。
前年度から2734億円も収支が悪化したのは、保険給付費と拠出金が保険料収入の伸びを大きく上回ったことが主な要因。
収入面をみると、経常収入総額の99%を占める保険料収入は8兆7184億円で前年度比2295億円、2.7%増加した。
一方、支出面は経常支出8兆9680億円のうち、▽保険給付費4兆7301億円(構成比52.7%)▽後期高齢者支援金2兆1526億円(同24.0%)▽前期高齢者納付金1兆4999億円(同16.7%)▽保健事業費3815億円(同4.3%)─。
保険給付費は新型コロナウイルス感染症のほか、呼吸器系疾患等の流行により、同2398億円、5.3%増と4年度(前年度比5.7%増)に引き続き高い伸びとなった。
さらに、高齢者等拠出金は、4年度の一時的な減少の反動等で同2469億円、7.3%増加。特に、団塊世代の75歳到達の影響により、後期高齢者支援金は同9.6%増と大幅に伸びた。
データヘルス計画等、加入者の健康維持・増進のための保健事業費は、同101億円、2.7%増加した。
義務的経費に占める拠出金
負担50%以上207組合
経常収支差1367億円の赤字となった結果、赤字組合は前年度に比べ168組合増加し、全体の52.6%と半数超を占める726組合に上昇した。赤字組合の赤字額は前年度に比べ1340億円増え、総額▲2867億円に達する。
一方、黒字組合は同171組合減少し、全体の47.4%となる654組合。黒字額は1394億円減少し、総額1500億円となった。
義務的経費(法定給付費と高齢者等拠出金の合計)に占める拠出金負担割合は、同0.5ポイント増の44.1%に上昇。拠出金負担割合が50%以上の組合は207組合で全体の15.0%を占めた。
6年度の健保組合財政
1700億円の赤字見通し
今後の健保組合財政について、直近の令和6年4~6月の医療費(3ヵ月平均で1.3%増)は低下傾向にあるものの、6年度の医療費については、▽6年度診療報酬改定の影響▽5年10月からの新型コロナ対応の変更(診療報酬上の特例の段階的廃止、治療薬の自己負担の導入等)による影響─などを含め、6年7月以降の動向を引き続き注視する必要があるとした。
また、6年春闘の賃金引き上げの効果で保険料収入の増加が見込まれる一方、団塊世代の75歳到達により後期高齢者支援金が増加し、6年度以降、高齢者拠出金は増加傾向が続くとして、今後の財政影響を危惧した。
新型コロナ影響前の元年度と比較した6年度財政をみると、高齢者拠出金は対元年度比12.2%(4200億円)増と、保険料収入の伸び(対元年度比11.2%増)を上回り増加。7年度以降も毎年1000~2000億円増加すると見込んだ。
他方、保険給付費は同19.0%(7800億円)増と大幅に増加。医療の高度化や高額薬剤等の保険適用により高額療養費の伸びが大きく、5年度の高額療養費支給総額(3460億円)は元年度(2852億円)に比べ21.3%(608億円)増の増加を見通した。
高齢者医療制度の改革
高額医療費の対応を要望
健保連は、現役世代の負担軽減に向けた今後の課題への対応として、①高齢者医療制度のあり方の見直し②高額医療費への対応(高額療養費制度の見直し等)─を主張した。
①は、健康寿命の延伸や高齢期就業率の現状から、(1)前期高齢者(65~74歳)の年齢範囲および窓口負担割合の見直し(2)後期高齢者(75歳以上)の窓口負担割合の見直し─を要望。
このうち、(1)は、現行65歳以上の年齢区分を5歳引き上げ、「70~74歳」を前期高齢者とし、窓口負担は原則3割負担に改める。「65~69歳」は現役世代へ移行する。
(2)は、▽「75~79歳」について、現役並み所得者(窓口負担3割)以外、原則2割負担へ(80歳以上は現行区分どおり)▽「75歳以上」について、現役並み所得者(窓口負担3割)の範囲を拡大。合わせて、現行は公費投入の対象になっていない現役並み所得者の給付費にも公費投入をセットで実施─に見直す。
②は、令和5年度の高額療養費総額(見込)は元年度比21.3%(608億円)増の3460億円に増加。このうち1000万円以上の高額レセプトは同186.5%(224億円)増の344億円に増加し、高額な医療費を組合間で支え合う「高額医療交付金交付事業費」を圧迫していると問題提起した。
このため、▽賃金、物価上昇の経済情勢との整合性の観点から、高額療養費制度の自己負担限度額等の見直し▽組合負担の軽減に向けた「高額医療交付金交付事業」への国庫補助金の増額─を訴えた。