健保ニュース
健保ニュース 2023年8月合併号
健保連定時総会
宮永会長 健保組合の強みを研磨
変換点に応じた取り組み推進
健保連は7月28日、東京・新宿区のベルサール新宿セントラルパークで第218回定時総会を開いた。冒頭あいさつした宮永俊一会長は、生産年齢人口が減少するなかで高齢者がピークを迎える、「今までに経験したことのない厳しい少子高齢社会に突入する」と指摘。このような状況下で、将来に向けた課題を1つひとつ解決しながら原点に立ち返り、健保組合の強みを磨いて時代の変換点に応じた取り組みを進めていく必要があると強調した。政府が年末までに結論を出す少子化対策や介護保険の利用者負担の見直しについては、健保組合に与える影響を注視し、健保連としての結論や方向性を示すべく、適切に対応していく意向を示した。他方、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に向けた登録データのチェックなどの取り組みに謝意を表明。現行の保険証では実現できない、質の高い医療の提供や医療費適正化を推進するため、正確なデータ登録の取り組みをサポートしていくと言及した。(宮永会長の発言要旨は次のとおり。)
総会の開会にあたり、一言あいさつ申し上げる。
議員の皆さんには、大変お忙しいなか、お集まりいただき、心より厚くお礼申し上げる。
東京は梅雨明け前から、連日猛暑が続いているが、その一方で、各地で大雨の被害が出ている。
被災された皆さんに対し、心よりお見舞い申し上げる次第だ。
本日は来賓として、公務ご多忙のなか、加藤勝信厚生労働大臣にご臨席いただいている。
後ほどあいさつをいただくこととなっているので、よろしくお願い申し上げる。
さて、「新型コロナウイルス」は、本年5月8日から感染症法上の位置づけがインフルエンザと同じ5類に変更された。
われわれは、これまでの3年半の間、社会生活や経済活動に大きな影響を受けてきたが、今年の夏は、お祭りなど各種イベントが再開され、コロナ前の日常と賑わいが戻ってきている。
コロナ対応として取り組んだテレワークといった働き方やICTの積極的な活用、キャッシュレス化のさらなる拡大、GXの取り組みなど、新たな生活スタイルが定着し、新しいビジネスも生まれてきている。
さらに、世界経済に目を向けると、地政学リスクの高まりによるサプライチェーンの制約影響があるものの、欧米では、賃金の上昇による個人向けサービスが牽引することで、コロナ後の経済の回復傾向が顕著となってきているが、その一方で、旺盛な需要のもと、物価高騰の動きがみられている。
国内では、円安などの影響で、生活消費財の物価高騰が続いているが、エネルギーや輸入材の物価高騰は、ここにきて少しながら一服してきた感がある。設備投資の増加とともに、大企業の景気感は製造業・サービス業ともに改善している。
これに、およそ30年ぶりという高い水準の賃上げによる雇用情勢の改善が加わることで個人消費の回復が支えられ、着実にコロナの影響から脱却しつつあり、今年度に入ってからの日経平均株価は、バブル後の最高値を更新するなど、今後の日本経済の成長に対する期待感も出てきている。
「新型コロナウイルス」という社会・経済に大きなインパクトを与えた出来事を乗り越え、アフターコロナという新しい社会における発展に向けて、様々な計画や施策が動き出そうとしている。そういう状況のなかで、われわれは、まさに「変換点」のタイミングにいると感じている。
今の成長と分配の好循環を一過性のものとせず、持続的な成長につなげていくためにも、極めて重要な時期にあると認識している。
特に社会において懸念される少子化については、今年の4月に新しい将来推計人口が発表された。
2043年に65歳以上の高齢者が約4000万人というピークを迎えるが、総人口の減少はさらに進み、2056年には総人口が1億人を割る見込みとなっている。
これから、社会を支える現役世代、つまり生産年齢人口が減少するなか、高齢者がピークを迎えるということからみても、また、2022年の出生数が80万人を切ったことを鑑みても、少子高齢社会が、今までに経験したことのない厳しい時期に入ることは間違いない。
このようななかで、われわれ健保組合も将来に向けての課題を1つひとつ解決しながら、原点に立ち返り、その強みを生かして時代の変化に応じた取り組みを進めていく必要があると感じている。
先般、令和5年度の健保組合予算早期集計を発表した。
健保組合全体での経常収支は、予算ベースでは過去最悪の5600億円を超える赤字であり、全体の約8割の健保組合が赤字という状況に陥っている。
これは、新型コロナ感染による受診控えの反動などもあり、保険給付費の増加傾向が続くと見込まれることや、2025年には、団塊の世代がすべて後期高齢者となることにより、高齢者医療への拠出金が急増していることによるものだ。
そのようななか、今年5月、国会において「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための改正健康保険法」が可決、成立した。
これまでの「負担は現役世代、給付は高齢者」という考えから、日本の優れた健康保険制度を全世代で支えていく方向性が強化された。
われわれ健保組合・健保連が従前より主張してきた「現役世代の負担軽減」を踏まえた内容となっており、大変評価できるものと考えている。
ただその一方で、被用者保険者間における格差是正という観点から、前期高齢者納付金の一部に対して報酬水準に応じた調整が導入されることとなった。
調整の範囲は3分の1となるが、現役世代の負担軽減という改革の趣旨を踏まえれば、これ以上の拡大は断じてあってはならない。
法案の国会審議において、佐野副会長が参考人として出席し、厳しい健保組合の財政状況やこの点について、特に強く訴えるとともに、論点として国会で議論された結果、参議院厚生労働委員会の附帯決議において「過重な財政調整とならないようにすること」と盛り込まれることとなった。
附帯決議には法的拘束力はないと言われるが、立法府の意思を示すものとして、大変重たい決議であると受け止めている。
さらに、6月には、岸田政権の今後の政策方針となる「骨太の方針2023」、「新しい資本主義実行計画」、「こども未来戦略方針」などが閣議決定された。
これらの中では、賃上げや成長産業への人的資源投入につなげるための「三位一体の労働市場改革」や「少子化対策」などが柱として掲げられている。
特に、「少子化対策」は、人口減少を食い止めるために、国をあげて、言い換えれば全世代で取り組むべき課題であると認識している。
ただ、その財源については、徹底した歳出改革を行い、実質的な追加負担を生じさせないとされている。
反面、新たな枠組みである「支援金制度」として、社会保険の賦課・徴収ルートが活用されるような案も出されるなど、今後、検討していく事項も多く、健保組合への影響を踏まえつつ、その動向を注視していかなければならない。
また、介護保険の利用者負担の見直しなど、夏までに結論を出すことになっていたものが、年末まで先送りとなったものや今後具体的な検討を深めていくべきものもあり、健保連としての結論や方向性を示すべく、しっかりと対応していく所存だ。
そして、保険者機能についても個別施策で触れている。
次年度から「第3期データヘルス計画」が始まる。
現在、皆さんの健保組合でも、計画の策定をされていることと思うが、人口減少の局面において「健康」は大切なキーワードだ。
データヘルス計画で、エビデンスにもとづく取り組みや女性の健康課題、ロコモ予防といった働き方改革によって多様な労働者や働き方が増えたことに対応した取り組みを行っていくこととなっている。
同時に、「健康日本21」の第3次の取り組みもスタートしている。
今後、働き方や雇用形態がさらに変化していくなかで、われわれ健保組合の強みである保険者機能を発揮し、事業主との連携を活かしながら、それぞれの業態にあった効果的な取り組みをお願いしたい。
また、マイナンバーカードと保険証の一体化の関係では、6月2日にいわゆる「改正マイナンバー法」が国会で可決・成立し、骨太の方針には「来年秋の保険証廃止の方針」が明記された。
しかしながら、マイナンバーに関する様々な事象が発生していることから、政府においては「マイナンバー情報総点検本部」を設置し、「国の最重要課題として取り組む」とされている。
健保組合の皆さんには、登録データのチェックなど、懸命に取り組んでいただいている状況だが、健保連としても、皆さんの取り組みをサポートしていくので、業務多忙のなか、大変な苦労と思うが、現行の保険証では実現できない、質の高い医療の提供や医療費の適正化を推進するためにも、正確なデータ登録の取り組みをぜひよろしくお願いする。
最後になるが、先日、日経ビジネスにおいて健保組合の特集記事が組まれた。
ご覧になった方も多いと思うが、「健保沈没」という、ややショッキングなタイトルだったが、その内容は、健保組合の厳しい現状から、先進的な保健事業に取り組んでいる組合や加入事業所と組んでコラボヘルスを推進している事例まで取り上げられ、われわれ健保組合の活動を一般の方たちにもわかりやすく解説した記事になっていた。
私自身もインタビュー取材を受けたが、そのなかでは、このまま現役世代への過重な負担が続けば、若い世代を中心に制度に対する不信感が高まってしまうのでないか、そうならないためには、社会の構成員全体で、納得できる制度を模索し、社会的なコンセンサスを醸成していくことが重要であるという趣旨のことを話した。
冒頭に申し上げたとおり、今まさに、社会も経済も、そして、それを支える社会保障制度も大きな「変換点」にある。
大事な、大変な時期に直面しているが、こういう時こそ、保険者としての原点に立ち返って、足元を固めつつ、将来に向かってそれぞれの健保組合の強みを磨いていくことが必要だ。
日本の国民皆保険は、世界でも類を見ない公平で温かい仕組みの制度だ。
われわれは、先人たちから受け継いだこの素晴らしい制度を守り、そして、より良い制度にしていく責任がある。
健保連会長として、私も精一杯、取り組んでいく。
引き続き、皆さんの理解・協力を賜りたくお願い申し上げる。
本日は、忌憚のない意見を賜りたくお願いして開会のあいさつとする。