健保ニュース
健保ニュース 2023年9月下旬号
健保連が診療報酬改定へ政策提言
コロナ踏まえ 効率的な医療の推進など
2年3億件のレセプトを分析
健保連は7日、厚生労働省内で記者会見を開き、令和4~5年度の2年間の調査研究事業として実施した「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅵ」の結果を公表した。調査研究は、①コロナ禍の経験を踏まえた効率的な医療の推進②かかりつけ医を起点とする安全・安心で効率的・効果的な医療の推進③糖尿病治療薬の不適切な使用の是正─の3つのテーマから、レセプトデータを分析し、政策提言するもの。記者会見に出席した健保連の松本真人理事は、調査研究の結果から処方薬に替えて市販のOTC医薬品で対応可能な費用の見込額を最大919億円と示し、医療費の適正化に期待を寄せた。
健保連は2012年から2年ごとにレセプトを分析した結果をエビデンスとして政策立案に向けた意見を発信しており、今回はその6回目。
健保組合118組合の協力を得て令和2年10月~4年9月のレセプトデータ約3.2億件を収集。分析にあたっては外部の有識者から分析手法や結果の解釈等について技術的な視点から助言を得た。
感染予防・セルメディ
重要性を引き続き示唆
①コロナ禍の経験を踏まえた効率的な医療の推進は、65歳未満の加入者を対象として、一定数以上の患者数がある外来の疾患133分類について受療動向を分析した。
まず、コロナ拡大初期の2年1月~9月の患者数にもとづき▽大きく減少し、あまり戻らなかったもの(パターンA)▽大きく減少し、ある程度戻ったもの(パターンB)▽大きく減少しなかった、または増加したもの(パターンC)─の3パターンに分類した。そのうえで、4年6月時点の患者数をコロナ前の元年6月と比較した。パターンAに分類された疾患の9割は、4年6月時点でコロナ前の水準を下回っており、コロナ禍で普及したマスク着用や手指消毒などの習慣が継続したことで、予防可能な感染性疾患が抑制されたと考察。急性上気道炎、気管支炎、皮膚炎など軽症と考えられる一部の疾患では、患者数が低い水準で推移したことを踏まえ、軽症における受療動向が変化した可能性も考えられると指摘した。
パターンBは、一部の眼科系や整形外科領域を中心に9割が4年6月時点で3年前の実績を上回っていた。パターンCは継続して治療管理が必要な生活習慣病やコロナ禍前から年々増加傾向にあった精神科領域の疾患で、引き続き患者数が増加した。
この結果を受けて、個人による感染予防行動やセルフメディケーションは、前回調査に引き続き重要だと強調した。精神科領域等は、患者数の増加傾向の背景要因を長引くコロナ禍や社会活動の変化と推察。さらなる変化をもたらす可能性がある新しい日常が本格化するなかで、患者数の動向を注視する必要性を指摘した。生活習慣病などの場合は、かかりつけ医を活用して自らの状態に対応した治療を選択等の取り組みを引き続き推進することを提言した。
OTC対応可919億円
保険給付の適正化に期待
OTC医薬品の有無別に鼻炎用内服薬やアレルギー用点眼薬の使用状況を分析したところ、処方件数は2年以降、OTC医薬品「あり」が「なし」より低い水準で推移していた。また、同じ薬効の「OTC医薬品」の販売額は2年12月を上回る水準で推移した一方、「OTC医薬品ありの処方薬」の処方件数はヨコバイか同月を下回る水準で推移。セルフメディケーションが一定程度進んだ可能性を指摘した。
分析対象とした118健保組合の65歳未満の患者について、処方薬がOTC類似薬のみのレセプトは、医療費総額が1469億円で、このうちOTC類似薬の処方額は127億円だった。これを65歳未満の医療費全体に引き伸ばした場合、粗い試算による処方額は919億円に及ぶ。調査研究は、この額をOTC医薬品で対応可能だったと考える医薬品の最大見込み額と捉えた。
他方、処方薬がOTC類似薬のみのレセプトは、調剤を含めた1件当たり医療費が1万3694円で、このうちOTC類似薬の処方額は1182円だった。松本理事は医療費に医師の診察や検査等が含まれていることから、処方の必要性を否定するものではないと断ったうえで、3割負担の場合の自己負担額が約4100円になることを踏まえ、一般的に処方薬より高額になるOTC医薬品の価格がOTC類似薬の処方額(1182円)の約3倍程度までに収まるのであれば、OTC医薬品を購入した方が自己負担(約4100円)を軽減できると解説した。
こうした結果を踏まえ、調査研究ではセルフメディケーションのさらなる推進にあたり、OTC医薬品の使用促進に必要な環境を整備するともに、OTC類似薬の保険給付範囲からの除外や保険給付率の見直しについて検討の必要性を指摘した。
かかりつけ医機能発揮へ
医療体制・実績を要件化
②かかりつけ医を起点とする安全・安心で効率的・効果的な医療の推進は、かかりつけ医機能の適切な評価に向け、課題を検証した。
かかりつけ医機能を有する医療機関における初診を評価する「機能強化加算」の届出医療機関を「かかりつけ医機能あり」とみなし、内科系診療所の体制や診療実績について同加算の有無による差を13種類の指標で比較した。
13指標のうち統計的な有意差が示されたのは、▽疾患の種類数(加算あり72.3種類、加算なし65.1種類)▽外来感染対策向上加算あり施設割合(同55.7%、同23.9%)▽新型コロナウイルス感染症延べ患者数(同19.6人/月、同11.6人/月)─等の5指標で、機能強化加算について「一定の役割を果たしている」とした。しかし、残りの▽生活習慣病の重複検査▽夜間・休日・時間外患者数▽多剤服用患者割合▽薬剤総合評価調整管理料算定割合▽診療情報提供延べ患者数─等の8指標は有意差がみられず、現行の要件では「十分な機能の発揮を促す効果は乏しい」と考察した。
これらを踏まえ調査研究は、かかりつけ医機能の評価について、「かかりつけ医機能を発揮するための適切かつ十分な体制及び診療実績を要件として定めるべき」と強調した。具体策として、プライマリケアに関する診療行為を包括化したうえで体制や診療実績に応じて点数にメリハリをつけることや、機能強化加算を存続させる場合に体制や診療実績が適切に反映されるように見直すことをあげた。また、体制及び診療実績の要件設定について、「実態の検証が可能な指標とするべき」と指摘した。
また、プライマリケアの評価指標について、米国の公的医療保険で採用されているアウトカム指標のうち、医療機関毎の計画外入院発生比を健保組合レセプトから試算した。
急性心筋梗塞、認知症、心房細動、慢性腎臓病、COPD・喘息、うつ、糖尿病、心不全、脳卒中の9疾患群のうち、2つ以上に該当する40~74歳の患者を対象に、4年4~9月に対象患者が50人以上受診した診療所を抽出し、年齢、疾患の種類、併存疾患の有無を考慮したうえで、計画外入院の発生状況を比較した。
計画外入院が有意に多い施設が全体の14.4%、少ない施設が11.3%を占め、施設間の計画外入院発生比には最大2倍程度の差が生じており、アウトカムが異なることを示唆する結果となった。
この結果を踏まえ、アウトカム指標の導入に関する研究を推進し、アウトカム指標やプロセス指標を組み合わせた総合的な評価を検討するほか、診療報酬だけでなく、患者がかかりつけ医を選択する際の参考となるよう、アウトカム評価を見える化すること等を求めた。
減量効果の糖尿病治療薬
目的外使用を是正
③糖尿病治療薬の不適切な使用の是正は、延べ3か月以上受診した75歳未満の患者について、糖尿病治療薬の処方と血糖コントロールの指標となる検査の有無を分析した。減量効果のある糖尿病治療薬を1種類のみ処方された患者では検査なし患者が3.0%、減量効果のない薬剤を含めて糖尿病治療薬を2種類以上処方された患者では検査なし患者が1.1%で、検査を行っていない割合は減量効果あり薬剤1種類処方患者でより高かった。
さらに、減量効果あり糖尿病治療薬1種類処方患者を対象に別の要素を加えて検査の有無を分析したところ、肥満治療に用いられる内服薬(マジンドール、防風通聖散)を処方された患者の検査なし割合はそれ以外の患者の2.9倍だった。また、美容効果があるとされている内服薬(グルタチオン、トラネキサム酸等)を処方された患者の検査なし割合はそれ以外の患者の1.7倍だった。
こうした結果から、レセプトの傷病名は糖尿病であっても、痩身目的であることが強く疑われる処方があると考察した。自由診療でも問題視されている「糖尿病治療薬ダイエット」が保険診療として行われている可能性を踏まえ、▽治療以外の目的の処方は、薬事承認および保険給付の対象外であることを改めて医療機関に周知徹底する▽糖尿病治療薬の糖尿病治療目的外の使用実態をより正確に把握できるような対策を行い、悪質と考えられる事例を迅速に捉えることを可能にする▽適応外の使用を控えるよう国民全体に注意喚起を改めて行う─ことを提言した。