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健保ニュース 2023年10月下旬号

武見厚生労働相が会見
全社構築へ給付と負担を議論
トリプル改定 保険料負担など影響見極め

武見敬三厚生労働相は13日、専門誌・紙記者と会見し、全世代型社会保障の構築や令和6年度のトリプル改定への対応などを語った。全世代型社会保障の構築に向けては、給付と負担のあり方を議論し、よりコストパフォーマンスの高い手法で新たな仕組みを実行していくと強調。診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定は、「物価高騰や賃金上昇、患者・利用者負担、保険料負担などへの影響の見極めが必要」と言及したうえで、「財源確保が深刻な課題」との認識を示した。(武見厚労相の発言要旨は次のとおり)


─就任にあたっての抱負と決意

新型コロナウイルス感染症という歴史的なパンデミックを3年間経験し、日本の諸制度が持つ課題も浮き彫りになった。

それによって、従来は改革できなかった課題も国民の理解を得て改革できる環境が整備されてきた。この時期に極めて重要な責任を担うことになったという認識を持っており、改革に関わる制度的な方向性は在任中にしっかりと打ち出したい。

従来から私が考えていた課題は4点ある。第1はパンデミックの経験を踏まえ、次にリスクの高い感染症が発生した時に、混乱なく早期に収拾できる危機管理体制を国と地方で協力しつつ、再構築することだ。

これはもう既に9月1日に「内閣感染症危機管理統括庁」という1つの司令塔機能ができたので、それを踏まえ、例えば「日本版CDC」と言われる「国立健康危機管理研究機構」を法にもとづいて具体的に再構築していくかが主要な課題となる。

第2は、1人ひとりの健康情報を国が責任を持って管理し、安全衛生、個人のプライバシーを守りつつ、「医療DX」という全国的なシステムを構築する必要があることだ。

「医療DX」の実施に向けて進める場合に、「一次利活用」だけではなく、研究開発にも関わる「二次利活用」も含めて、その全体像を作ることが私に課せられた大きな課題となる。

第3は、日本がパンデミックの最中にワクチンが作れずに諸外国の製薬企業に依存せざるを得ないという、極めて残念で屈辱的な結果となったことだ。

日本がワクチンのみならず、経口薬も含む世界の創薬基盤の1つになるよう、制度や仕組みを整えていく必要がある。

第4は、日本のユニバーサル・ヘルス・カバレッジを中心としたグローバルヘルスへの貢献だ。日本が役割を果たす様々な具体的な課題について、WHOのテドロス事務局長と協議することに同意している。

ポストコロナ時代を迎えるなか、これら4点の課題に対応し、確実に進めていきたい。


─マイナ保険証の今後の取り組み

まずは信頼を回復して、マイナ保険証を1人でも多くの国民に使ってもらえるよう、徹底的に努力する。

マイナ保険証は「医療DX」の推進に関わる問題だ。日本で全国的に国民1人ひとりの健康情報を国が一元的に管理する際に、健康保険証とマイナンバーカードの一体化を通じたマイナ保険証の存在が、決定的に重要な登竜門の役割を果たす。

日本はこの分野で遅れをとっており、1日たりとも遅らせたくない。アナログからデジタルの世界に変わる時に、「健康保険証を持って医療機関に行けば何とかなる」という1つの文化が大きな障害となっており、それを克服するために保険者や医療提供者にポスター作成などをお願いしているところだ。

他方で、信頼を回復するために、保険者の協力のもと11月末を目途に政府としてマイナンバー情報総点検を実行している。

これを確実にやり遂げたうえで、まだ誤りがある場合は社会保険診療報酬支払基金に要請し、さらなる継続的な調査も実施する形になっていくと考える。

それにより事実関係を明確にしたうえで、二度と再発しないよう対策を講じ、国民の信頼を得るための努力を行っていく。


─全世代型社会保障構築に向けた課題認識

2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、2030年以降は生産年齢人口が急激に減少してくる。増え続けてきた高齢者人口も2040年には頭打ちとなり、その後は急激な人口減少社会に突入する。

そうなると、間違いなく日本社会のダイナミズムは大幅に縮小し、経済成長が極めて難しい状況となる。

そういう状況にならないよう、少子高齢化で多くの難問を抱えていようとも、日本がしっかりした社会の活力を維持し、国民の1人ひとりが時代の大きな変革期のなかで安心して暮らせる社会保障の仕組みが必要だ。

それがまさに今われわれが構築しようとしている全世代型社会保障の基本にあり、確実に具体化して実現していくことが求められる。

そのなかで、給付と負担のあり方を議論し、国民に適切な説明を行って、よりコストパフォーマンスの高いやり方で新たな仕組みを構築していきたい。


─令和6年度のトリプル改定に向けた対応

少子化対策という極めて大きな課題に取り組みつつも、現実の社会で抱えている医療、介護、障害福祉に関わる問題は報酬制度を通じ、全国民が安心して給付を受けられるよう、その姿を考えなければならない。

その視点から、特に着目しなければならないのは、この分野で働く労働者の賃上げや経営者が抱えている物価高騰の問題について、診療報酬改定のなかでどう対応するかだ。

従って、物価高騰や賃金上昇、経営状況、人材確保の必要性、患者・利用者負担、保険料負担への影響をよく見極めていくことが必要だと考えている。

特に、賃上げについては、今春の労働者における全産業の平均賃上げ率3.6%に対し、医療関係は1.9%、介護事業者は1.4%の状況となっている。

これに加え、チーム医療で様々な職種に広がってきた医療分野の労働者の賃上げに対し、どういう財源を確保しながら手当てしていくかを考える必要があるため、非常に大きな深刻な課題として受け止めている。


─令和5年度補正予算の施策

9月26日の閣議で、岸田文雄首相から、「総合経済対策」について、▽物価高から国民生活を守ること▽持続的な賃上げ、所得向上と地方の成長▽成長力につながるような国内投資の促進▽人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革▽国土強靭化による国民の安心と安全─の柱に沿って具体的な施策の検討を行うよう指示があった。

これらの5つの柱に沿って、医療、介護、障害福祉分野における人材の確保、三位一体の労働市場改革の推進、次なる危機に備えた感染症対策、医療DX・イノベーションの推進など、効果的な施策を盛り込んだ令和5年度補正予算となるよう、現在、鋭意努力している。

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