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健保ニュース 2023年11月下旬号

5年度介護事業経営実態調査
4年度平均収支差率2.4%
伊藤常務 報酬引き上げを牽制

厚生労働省は16日の社会保障審議会介護給付費分科会(田辺国昭分科会長)に、令和5年度「介護事業経営実態調査」の結果を報告した。

それによると、3年度介護報酬改定後の4年度決算における全介護サービスの平均収支差率は2.4%となり、3年度比で0.4ポイント低下した。新型コロナウイルス感染症に関する補助金を含む場合では平均収支差率は3.0%となり、前年度比ヨコバイとなった。

各介護サービスの4年度収支差率は、10サービスで上昇、11サービスで低下、1サービスでヨコバイだった。

施設サービスは▽介護老人福祉施設▲1.0%(前年度比2.2ポイント減)▽介護老人保健施設▲1.1%(同2.6ポイント減)▽介護医療院0.4%(同4.8ポイント減)─となり、全体で収支差率が低下。介護老人福祉施設と介護老人保健施設は平成12年度の制度施行以来、初めてマイナスに転じた。

この要因について厚労省は、「人手不足や物価高騰を背景とした人件費や光熱水費の伸びが大きい」と分析。マイナス幅が大きい介護医療院については、「新規参入が進んでいる一方で収支総額や利用者数が減少しており、小規模施設が参入しているのではないか」と考察した。

他方、居宅サービスは、▽訪問看護5.9%(同1.3ポイント減)▽訪問入浴介護3.0%(同0.6ポイント減)─で低下した一方、▽訪問リハビリテーション9.1%(同9.5ポイント増)▽訪問介護7.8%(同2.0ポイント増)─で上昇がみられた。

また、地域密着型サービスでは、地域密着型介護老人福祉施設▲1.1%(同2.2ポイント減)となる一方、夜間対応型訪問介護9.9%(同6.1ポイント増)となった。

訪問・通所サービスで収支差率が好転している状況について厚労省は、「前年度と比べ収入額がほぼ変わらないなか、人件費等の支出が減少した結果」と説明。「常勤職員1人当たりの給与額は増加する一方で、常勤職員は減少・離職しており、非常勤職員を増やすなど、人材確保が困難な事業経営にあるのではないか」と考察し、経営改善の影響は限定的との見方を示した。

また、令和4年度の全産業平均の収支差率6.2%と比べ、介護サービス全体が厳しい状況にあると結論づけた。

調査は、改定後2年目の1年分の収支状況から各サービス施設・事業所の経営状況を把握し、次期介護保険制度の改正および介護報酬の改定に必要な基礎資料を得るために、5年5月に実施。介護保険サービスを提供する全施設・事業所から抽出した3万3177施設・事業所から回答のあった1万6008施設・事業所(回答率48.3%)の4年度決算データを集計した。

介護事業経営実態調査の結果を受け、健保連の伊藤悦郎常務理事は、「3年度比でやや低下しているが、全体としてはプラスの収支差率となった」と述べ、「制度の支え手となる現役世代が減少するなか、高齢者医療への負担も含めてこれ以上の負担増には耐えられない」と主張。「財政的な持続可能性確保のために利用者負担や保険料負担の増加を抑えることが必要」と介護報酬の引き上げを牽制した。

これに対し、日本医師会常任理事の江澤和彦委員は、「収支差率の数字だけが独り歩きしないよう留意すべき」と述べたうえで、「訪問介護は金額で見るとわずかな増額にとどまり、介護施設は経年的に稼働率が低下し経営破綻の危機に瀕している」と指摘。「介護人材と安定的な経営の確保の観点から基本報酬の増額を要望する」と主張した。

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