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健保ニュース 2024年9月下旬号

出産費用の保険適用に向けた検討
佐野会長代理 給付と負担のバランス整理
保険料負担の納得感が最大課題

「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(田邊國昭座長)は11日、医療保険者・医療提供側、自治体を対象にヒアリングを実施した。このなかで、健保連の佐野雅宏会長代理は、出産費用の保険適用にあたり、給付と負担の関係・バランスの整理等の観点からの検討が必要と改めて指摘したうえで、被保険者・加入者における保険料負担への納得感を最大の課題に位置づけた。保険料を負担する立場からすると一定の納得感を得ることは極めて重要との考えを示し、「少なくとも出産費用の保険適用により現役世代の負担が増加することは納得が得られない」と強調した。

「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」は、6月26日に初会合を開催し、8月1日と21日には妊産婦や周産期医療提供側等を対象にヒアリングを実施した。

第4回目となるこの日の会合では、医療保険者・医療提供側、自治体からヒアリングを実施。

医療保険者の立場から意見陳述した健保連の佐野雅宏会長代理は、出産費用の保険適用にあたっては、①出産費用の保険適用の目的の明確化②産科医・分娩機関の維持③給付と負担の関係・バランスの整理④見える化―の観点からの検討が必要との認識を改めて示した。

①では、出産費用の保険適用が、「受益者である国民のメリット」、「少子化対策への貢献」にどうつながるのかを明確にすべきと主張した。

②では、分娩施設の体制維持・確保、産科医の確保や地域偏在の解消等は、出産費用の保険適用の目的にならないと問題提起。分娩施設の体制維持・確保、産科医の確保や地域偏在の解消など、周産期医療体制の整備は国のインフラ整備に関わる問題と指摘し、出産費用の保険適用とは切り離して別途解決策を考えるべきと訴えた。

③では、保険適用の検討にあたり、(1)既存の医療保険制度との関係(2)現行の出産育児一時金との関係(3)被保険者・加入者における保険料負担への納得感―の観点からの議論を踏まえ、妊婦の経済的負担の軽減と制度の安定的な運営の両立を図ることを重要視した。

(1)は、保険適用する場合、既存の公的保険制度をベースに構築することが想定され、▽自己負担(3割負担)の取り扱い▽対象となる分娩の範囲(保険適用外の選定療養の取り扱い、自費部分(室料差額、御祝膳、無痛分娩等)の整理含む)▽既に保険適用されている異常分娩の取り扱い・整理(定義・範囲、正常分娩との費用差等)―の項目が検討課題になると指摘。

そのうえで、既存の医療保険と異なる取り扱いをするかどうか、異なる取り扱いをする場合にどこまで実施するのかがポイントになるとした。

(2)は、▽現行の出産育児一時金について、令和5年4月に50万円に引き上げた影響の検証▽保険適用する場合、現行の出産育児一時金が二重給付とならないための対応▽全世代で支える仕組み(出産育児支援金・交付金)が導入されていることにも留意―が必要と指摘。

具体的な検討課題として、「現行の出産育児一時金と保険適用の関係の整理」と「産科医療補償制度・掛金(現行1万2千円、出産育児一時金で支給)の取り扱い」を例示した。

佐野会長代理は、(3)について、「一番大きな課題」との認識を示し、保険料を負担する立場に立てば、一定の納得感を得ることは極めて重要と強調。現役世代の負担軽減は喫緊の課題と主張し、少なくとも出産費用の保険適用により現役世代の負担が増加することは納得が得られないと強く訴えた。

保険適用の導入を含め、出産に関する支援等のさらなる強化についての検討にあたっては、▽出産費用だけでなく、サービス内容、妊婦・産婦健診等、現行の支援・サポート▽支援の実施主体(国、都道府県、市町村、保険者等)、財源(公費、保険料、自己負担)のバランス―のあり方を重要視し、実態の見える化と、それにもとづく標準化の検討が必要と主張。

保険給付と公費負担の例として、こどもの医療費は、自己負担(3割、未就学児は2割)分は自治体で助成、自己負担分以外は保険で給付(保険料で負担)している現状を示した。

このほか、照井克生参考人(日本産科麻酔学会理事長)は、麻酔薬を用いた産痛緩和について、▽硬膜外無痛分娩では産科管理・助産ケアが複雑化▽日本では重篤な麻酔合併症への対策が急務▽麻酔管理に十分習熟した医師が行う硬膜外無痛分娩は母体重篤合併症を減らす可能性―などと意見陳述した。

ヒアリング後の質疑応答では、佐野会長代理の意見陳述に対し、松野奈津子構成員(日本労働組合総連合会生活福祉局次長)が、加入者における保険料負担への納得感は非常に重要と賛意を示し、費用負担とのバランスの観点からの検討が必要と指摘した。

また、産科医、分娩機関の維持についても、「保険適用の議論とは切り離し、別途対策が必要」と同調した。

濵口欣也構成員(日本医師会常任理事)は、「周産期医療体制と出産費用の保険適用は別に考えることは理解できる」と言及する一方、「保険適用によって分娩施設の体制維持・確保が後退することが結果的にあってはならない」と主張した。

また、照井参考人の意見陳述に対しては、佐野会長代理が、産科管理・助産ケアの複雑化や麻酔合併症への対策が急務など、様々な課題があることが明らかになったと指摘。出産費用の保険化のなかでの取り扱いも含め慎重に検討する必要があるとした。

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