健保ニュース
健保ニュース 2024年4月下旬号
財務省が社会保障改革の方向性
社会保障費の歳出目安を継続
新創加算累積控除等 毎年薬価改定は完全実施
財務省は16日、社会保障の今後の改革の方向性を財政制度等審議会(十倉雅和会長)の財政制度分科会に示した。
社会保障関係費については、歳出の目安を継続しつつ、引き続きメリハリある予算編成を実施していく必要があると提言。
医療分野では、令和7年度の毎年薬価改定を視野に入れ、新薬創出等加算の累積額控除や長期収載品の薬価改定など、2年に1度しか適用されない薬価算定ルールをすべて適用するよう訴えた。
この日の財政制度分科会は、「こども・高齢化」をテーマに議論し、財務省から社会保障総論や少子化対策、医療・介護・年金分野における今後の改革の方向性が示された。
社会保障総論では、現役世代の負担は今後も一貫して増大する見込みを踏まえ、社会保障の持続性を確保する観点から、女性や高齢者の就労促進を進めるとともに、全世代型社会保障を構築する改革に取り組むことが必要と提言。
社会保障関係費については、歳出の目安を継続しつつ、引き続きメリハリある予算編成を実施していく必要があるとした。
少子化対策では、3.6兆円の加速化プラン施策を含む「こども・子育て支援政策」全般についてPDCAを回していくとともに、施策の充実に際して、内容に応じ社会全体でどう支えるか、あらゆる選択肢を視野に入れ検討していくべきとの認識を示した。
医療分野では、国民皆保険の持続性を確保していくための医療制度改革の視点として、①質の高い医療の効率的な提供②保険給付範囲のあり方の見直し③高齢化・人口減少下での負担の公平化─を掲げた。
このうち、①は、疾病管理の評価に関して、生活習慣病の診察頻度や使用される薬の価格が医療機関により大きな差があるとの指摘を踏まえ、生活習慣病や他の疾病管理のあり方について検討を深めるべきと明記した。
他方、診療所の偏在是正のための地域別単価の導入を提言。報酬点数×1点当たり単価(10円)となっている診療報酬の仕組みについて、診療所の不足地域と過剰地域で異なる1点当たり単価を設定し、報酬面からも過剰地域から不足地域への医療資源のシフトを促すことを検討する必要があるとした。
当面の措置として、過剰地域における1点当たり単価(10円)の引き下げを先行させ、それによる公費の節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化する考えを示した。
外来機能については、生産年齢人口の減少により人材確保も難しくなるなかで、質の高い医療を効率的に提供する体制を構築する観点から、各地域の実情に応じて、診療所を含めた外来医療機能の転換・集約を推進していく改革を盛り込んだ。
かかりつけ医機能が発揮される制度整備に当たっては、各医療機関がどのような症候や疾患に対応可能かなど、必要な情報が報告・公表されるようにするとともに、診療実績に関する情報提供の強化を検討していく必要があるとした。
薬価については、毎年薬価改定が行われるなかで、新薬創出等加算の累積額控除や長期収載品の薬価改定など、2年に1度しか適用されないルールがあるのは合理的な説明が困難と指摘。
新薬創出等加算の累積額控除のタイミングが2年に1度の場合、上市のタイミングの差で、加算期間で最大2年間程度の適用の差が生じると問題提起し、令和7年度の毎年薬価改定では、既収載品の算定ルールをすべて適用すべきと訴えた。
費用対効果評価の適用のあり方については、実施する薬剤の範囲や価格調整対象範囲を拡大するとともに、評価結果を保険償還の可否判断にも用いることの検討を求めた。
OTC類似薬の自己負担
保険外併用制度を活用
②は、セルフメディケーションの推進、市販品と医療用医薬品とのバランス、リスクに応じた自己負担の観点から、OTC類似薬に関する薬剤の自己負担のあり方について、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大と合わせて検討を行うよう提言した。
また、諸外国の例も踏まえ、医薬品の有用性が低いものは自己負担を増やす、あるいは、薬剤費の一定額までは自己負担とするといった改革の方向性を示した。
③は、患者負担が3割となる後期高齢者の「現役並み所得者」の判定基準について、現役世代との公平性を図り、世帯収入要件を見直すべきと明記。
また、医療保険・介護保険における負担のあり方全般について、マイナンバーの活用により金融資産の保有状況も勘案して負担能力を判定するための具体的な制度設計の検討を進めていくべきとした。
介護保険の利用者負担
対象範囲拡大や原則2割
介護分野では、介護保険制度の改革の方向性について、(1)保険給付の効率的な提供(2)保険給付範囲のあり方の見直し(3)高齢化・人口減少下での負担の公平化─の3つの視点から制度の持続性確保のための見直しを進めることで、中長期的に増大する介護需要に応えられる体制を構築していくべきと総括した。
このうち、(3)は、所得だけでなく金融資産の保有状況等の反映のあり方や、きめ細かい負担割合のあり方と合わせて検討したうえで、利用者負担2割の対象者の範囲拡大について早急に実現するよう提言。
また、医療保険と同様に、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討していくべきとの考えを示した。
他方、令和6年度介護報酬改定で見送った介護老人保健施設・介護医療院における多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する見直しを行うほか、居宅介護支援に利用者負担を導入することで、質の高いケアマネジメントが選ばれる仕組みとする改革を盛り込んだ。
年金分野では、短時間労働者への被用者保険の適用拡大に向けた企業規模要件の撤廃、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消について、7年の次期年金制度改革で確実に実現すべきと明記。
いわゆる「年収の壁」については、今回の財政検証を踏まえた年金制度改革で、制度的対応を実現する必要があるとした。