健保ニュース
健保ニュース 2024年5月下旬号
健康と経営を考える会シンポジウム
新たな保健事業の施策を推進
厚労省・山下保険課長が講演
厚生労働省保険局の山下護保険課長は14日、「健康と経営を考える会」主催のシンポジウムで講演し、新たな保健事業の施策を推進する観点から、加算減算制度のインセンティブ評価の見直しについて言及。特定健診・保健指導にかかる配点を引き下げ、多様な年齢層に向けた健康課題に対する健保組合の取り組みを評価していく方針に転換する意向を表明した。
山下保険課長は、「誰から・何のために保険料を徴収しているのかを明確にすることで、健保組合に求められるもの・やるべきことが見えてくる」と述べ、健康保険事業の原点に立ち返る意義を強調した。
そのうえで、厚労省として、メタボ健診よりも幅広く、一歩進んだ新しい保健事業の施策を推進していく方針を示した。
健保組合に対しては、特定健診・保健指導事業に投資しているリソース(人的、資金、時間など)の現況を見直すよう要請。
▽コラボヘルスで情報提供された事業主健診結果の効率的・効果的な活用▽特定保健指導のアウトカム評価の活用─に取り組むことで、資金、人的リソースを他の事業に回すことができると述べた。
方針にもとづき、健保組合の意欲向上につながる施策を行う観点から、加算減算制度におけるインセンティブ評価の見直しを検討していることを公表した。
山下保険課長は、「現行は、特定健診・保健指導に対する配点が極端に大きい」と問題視し、40歳以上の対象者にだけやっていればいいというメッセージとして受け取られることを危惧。
「働く方のいきいきとした活動を後押しする観点から、特定健診・保健指導にかかる配点を引き下げる」との考えを示し、多様な年齢層に向けた様々な健康課題に対する取り組みを評価する方向に転換していく意向を示した。
他方、「やりたいが運営資金がない」「後期高齢者医療への拠出が大きい」という意見もあると言及。制度を継続するなかで、「資金、人材などのリソースの見直しと再分配、意欲向上につながる施策を活用しながら、原点に立ち返り、ぜひ実践していただきたい」と鼓舞した。
また、これまで特定健診・保健指導の目的のひとつとして示されてきた医療費適正化に疑問を呈し、「努力は理解できるものの、医療費の増減は結果であり、健診だけが起因するものではない」と断じた。
「本来の健康保険事業の目的は、医療費の削減ではなく、働く方と事業主に対し、求められているものを還元していくこと」と指摘。「従業員が健康と生きがいをもって企業活動に貢献でき、結果的に企業の売り上げ増や利益につながるといった健康経営の流れに、健康保険事業は寄与できる」と主張した。
先進的な健保組合の事例として、セルフメディケーション事業、ロコモティブシンドローム対策、メンタルヘルス対策などを例示。「健康課題は身近なところにある」と指摘し、「健保組合として実践できることに一生懸命に取り組んでほしい」と要請するとともに、社会的課題に対して厚労省も応援していく考えを示した。
基調講演
会社と従業員が共に幸せになる健康経営
味の素・藤江代表執行役社長
「健康と経営を考える会」が開催したシンポジウムでは、味の素株式会社の藤江太郎代表執行役社長が基調講演を行った。
食品系事業を主力に展開する味の素株式会社は、「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」と銘打ち、事業を通じた社会価値と経済価値の共創を企業理念として掲げている。
藤江代表執行役社長は、共創の原動力を「人財」「技術」「顧客」「組織」の4つの無形資産と位置づけ、企業価値を上げるものと言及。「とりわけ人財資産が最重要」と強調した。
こうした方針の下、企業理念に貢献する従業員自身のWell-beingを高め、働きがいや生きがいを持って仕事に励む環境を重視。取り組みのひとつに健康経営があると説明した。
健康経営の推進体制は、人事部門、産業医・健康推進センター、労働組合、健保組合が連携し、四位一体で運営する。「健康増進最高責任者である私自身も健康増進に励んでいる」と胸を張った。
健康経営戦略マップをもとに事業を展開。年1回の定期健診後に、全従業員・全パート従業員が産業医等と個別面談を実施する。また、健康管理システムやアプリによる健康状態の可視化、健康維持・増進プログラムの開発、ハイリスク者向け支援なども実施している。
藤江代表執行役社長は、人財資産の強化に向けた投資の成果は、生産性、成長を重視する経営方針と合わせ定期的にモニタリングをしていると説明。「人財資産を原動力に構造改革を進め、業績も向上させることができている」と評価し、「数値で合理的に示すことは重要」との考えを示した。
こうした取り組みにより、健康経営銘柄には6度目の選定、8年連続で健康経営優良法人の認定に結びついたとし、「会社と社員が共に幸せになっていく健康経営の価値を体感している」と締め括った。