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健保ニュース 2023年11月上旬号

宮永俊一会長・基調演説
皆保険制度の継承へ使命遂行
主張実現へ先頭に立ち活動

健保連の宮永俊一会長は10月25日の令和5年度健康保険組合全国大会で基調演説した。団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年、高齢化のピークを迎える2040年にかけ、健保組合の赤字基調は強まり、「このままでは健保組合の存続が財政的に危ぶまれる事態になりかねない」と危惧。少子化の流れが加速するなか、負担を将来世代に先送りせず、持続可能でより良い皆保険制度として将来世代に継承することがわれわれの使命と強調し、全世代型社会保障制度改革の実現や医療DXの推進、保険者機能の一層の強化が必要と訴えた。少子化対策の財源確保や診療・介護報酬のダブル改定など、令和6年度の政府予算編成が重要局面を迎えるなか、健保組合・健保連の主張を前に進め、改革を実現するためには様々な要請活動を展開していく必要があると指摘。自民党の「国民皆保険を守る国会議員連盟」や与野党の国会議員との連携を重視し、主張実現へ先頭に立って取り組んでいく決意を表明した。(宮永会長の基調演説は次のとおり)




本日は令和5年度健康保険組合全国大会にご出席いただき、感謝申し上げる。
 また、本日は各政党の代表をはじめ、多数の国会議員の先生方にご臨席を賜り、厚くお礼申し上げる。

さて、本日、会場には全国から3000名の方が集まり、また、WEBでも1500名の方が視聴されている。

健保組合全国大会は、全国の健保組合関係者が一堂に集まり、団結をさらに強めるとともに、われわれの声を世論に、そして、国政に訴える重要な大会だ。

今年は、コロナ禍を超えて4年ぶりに、会場での出席を従来の規模に戻し、さらにWEBでの出席により、これまでよりも多くの方に参加いただいて大会を開催できること、誠にありがたく、厚くお礼申し上げる。

本日の全国大会を通じて、健保組合加入者2900万人の声を広く世の中に、そして、国政にしっかりと届けていきたい。

さて、今年はおよそ30年ぶりという高い水準の賃上げが実現した後に、全国的な最低賃金の引き上げも続き、政・労・使の思いが1つの形になった。

そのように、わが国は物価と賃金が上昇し始め、「デフレとの闘いから日本経済が転換点を迎えつつある」状況にある。

日本経済の持続的な成長には、このモメンタムを今後も維持、強化していくことが欠かせない。

政府が来週にもまとめる経済対策は、最近の物価高への対応に加え、企業の構造的な賃上げや、成長力強化に資する国内投資の促進、人口減少を乗り越えるための社会変革などに取り組むとされている。

そのための補正予算案が編成され、先週20日に開会した臨時国会で審議される見通しだ。
 国会審議を通じ、わが国の成長力の底上げと産業競争力の強化、何よりも国民の豊かな暮らしを守るための制度や施策を巡って、実りある論戦が展開されることを期待しているところだ。

社会保障の支え手減少
待ったなしの国家的課題

一方で、われわれの足元を見ると、健保組合の財政状況は大変に厳しいものがある。
 令和4年度の健保組合の決算見込みは、全体の4割にあたる559組合が経常赤字であり、厳しい状況が続いている。

全体では、1365億円の経常黒字となったが、この黒字は、2年前のコロナ禍の受診控えに伴う精算戻りによって、高齢者医療費への拠出金が大幅に減少したことによる、極めて特殊で一時的な現象にすぎない。

健保連では、5年度の決算はマイナス3600億円と、再び赤字に転じると予測しており、この傾向は、「団塊の世代」がすべて後期高齢者となる2025年、高齢化のピークを迎える2040年に向けて、さらに強まるとみている。

このままでは健保組合の存続が財政的に危ぶまれる事態になりかねないと、大変、危惧している。

また、わが国の昨年の出生数は過去最少の77万人となり、出生数の減少傾向には歯止めがかかっていない。

将来の社会保障の支え手の減少に歯止めをかけることは、国家的に待ったなしの課題であり、この少子化の流れを止め、反転させるためには、若年人口が急減する2030年代に入るまでの今後10年弱の期間がラストチャンスであり、速やかに手を打たなければならない。

それでもなお、効果が出るまでに長期にわたり少子化と高齢化、これによる生産年齢人口の減少が続くために、健保組合にとっても極めて厳しい状況を迎えることになる。

危機的状況から脱却へ
全世代の支え合い不可欠

こうした健保組合を取り巻く厳しい環境を踏まえ、本大会のテーマは、「将来世代が希望を持てる制度へ! 医療DXを推進し、改革実現と健保組合のさらなる機能強化を」とした。

日本の皆保険制度は、誰もが、応分の負担で必要な医療を受けることができる世界にも類をみない素晴らしい制度だが、急激な少子高齢化により、現在、大きな転機を迎えている。

少子化の流れが加速するなか、この状況を放置して負担を将来世代に先送りするのではなく、皆保険制度を持続可能で、より良い制度として、将来世代に引き継いでいくことがわれわれの使命だ。

われわれが、この使命をしっかりと果たすためには、全世代型社会保障制度を前に進めるための改革の実現や質が高く効果的・効率的な医療を国民・患者に提供するための基盤となる医療DXの推進、さらに、われわれ健保組合が保険者機能を一層強化していくことで、誰もが健康で生き生きと活躍できる社会の創出に貢献していくことが必要だ。

本日の全国大会ではこのような強い決意の下で、4つのスローガンを掲げている。
 1点目は「社会情勢の変化を見据え、全世代で支え合う制度へ」だ。
 団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年を目前に控え、医療費の増加傾向は一貫している。

一方で、制度の支え手である現役世代は減少傾向にある。
 現状においても、財政面、人材供給面、双方で負担は限界であり、さらに、これ以上の負担増を強いることはできない状況だ。

この危機的な状況から脱却するためには、「社会保障を支えるのは若い世代で、高齢者は支えられる世代である」という従来の固定観念を払拭し、年齢に関わりなく、すべての国民がその能力に応じて負担し、支え合うことが不可欠だ。

今年5月に成立した改正法は、現役世代の負担軽減策を織り込んではいるが、まだ十分とは言えない。

これまでも主張してきた後期高齢者の現役並み所得者への公費投入や拠出金負担割合の上限設定など、残された課題への対応が不可欠だ。

また、喫緊の課題である少子化対策は、わが国が最優先で取り組むべき国策だ。
 国民の十分な理解のもとに推進すべきだが、その財源対策は、まさに全世代で支えるべきものであり、国民全体、特に現役世代が納得感を得られるようにすることが欠かせない。

マイナ保険証のメリット
関係者一丸で周知活動

2点目は「医療DXを推進し、国民の健康と安心を確保」だ。
 日々、著しい進化を遂げるデジタル技術を積極的に活用し、人々の生活をさらに豊かにするのが、『DX』、『デジタル・トランスフォーメーション』だが、医療分野でのDXは、保健、医療、介護分野の情報等をデジタル化して活用することにより、国民が安心して、質の高い医療サービスを受けられる体制を築くものだ。

医療DXが社会生活に浸透し、国民がそのメリットを実感していくためには、まずは、「オンライン資格確認システム」を基盤とした「全国医療情報プラットフォームの創設」などを着実に進めていく必要がある。

また、マイナンバーカードと保険証の一体化は、現行の保険証では実現できない質の高い医療の提供や効率化に寄与するものであり、同時に、医療DXを推進するうえで重要なインフラとなるものだ。

今年6月に閣議決定した「骨太の方針2023」には、来年秋に健康保険証を廃止する方針が明記されたが、国民の皆さんに、マイナンバー保険証のメリットをしっかりと理解していただけるように、国や保険者、医療関係者などが一丸となり、周知・理解活動を進めていかねばならない。

10月5日には関係者が一堂に会して、「マイナンバー保険証、一度使ってみませんかキャンペーン」のお披露目も行われたところだ。

併せて、国に対しては、健保組合の現場の実務に配慮し、過大な業務負荷とならない運用とするとともに、新たな事務負担に必要な支援を引き続き、求めていく。

3点目は「安全・安心で効果的・効率的な医療提供体制の構築」だ。
 コロナ禍を経て、われわれは、「必要な時に必要な医療にアクセスできる体制」の重要さを改めて認識した。

限りある医療資源を効果的・効率的に活用するためには、医療機関の適切な役割分担と円滑な連携が不可欠だ。

その実現にあたってキーになるのが、外来医療については、かかりつけ医機能の強化、また、入院医療については病床機能の分化・強化と連携に向けた地域医療構想の推進だ。

かかりつけ医機能の制度整備などを盛り込んだ改正医療法が5月に成立したが、今回の改正はこれからの制度整備に向けた第一歩を踏み出したという内容だ。

今後、すべての国民・患者が、それぞれのニーズに応じて自ら選択、活用できる体制整備に向けて、さらなる検討に取り組む必要がある。

保険者機能を一層発揮
健康課題対策に注力

4点目は「保険者機能の推進による健保組合の価値向上」だ。
 健保組合はこれまでも事業主との連携や加入者との距離の近さを生かして、先進的な保健事業をきめ細やかに展開しながら、健康づくり・疾病予防等に取り組んできた。

こうした取り組みはわが国の医療保険制度を牽引するとともに、健康寿命の延伸にも貢献してきた。

これからも、加入者1人ひとりに寄り添った予防・健康づくりを推進することはもちろん、生活スタイルや働き方が多様化するなか、保険者自身としても時代の要請に応じて、さらに進化していかなければならない。

われわれは、保険者機能を一層発揮し、創意工夫を重ねながら、国の重要課題である少子化対策や社会情勢の変化に対応した健康課題対策に注力し、誰もが健康で生き生きと活躍できる社会の創出に努めていくことで、事業主や加入者、そして国民の皆さんにとっての健保組合の価値をさらに向上させていこうではないか。

自民皆保険議連と連携し
健保組合の主張を実現

最後になるが、「将来世代が希望を持てる制度」の実現は、決して一筋縄でいく話ではない。

しかし、先ほども申し上げたとおり、これはわれわれ、今この時代を生きる者の使命だ。
 われわれは強い決意と覚悟を持って、次の世代のために、取り組んでいかねばならない。
 これから年末にかけて、経済対策などの令和5年度の補正予算、6年度の政府予算編成も大変重要な局面に差しかかる。

また、少子化対策の財源確保のための新たな支援金制度の検討や、来年度の「診療報酬・介護報酬」のダブル改定など、重要な政策も動いていく。

国の公的保険である健康保険において、われわれの主張を前に進め、改革を実現していくためには、こうしたプロセスを十分に注視し、必要に応じて様々な要請活動を行っていく必要がある。

自民党の国民皆保険議連の先生方をはじめ、われわれの主張にご理解・ご賛同いただける与野党の国会議員の先生方と、しっかりと連携させていただき、主張実現を図っていきたいと考えている。

本日の全国大会で掲げたわれわれの主張を実現するため、私も先頭に立って取り組んでいく。

引き続き、健保組合の関係者の皆さん方からの、絶大な支援・協力をお願い申し上げるとともに、本日ご出席いただいた皆さん、ならびに、ご家族の方々のご健勝と益々のご発展を祈念して、私の基調演説とする。

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