健保ニュース
健保ニュース 2024年7月中旬号
河本専務理事が情勢報告
7年度政府予算 確実な確保と増額要望
健保連の河本滋史専務理事は5日の理事会で、最近の情勢を報告した。年内の主な検討・対応事項にかかる主要なスケジュールを説明するなかで、令和7年度の政府予算や補正予算の策定時期を焦点に、健保組合への支援として今年度予算で増額された430億円について、確実な確保とさらなる増額を要望していく方針を明らかにした。子ども・子育て支援や医療DXに関する健保組合の取り組みに対する支援も合わせ、引き続き、補助額の確保・増額に向けて、厚生労働省や自民党の「国民皆保険を守る国会議員連盟」への要請活動に取り組んでいくとした。一方、12月2日の健康保険証廃止に向け、資格情報のお知らせなど多岐にわたる準備に取り組む健保組合を支援するために、健保組合の声を厚労省に反映するなど対応を強化していくと言及。2026年度の医療制度改正を見据えた主張を整理し、遅くとも来年に政府が策定する「骨太の方針」に見直し項目を反映させる必要があると強調し、今秋以降、行政・政治に対する働きかけを行っていく意向を表明した。(河本専務理事の情勢報告要旨は次のとおり。)
医療制度改正を見据え
主張整理し「骨太」に反映
年内(7月~12月)の主な検討・対応事項について説明する。
主に9項目あるが、このなかには、年内あるいは2025年度、2026年度、2028年度、それ以降をターゲットとした動きがある。時期は異なるが、相互に関連しながら、並行して検討が進むことを想定している。スケジュールを中心に全体について簡単に説明する。
1点目は、令和7年度の政府予算。8月末に概算要求、12月末には予算案が決定する。健保連では、高齢者医療運営円滑化等補助金の230億円の増額をはじめ、今年度予算で認められ、計430億円の増額となった健保組合への支援を7年度予算においても確実に確保するとともに、さらなる増額を要望しているところだ。
また、子ども子育て支援や医療DXに関する健保組合の取り組みへの支援も引き続き要望している。
秋の臨時国会で今年度補正予算が編成される場合には、これも視野に入れての要望となる。
これまでも厚生労働省や自民党の「国民皆保険を守る国会議員連盟」への要望を行っているが、引き続き、補助額の確保・増額に向けて要請活動に取り組んでいく。
2点目は、健康保険証廃止に向けての準備等。12月2日の期日が迫るなか、健保組合には準備作業を進めていただいている。資格情報のお知らせや資格確認書の交付などの準備作業、正確な登録の確保、さらにマイナ保険証の利用率向上の取り組み等、多岐にわたる取り組みを進めていただくことになる。健保連としては、引き続き、健保組合の声を厚労省に反映するなど対応を強化していきたいと考えている。
3点目は、子ども・子育て支援金の詳細設計、介護納付金の取り扱い変更。子ども・子育て支援金制度の創設を含む「子ども・子育て支援法等改正案」は、先の通常国会で成立した。支援金率は、一般の保険料とは区分して設定され、被用者保険に対しては、国が統一の料率を示すという方針が示されており、衆・参両院の附帯決議においても、その徹底を求めている。今後、制度の詳細設計が行われることになるので、しっかりと調整に当たりたい。
また、今回の法案とは別だが、代行徴収している介護保険料については、国が標準的な料率を示し、その料率を採用する場合には組合会の決議を不要とする運用について検討を進めていくことになる。7年度の予算編成段階から見直しができるよう調整していく。
4点目は、被用者保険の適用拡大。年金制度の見直しと合わせ、来年の通常国会に向けた議論となる。先日の社会保障審議会医療保険部会で短時間労働者の事業所要件の撤廃と従業員5人以上の個人事業所の非適用業種の廃止の方向性が示された。影響の大きい保険者への支援拡充を引き続き、訴えていく。
5点目は、かかりつけ医機能報告の詳細設計。昨年の医療法改正を受け、2025年度からスタートする、かかりつけ医機能報告の詳細設計の検討が進行中だ。このなかで健保連は、かかりつけ医機能報告が国民・患者のより適切な医療機関の選択に資するものとなり、法の趣旨に沿った運用となるよう主張している。
6点目は、出産費用の保険適用。先頃、出産費用の保険適用の検討を含めた「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」がスタートした。年度内に議論し、2025年度には社会保障審議会医療保険部会や中央社会保険医療協議会での議論が予定されている。保険適用が決定した際には、2026年度中の運用開始が想定されている。
7点目は、2026年度の医療制度改正を見据えた主張整理。次の大きな医療制度改正のターゲットは2026年度となることが想定されている。遅くとも来年に政府が策定する「骨太の方針」に見直し項目を反映させる必要があることから、今秋以降、行政・政治に対する働きかけを行っていくことが重要となってくる。
8点目は新たな地域医療構想。現在の地域医療構想は、入院医療がメインで、2025年度までの構想となっている。2026年度以降は入院のみならず、外来や在宅医療、介護施設との連携なども含めた地域の医療提供体制全体の地域医療構想とすることとされ、検討がスタートしている。健保連も参画し、議論を進めているところだ。
最後に、新提言の作成と広報展開・訴求活動。4月に常任理事会の下に新提言のワーキンググループを設置して検討を進めている。提言がターゲットとする時期は、2028年度かそれ以降となる。広く国民・加入者に向けた提言として、背景となる事実をしっかりと伝え、様々なルートを活用し国民・加入者への周知・広報を行っていくこと、さらなる活動を展開していくことをコンセプトとしている。現在、今秋の取りまとめに向けて議論を重ねている。
5年度上期と比較し
下期は医療費の伸び鈍化
医療費の動向について説明する。
健保組合の令和4年度の1人当たり医療費の対前年度と比べた伸び率は、6.5%増という極めて高い伸びが見られた。
5年度も上期は前年同期比5.55%増という高い伸びが継続していたが、下期は同3.57%増と若干伸びが鈍化した。下期以降、診療報酬上の新型コロナ特例が段階的に廃止された影響で、伸び率自体はコロナ禍前より高いが、鈍化傾向にある。なお、6年4月は前年同月比2.3%増となっている。
健保組合の医療費の総額の伸びを5年度の上期(4月~9月)と下期(10月~3月)で比較すると、「本人」は上期で前年同期比6.1%増、下期が同4.5%増。「家族」は上期が同5.1%増、下期が同2.7%増となった。「本人」・「家族」ともに下期にかけて伸びが鈍化している。
「未就学児」は、上期で同10.4%増となり、極めて高い伸びとなったが、要因には子どもの感染症が流行した影響がある。一方、下期は同4.1%減となり、伸びが大幅に鈍化した。
診療種類別の伸びをみると、「調剤」は、5年度上期に同14.7%増と大幅に増加。上期の医療費全体の伸び率は同5.5%増となっており、その3%程度が「調剤」の伸びに起因する。一方、下期はコロナ治療薬の自己負担が発生したことが大きく影響し、同10.1%増と鈍化した。
健保組合は、4年度は前年度比6.5%増、5年度上期は前年同期比5.5%増とこれまでを上回る伸びを続けていたが、下期には同3.5%増となり、6年4月には前年同月比2.3%増に至り、伸びの鈍化が見られる。
今年は、薬価改定が4月、診療報酬改定が6月に施行される。薬価改定で0.97%引き下がる一方、本体は0.88%増えることになる。6年4月分は、薬価は反映されたが、診療報酬本体の影響はまだ反映されていない状況ということを踏まえる必要がある。
また、感染症の動向という不確定要素もある。今のところやや落ち着いてきているという状況かと受け止めている。
新型コロナウイルス感染症の1日当たりの新規陽性者数と今後の推計の数字をみると、5月の連休以降は、増加基調にあった。また、昨年も一昨年もだいたい夏場と冬場に流行する傾向にあり、今年も夏に向けて増加を想定するが、この波がだんだん小さくなってきている。そうした状況から、新規陽性者は昨年より少なめに推移するのではないかと考えている。
また、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たりの報告数をみると、過去10年で最も流行しており、昨年の2倍以上のペースで推移している。「劇症型」になると、一部マスコミの報道もあったが、かなり死亡率が高くなる。他にも様々な感染症が出てくる可能性、リスクはあると考えるが、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、医療費全体に与える影響が比較的小さい。
医療費はコロナ前に比べると依然として高い傾向にあるが、一時の非常に高い状況からは落ち着いてきている。今後さらに感染症の動向を含め、注視が必要だ。