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健保ニュース 2024年7月中旬号

被用者保険の適用在り方懇談会
「取りまとめ案」を大筋了承
年末までに関係審議会で検討

「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」(座長・菊池馨実早稲田大学理事・法学学術院教授)は1日、「議論の取りまとめ(案)」を大筋で了承。厚生労働省は3日に、「議論の取りまとめ」をホームページで公表した。今後は、「議論の取りまとめ」の内容を踏まえつつ、社会保障審議会医療保険部会・年金部会等の関係審議会で検討を進め、年末までに被用者保険の適用の在り方に関する方向性を固める方針だ。

厚労省は、2月13日から7回にわたって本懇談会を開催。この日の会合に、「議論の取りまとめ(案)」を提示した。

「議論の取りまとめ(案)」は、「被用者保険の適用に関する基本的な視点」をはじめ、①短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲②個人事業所に係る被用者保険の適用範囲③多様な働き方を踏まえた被用者保険─の在り方を整理した。

このうち、「被用者保険の適用に関する基本的な視点」は、▽被用者にふさわしい保障の実現▽働き方に中立的な制度の構築▽事業所への配慮等─を盛り込んだ。

「被用者にふさわしい保障の実現」は、「特定の事業所で一定程度働く者は、被用者保険の適用拡大を進めることが重要である」と明記。

「働き方に中立的な制度の構築」は、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方の選択など、社会保険制度における取り扱いの違いにより不公平が生じないよう、中立的な制度を構築していく観点と、短時間労働者が就業調整をすることなく働くことができる環境づくりが重要と訴えた。

「事業所への配慮等」は、「保険者が分立する医療保険制度では、適用拡大に伴い、保険者の財政や運営に影響を与えることとなる」と指摘。適用拡大の検討にあたり、被保険者等の構成の変化や財政等への影響を示したうえで、保健事業の円滑な実施など保険者機能を確保する視点も含め、医療保険制度の在り方について着実に議論を進める必要があるとした。

他方、①は、短時間労働者の適用要件となる(1)労働時間要件(週の所定労働時間が20時間以上)(2)賃金要件(賃金が月額8万8000円(年収換算で約106万円相当)以上)(3)学生除外要件(4)企業規模要件(従業員100人超。令和6年10月から従業員50人超)─の撤廃または引き下げについて提言した。

(1)は、事業主と被用者との関係性を基盤とした「被用者」の範囲の線引きについて議論を深めることが肝要とし、雇用保険の適用拡大の施行状況等も慎重に見極めながら検討を行う必要があると指摘。

(2)は、年収換算で約106万円相当という額が就業調整の基準として意識されている一方、最低賃金の引き上げに伴い労働時間要件を満たせば本要件をみたす場合が増えていることを踏まえて検討を行うべきとした。

また、関連する論点として、賃金要件を見直す際は、「同時に被扶養者の収入基準も引き下げる必要性などが指摘された」と明記した。

(3)は、▽就業年数の限られる学生を被用者保険の適用対象とする意義は大きくない▽適用となる場合は実務が煩雑になる可能性がある─ことなどの観点から、「現状維持が望ましいとの意見が多く、見直しの必要性は低い」との考えを示した。

(4)は、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度を構築する観点から、「経過措置である本要件は撤廃の方向で検討する必要があるとの見方が大勢を占めた」と整理。他の要件に優先して、撤廃の検討を進める方向性を示す一方、「本要件を撤廃する際に事業所における事務負担や経営への影響、保険者の財政や運営への影響等に留意し、必要な配慮措置や支援策のあり方について検討を行うことが必要」と記載した。

②は、「常時5人以上を使用する個人事業所における非適用業種を解消する方向で検討する必要があるとの見方が大勢を占めた」とする一方で、「事業所の事務負担や経営への影響が懸念されるため、実態を踏まえながら、きめ細やかな支援策の必要性や、保険者の財政や運営に対する影響を懸念する指摘もあった」と整理。

他方、「5人未満の個人事業所は、対象となる事業所が多く把握が難しいことや、国民健康保険制度への影響が特に大きいことなどから慎重な検討が必要との意見もあった」と明記した。

③は、▽複数の事業所で働く者▽フリーランス等─の在り方について提言。「複数の事業所で働く者」は、「労働時間などを合算する是非は、マイナンバーの活用状況や雇用保険の施行状況などを参考に、実行可能性などを見極めつつ、慎重に検討する必要がある」としたうえで、「現行の事務手続きを合理化し、事務負担軽減が図られるよう、具体的な検討を進めるべき」と記載した。フリーランス等は、「実態として被用者と同様の働き方の者と自営業に近い働き方の者など、様々な働き方がある」としたうえで、「諸外国の動向などを注視しつつ、中長期的な課題として引き続き検討していく必要がある」とした。

健保連の秋山実理事は、「議論の取りまとめ案」に対し、「全体として異論はない」と述べたうえで、「適用拡大の検討に当たって、保険者への影響に鑑み、支援策を検討する」との旨が盛り込まれたことを評価した。

また、マルチワーカー・ギグワーカー・フリーランスについて、労働者性、被用者性の概念を整理する必要性や実務の実現可能性など、現行の医療保険制度との整合性の観点から、今後も丁寧に議論するよう求めた。

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