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健保ニュース 2023年7月下旬号

河本専務理事が情勢報告
全国大会前後 諸課題の検討の山場

健保連の河本滋史専務理事は14日の理事会で、最近の情勢を報告した。足元から年末にかけての主要なスケジュールを説明するなかで、少子化対策の財源の一部となる新たな支援金制度の設計を含む「こども未来戦略」の策定や令和6年度の診療報酬と介護報酬の同時改定における改定率の調整といった年末に向けた検討事項を示した。そのうえで、健保連が10月25日に開催する全国大会前後の時期が、「諸課題の検討の山場となる可能性も高い」と言及。あわせて、自民党の「国民皆保険を守る国会議員連盟」をはじめとする政治への働きかけについても、同様に「10~11月がターゲットになる」と見通し、今後の政府等の動向を睨みつつ、タイムリーに対応する方針を明らかにした。また、政府が6月に閣議決定した「骨太の方針2023」について、「総じて、健保連が主張してきた多くの内容が盛り込まれた」と評価する一方で、少子化対策に伴う新たな負担等の懸念点もあるとして、関係委員会で対策の検討を進めていく意向を表明した。(河本専務理事の情勢報告要旨は次のとおり。)

政府の動向注視し
タイムリーに対応

1点目は、当面の政府等の動向と健保連の対応についてだ。
 まず、足元から年末までの主要スケジュールを説明する。あくまで現時点の想定で、今後変化する可能性がある点は留意いただきたい。

政府予算の関係では、8月末に令和6年度政府予算の概算要求を締め切る。すでに厚生労働省や政治への働きかけを行っているが、概算要求の締め切りは一つの節目なので、これに向けて必要な対応を行っていく。

また、9月以降、年末に向けて様々な検討が進むと想定している。
 政府が6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」を具体化する検討が年末にかけて進む。「こども未来戦略」として策定されるなかには、少子化対策の財源の一部となる新たな支援金制度の設計も含まれる。こうした審議がどの場で行われるか明確でないが、恐らく官邸のこども未来戦略会議と関係審議会で行われるものと想定している。

「骨太の方針2023」あるいは「こども未来戦略方針」のなかで少子化対策の財源は、2028年度までに徹底した歳出改革等を行って実質的な追加負担を生じさせないことをめざすと記載された。財源確保に向けた歳出改革の工程表もあわせてその取り扱いを検討するとされている。こうした歳出改革の枠組みや項目の全体感が年末までにどの程度示されるのかは現時点では不明だが、留意する必要がある。

加えて、夏の取りまとめが年末に延期された介護保険制度の給付と負担の見直し、かかりつけ医機能の制度整備に向けての具体的な検討といった審議もそれぞれの関係審議会で行われる。

また、2024年4月は診療報酬と介護報酬の同時改定のタイミングだが、年末に向けて改定率の調整が進むと想定される。徹底した歳出改革という方針もあるなかで、相当の難航が予想される。

直近の情報では、内閣改造が9月中旬に想定されているということで、臨時国会は10月上旬の開会が有力視されている。

開会後の早いタイミングで、衆院解散・総選挙の可能性が取り沙汰されている。万一選挙になった場合は、年末に向けての様々な検討のなかでも特に負担に関わる部分の審議が選挙後の10月下旬から12月にかけてと、極めて短い期間に集中する可能性もあると考えている。

一方、マイナンバーカードと健康保険証の一体化の関係では、現在、既登録データの全保険者による点検作業が、健保組合の皆さんにも大変な尽力をいただきながら実施されている。

8月以降、国によるデータ全体のチェックが行われ、その後、それにもとづく確認作業を進めていくことが国のロードマップに記載されている。

また、資格確認書をはじめ、一体化に向けての検討も継続していく。
 この間の健保連のスケジュールは、9月に令和4年度決算見込みを公表、10月25日には全国大会を開催する。
 選挙の有無等により変わってくるが、全国大会前後が諸課題の検討の山場となる可能性も高いと想定している。

また、自民党の「国民皆保険を守る国会議員連盟」をはじめとする政治への働きかけについても、10月から11月のあたりがターゲットになると想定しており、今後の政府等の動向を睨みつつ、タイムリーに対応していきたい。

また、マイナ保険証をめぐる動きについては、冒頭の会長あいさつにもあったとおり、登録データの正確性確保の取り組みを、健保連も全力でサポートするとともに、一体化に向けての検討に健保組合の意見をしっかりと反映すべく引き続き対応していく。

想定される懸念に
関係委員会で対策検討

次に、「骨太の方針2023」について報告する。

6月16日に「骨太の方針2023」が閣議決定された。
 それをみると、「少子化対策・こども政策の抜本強化」のなかの「加速化プランの推進」では、歳出改革によって国民に実質的な追加負担を求めることなく「こども・子育て支援加速化プラン」を推進すると記載された。健保連は少子化対策にはもちろん賛成する。ただし、現役世代による保険料財源だけでなく、全世代で支えていくべきであり、徹底した歳出改革を大前提に、現役世代の負担を軽減することが必要と主張している。こういった主張に沿っているといえるが、社会保障の歳出改革は、これまでの例をみても抵抗が極めて強いことも想定され、一筋縄ではいかないとも考えている。

少子化対策については、財源や出産費用の保険適用を含め、政策委員会で検討中だ。その結果をさらに主張に反映させていきたい。

「全世代型社会保障の実現」について、健保連は全世代型社会保障の構築、世代間のバランスの是正、後期高齢者の原則2割負担、あるいは後期高齢者現役並み所得者の給付費への公費投入などを主張しているが、「骨太の方針2023」には、「給付と負担のあり方を含めた改革の工程の具体化を進めていく」と記載された。

「かかりつけ医」については、かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進を図るといった記載だ。健保連としては、今回の制度整備はあくまで第1歩であって、国民・患者が希望に応じてかかりつけ医を選択・利用できる制度・環境の整備や保険者との連携・協力が必要と主張している。

「医療DXの推進」については、「政府を挙げて確実に実現」と記載された。健保連はデジタル化の推進について賛成だ。ただし、電子カルテ等、新たな負担が生じる懸念もあることから、しっかりと見極めて必要な主張を展開する。

「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」については、来年秋の健康保険証廃止が明記された。この点については、加入者、事業主に対する周知・広報、迅速・正確な資格情報等の登録に向けた取り組み、事務負担・費用負担への支援、資格確認書の対応といったことについて、引き続き訴えていく。

「健康づくり・予防・重症化予防」は、「強化」と記載された。健保組合はエビデンスにもとづく保健事業としてデータヘルスを推進している。さらに、女性特有の健康課題・少子化対策・ロコモ対策、PHRを含むICT活用、かかりつけ医など医療従事者との連携といった視点から保険者機能の強化推進について検討を進めていく。

「介護保険制度」は、利用者負担2割の対象範囲拡大の結論が年末に先送りされているが、健保連としては、確実な実施を求めている。

「令和6年度診療報酬・介護報酬等改定」は、「物価高騰・賃金上昇、人材確保の必要性、患者・利用者負担、保険料負担への影響を踏まえ必要な対策を行う」と、やや両論併記的な記載となっている。健保連は、従来から診療報酬の引き上げが患者負担など国民の負担増に直結する点を考慮すべきと訴えている。少子化対策の財源について、先ほど触れたように歳出改革等により国民に実質的な負担増を求めないといった記載があるなかで、今後、様々な議論が行われると想定している。

「骨太の方針2023」には、総じて、健保連が主張してきた多くの内容が盛り込まれ、その点は評価できる。一方で、少子化対策への新たな負担等、懸念点もある。そういった意味で関係委員会で検討を進めていく。

コロナ禍前を上回り
医療費の伸びが急増

2点目が、医療費の動向だ。

まず、令和4年度の1人当たり医療費の対前年度伸び率が、被用者保険は6.62%増、健保組合は6.51%増、新型コロナウイルス感染症の第7・8波の影響もあり、相当高い伸びとなっている。

コロナ禍前の元年度との比較では、被用者保険は11.39%増、健保組合は11.07%増となっている。
 3年平均でも1年あたり3.7~3.8%の伸びだ。コロナ以前の年率2%強の伸びを大きく上回っている。

5年度4月の1人当たり医療費は、被用者保険は対前年同月比3.53%増、健保組合は同3.07%だが、ゴールデンウイークにおける休日配置の関係があり、休日補正すると、それぞれ5.83%増、5.37%増となり、5%を超える高い伸びになっている。

コロナ関連の医療費は、4月は260億円で収まってきてはいるが、一方でインフルエンザ、風邪といったその他の感染症の流行やコロナ感染拡大時の入院控えの戻りがあり、依然として高いまま推移している。

5月診療の速報値、支払基金の審査前の速報値だが、これをみると、被用者保険で、休日補正後で対前年同月比5.9%増となっている。5月もかなり高い伸びということだ。今後の動向を注視していく必要がある。

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