健保ニュース
健保ニュース 2023年5月下旬号
参院厚労委が健保法案に附帯決議
健保組合の財政支援を継続
参院厚労委では、法案の採決と合わせて、自民党、立憲民主党など5会派共同提案の附帯決議を採択した。
附帯決議は、改正法の施行に当たり講ずるべき事項として16項目を列挙。1番目の項目には、特に財政状況が厳しい健保組合に対する継続的な財政支援を行うことを明記した。
健保連は4月20日に記者会見し、令和5年度の健保組合全体の経常収支が過去最大の5623億円の赤字となる予算早期集計の結果を公表している。このなかでは、前年度比9.9%増の後期高齢者支援金、同3.8%増の前期高齢者納付金などの拠出金や保険給付費の増大を赤字の要因とした。また、6年度以降も増加を見込み、現役世代の負担軽減を強く訴えた。
附帯決議は財政支援を盛り込んだ背景として、後期支援金、前期納付金の増大等を要因に、財政運営が極めて困難な健保組合が急増していることなどを指摘しており、健保組合・健保連の主張が反映された格好となった。
また、前期納付金、後期支援金の仕組みについて、保険者機能や現役世代の負担に配慮する内容も盛り込まれた。
前期納付金に関しては、健保連の佐野雅宏副会長が4月4日の衆院厚労委員会で参考人として意見陳述した際、報酬調整の範囲について、拡大された場合の現役世代の負担増大を踏まえて、3分の1でとどめるよう強く求めた。附帯決議はこの趣旨と同様、新たに導入する報酬調整について「過重な財政調整とならないようにすること」とけん制する項目を2番目に続けた。
3番目は後期支援金に関する項目で、「現役並み所得の後期高齢者」の医療給付に公費負担がないという、健保連のかねてからの主張と同様の趣旨から、後期高齢者医療制度における財源のあり方の検討を行うこととした。
出産費用に関しては、正常分娩に要する費用の見える化を進めるとともに、正常分娩の医療保険適用の検討に当たり、その目的を明らかにしつつ議論を進めることを求めた。出産費用の保険適用については、保険適用した場合に生じる自己負担に対し、岸田文雄首相が「出産育児一時金が出産に関する平均的な標準費用をすべて賄えるようにする観点から増額した考え方は踏襲する」と言及していることを踏まえ、その対応を明文化した。(参院厚労委が5月11日に採択した附帯決議の全文は次のとおり)
一、後期高齢者支援金及び前期高齢者納付金の増大等により、財政運営が極めて困難な健康保険組合が急増していること等を踏まえ、特に財政状況が厳しい健康保険組合に対する継続的な財政支援を行うこと。
二、前期財政調整における報酬調整については、保険者機能への配慮や保険者間の公平性の観点を踏まえ、過重な財政調整とならないようにすること。
三、後期高齢者医療制度については、現役並み所得の後期高齢者に係る医療費給付について公費負担が行われておらず、現役世代に対する過重な負担となっていること等を踏まえ、後期高齢者医療制度における財源の在り方について検討を行うこと。
四、都道府県に必置とされる保険者協議会について、保険者だけでなく、医療関係者が構成員として参画することを積極的に促すとともに、複合的なニーズを有する高齢者への医療・介護の効果的・効率的な提供など、実効性のある医療費適正化の取組を進めること。また、レセプト分析を通じた医療費適正化のエビデンスの収集等に関して、保険者協議会と社会保険診療報酬支払基金及び国民健康保険団体連合会の連携を進めること。
五、住民の健康増進等を通じた医療費の更なる適正化の推進を図る観点から、第四期医療費適正化計画の策定や計画期間中の改訂に当たっては、ロジックモデル等のツールの活用を促すことなどを検討し、PDCAサイクルに基づく計画の立案、評価及び見直しなど、実効的な計画の策定等が行われるよう努めること。
六、予防・健康づくりについて、健康や生活の質の向上に与える効果に関するエビデンスを収集し、将来的な健康寿命の延伸や医療費の削減効果が見込まれる取組が積極的に実施されるよう環境を整備すること。
七、新たに刷新・創設される医療機能情報提供制度及びかかりつけ医機能報告制度について、医療機関に報告を求める項目等の詳細が厚生労働省令に委任され、本法の審査過程において当該厚生労働省令の具体的内容が明らかとならず、その詳細が本法成立後の有識者等による検討に委ねられたこと等を踏まえ、当該有識者等による検討結果や検討過程における議論の内容について、本法施行に先立ち、明らかにすること。また、当該有識者等による検討の場やその構成員について、決定次第、明らかにすること。
八、本法のかかりつけ医機能に関する制度改正については、同機能が発揮される第一歩と位置付け、全ての国民・患者がそのニーズに応じて同機能を有する医療機関を選択して利用できるよう、速やかに検討し、制度整備を進めること。また、同機能を有する医療機関に勤務しようとする者への教育及び研修の充実に加え、処遇改善やキャリアパスの構築支援等、これらの者が増加するような取組を推進すること。
九、かかりつけ医機能報告の対象となる慢性の疾患を有する高齢者その他の継続的な医療を要する者については、障害児・者、医療的ケア児、難病患者を含めるなど適切に定め、将来は、継続的な医療を要しない者を含め、かかりつけ医機能報告の対象について検討すること。
十、医療法人及び介護サービス事業者の経営情報に関するデータベースの整備に当たっては、医療・介護従事者の適切かつ的確な処遇改善を図る観点から、職種別の給与情報が可能な限り報告されるよう必要な取組を進めるとともに、当該情報に係る本法施行後の報告状況を勘案しながら、将来の報告義務化を含めた対応を検討すること。また、当該データベースの報告対象となる医療法人及び介護サービス事業者に過度な事務負担が生じないよう、負担軽減策もあわせて講ずること。
十一、地域において効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに地域包括ケアシステムを構築することを通じ、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進等を図る観点から、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律に基づく地方公共団体の計画策定に当たっては、ロジックモデル等のツールの活用を促すことなどを検討し、PDCAサイクルに基づく計画の立案、評価及び見直しなど、実効的な計画の策定が行われるよう努めること。
十二、地域包括ケアシステムが適正に構築され、利用者に提供されるサービスが不当に偏ることのないよう、高齢者施設等による訪問する医師の選定等における利益収受の禁止を徹底するなど必要な取組を進めること。
十三、今後、高齢者の増加に加え現役世代の減少が加速することにより、介護人材の一層の不足が見込まれること等を踏まえ、介護人材の処遇の改善や業務負担の軽減を図るなど介護人材の確保のための方策について検討し、速やかに必要な措置を講ずること。また、介護に従事する外国人労働者が尊厳を持って安定的に就労・定着できるための措置を講ずること。
十四、介護保険制度は、我が国社会保険制度の主柱であり、諸外国に範を示す制度として定着してきたことを踏まえ、今後は、三年を一期とした介護保険事業計画のサイクルに合わせた制度改正に先立ち、給付と負担の在り方に関する議論の結論を示すこと。また、制度改正に当たっては、あわせて利用者の利便に資するための改革も検討し、所要の措置を講ずること。
十五、出産費用の見える化については、正常分娩に要する費用が明らかとなるよう必要な取組を進めるとともに、正常分娩に対する医療保険適用(現物給付化)の検討に当たっては、出産育児一時金が出産に関する平均的な標準費用を全て賄えるようにする観点から増額されたことを踏まえ、医療保険適用の目的を明らかにしつつ議論を進めること。
十六、急速に進行する少子高齢化等により、国民の間に社会保障制度の持続可能性に対する不安が高まっている現状を踏まえ、持続可能な全世代対応型の社会保障制度を構築するため、金融資産・金融所得を含む能力に応じた負担の在り方や保険給付の在り方等について、税制も含めた総合的な検討に着手し、課題や論点等を分かりやすく示した上で国民的な議論を進め、結論が得られた事項について、速やかに必要な法制上の措置等を講ずること。