健保ニュース
健保ニュース 2024年4月上旬号
全国高齢者医療・国保主管課長会議
マイナ保険証の利用促進が重点課題
保険者協議会に取り組み要請
厚生労働省は3月19日、「全国高齢者医療・国民健康保険主管課(部)長及び後期高齢者医療広域連合事務局長会議」を開催し、高齢者医療や国保制度をめぐる現状、課題などを説明した。
会議の冒頭あいさつした伊原和人保険局長は、12月2日に健康保険証の新規発行が終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する方針を踏まえ、マイナ保険証の利用促進が令和6年度の制度改革の重点課題になるとの見解を示した。都道府県別に見てもバラツキのあるマイナ保険証の利用率を全体的に大きく引き上げていくことを重視し、保険者協議会に対して積極的な議論・取り組みを要請した。
安中健高齢者医療課長は高齢者医療をめぐる動向や6年度予算案などについて説明した。
「後期高齢者医療制度は施行から15年が経過し、高齢化の進展に伴う課題に対応する必要がある」と述べ、4年度の後期高齢者の窓口2割負担導入をはじめ、6年度からの制度改正を踏まえた取り組みを説明した。
このなかで、「後期高齢者の増加に伴い給付費が年々伸びており、現役世代の負担が増大している」と指摘し、6年度は、拠出金負担が重い健保組合等の対象を拡大し、拡大分に該当する保険者の負担軽減を図るための経費となる「高齢者医療特別負担調整交付金」の前年度比100億円増、後期高齢者支援金等の拠出金負担が重い健保組合等の負担緩和を図るための経費「高齢者医療運営円滑化等補助金」の同230億円増を前期高齢者納付金の1/3報酬調整の導入に伴う健保組合等への財政支援にあてるために予算措置すると説明した。
また、6年度は、▽後期高齢者医療制度による出産育児一時金にかかる費用の一部支援▽後期高齢者支援金における後期高齢者負担率の見直し▽同世代内での負担能力に応じた後期高齢者の保険料負担の見直し─などの制度改正を踏まえ、後期高齢者1人当たり保険料を算定。6年度は平均8万6100円、7年度は同8万7200円を見込むが、所得の多寡によって伸び率が異なることの周知・広報が必要との考えを示した。
他方、「年齢に関わらず、負担能力に応じた公平な負担により医療保険制度を支え合う考え方が浸透してきた」と言及。昨年12月に政府が閣議決定した医療制度改革工程で示された▽医療・介護保険における金融所得・金融資産の勘案▽医療・介護の3割負担の適切な判断基準設定▽高額療養費自己負担限度額の見直し─について、検討を進めていく考えを示した。
6年度の後期支援金
健保負担は2.5兆円
安中課長は、令和6年度予算ベースの高齢者医療制度の財政状況を説明した。
6年度の後期高齢者数は約2030万人で、後期高齢者医療費は20.0兆円。このうち、給付費が18.4兆円、患者負担は1.6兆円と説明した。給付費の約4割を被用者保険、国保が負担する後期支援金は7.4兆円で、このうち健保組合の負担は2.5兆円を見込む。
65~74歳の前期高齢者数は約1480万人で、前期高齢者給付費は6.6兆円。このうち、国保4.9兆円、健保組合0.3兆円、協会けんぽ1.3兆円など国保が全体の74%、被用者保険が26%を占めるが、保険者間の前期高齢者数の偏在を均す財政調整を実施すると、国保が2.0兆円に軽減される一方、若人が多い健保組合は1.3兆円の納付金が発生し、合計1.6兆円の負担となる。協会けんぽは調整前の1.3兆円から1.1兆円の納付金が発生し、合計で2.4兆円となる。
マイナ保険証普及へ
地域別の利用を促進
笹子宗一郎国民健康保険課長は、国保制度を取り巻く現状や国保運営方針にもとづく取り組みなどについて説明した。
国民健康保険制度を「国民皆保険の要」と位置づけ、次世代に受け継いでいくためには、全世代に対応した社会保障制度の構築を進めつつ、▽国保の財政運営の安定化のために行われた平成30年度改革の趣旨をさらに徹底していくこと▽マイナ保険証含めデジタルの力を最大限に活用しながら質の高いサービスと業務効率化を両立していくこと─が重要になると言及。
財政運営の都道府県単位化の深化を図るため、令和6年度からの新たな国保運営方針にもとづき、①保険料水準の統一のさらなる推進②マイナ保険証の利用促進③医療費適正化のさらなる推進④給付・徴収業務の適正化、事務の標準化・広域化─にかかる取り組みを進める考えを示した。
中園和貴保険データ企画室長は、マイナ保険証の普及状況を説明した。「全人口の7割がマイナンバーカードを保有し、そのうちマイナ保険証には7割強が登録しているが、カード携行者は保有者の5割に過ぎない」と指摘。「医療現場や保険者からの声かけで利用率が引き上がる余地がある」と述べ、厚労省、医療機関・薬局、保険者、経済界が一丸となり、あらゆる手段を通じてマイナ保険証の利用促進を行っていくと強調した。
今後は、都道府県別の分析を強化していく考えを示し、保険者協議会などを通じた地域別の利用促進に対する積極的な取り組みを求めた。(伊原保険局長の発言要旨は次のとおり)
後期医療制度の持続性確保へ
伊原保険局長 改革工程踏まえ施策検討
令和6年度に予定する制度改革において、課題対応としてポイントになるのが、マイナ保険証の利用促進だ。
本年12月2日に現行の保険証の新規発行を終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行することが決定している。
マイナ保険証で受診し、紙ではなく電子処方箋を発行するシステムが用いられ、薬局で医薬品の重複投薬や併用禁忌などをチェックしたうえで、調剤を受ける仕組みがスタートしており、国民の皆さんにはデジタルの利便性を実感するため、マイナ保険証を実際に利用してもらうことが大切だと考えている。
一方、マイナ保険証の利用率は2月末時点の全国平均で4.99%にとどまっており、利用を一層働きかけなければならない状況だ。47都道府県別の利用率を見ても、高低差にバラツキがあり、全体を大きく引き上げていくことが重要になる。
医療機関窓口での月1回の保険証確認の際の声かけを「マイナ保険証をお持ちですか?」に切り替えた医療機関にアンケート調査した結果、切り替えた医療機関の利用率が如実に高かった。こうしたことから、それぞれの地域で利用促進を図ることを念頭に、今年は都道府県の保険者協議会で積極的に取り上げ、地域のなかでどのような取り組みを進めればよいかを議論していただきたいと考えており、先に、都道府県の保険者協議会所管部局に伝達を行った。
他方、医療制度改革においては、昨年6月に成立した健康保険法等の一部改正法により、全世代型社会保障の観点から大きな見直しが行われた。
子育てを全世代で応援する観点から、出産育児一時金を後期高齢者医療制度から支援する仕組みを導入。また、後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じになるよう、高齢者負担率の設定方法を今年4月から見直す。
国保の運営担当者には、保険料水準について被保険者に説明・理解をいただく努力が必要となるが、まさに全世代で医療保険制度の持続可能性を図っていく改革を進めており、円滑な施行をお願いする。
平成30年度の国保制度創設以来の大改革から6年が経過し、次期国保運営方針が4月からスタートする。「財政運営の都道府県単位化」を実質化していくために、保険料水準統一の加速化と医療費適正化の取り組み強化を重視している。
保険料率の統一にかかる阻害要因となる法定外繰り入れは着実に解消してはいるものの、固定化するなどいまだ対応が必要な自治体もあり、都道府県が中心となって早期解消となる取り組みを進めていただきたい。
また、医療費適正化に向けた施策支援では、保険者努力支援制度の評価指標の拡大や配点の重点化などメリハリを強化した。これまでの振り返りとさらなる取り組みの強化・充実につなげていただくようお願いする。
後期高齢者医療制度創設から15年が経過し、高齢者が安心して医療を受けられる制度として定着している。一方、今後を見据えると、生産年齢人口の減少、地域によっては急速な人口減少が進むなかで、後期高齢者医療制度の持続可能性を高めていくことが、何より医療保険制度の課題となる。
昨年末に政府が閣議決定した「全世代型社会保障構築をめざす改革の道筋(改革工程)」では、持続可能性確保の観点から、2028年度までに検討していく課題があげられた。改革工程を踏まえ、すべての国民が年齢に関わりなく負担能力に応じて公平に支え合う医療保険制度をめざし、今後も施策の議論・検討を進めていくので、動向を注視してもらいたい。
国民皆保険をどのように維持していくのか、前例が通用しない試行錯誤の時代と言える。都道府県、市町村の皆さんには、地域の実情をぶつけてもらいたい。知恵を絞って施策を考え、力を合わせて取り組んでいく所存だ。