健保ニュース
健保ニュース 2022年11月下旬号
厚労省が出産一時金の見直し提案
後期高齢者 6年度から対象額の7%負担
出産費用・保険適用の指摘も
厚生労働省は11日の社会保障審議会医療保険部会(田辺国昭部会長)に、医療保険制度改革に向けた論点として、▽出産育児一時金の医療保険全体での支え合い▽出産費用の見える化─を提案した。
「出産育児一時金の医療保険全体での支え合い」は、少子化を克服し、持続可能な社会保障制度を構築するため、子育てを社会全体で支援する観点から、後期高齢者医療制度が出産育児一時金にかかる費用の一部を負担する仕組みを導入する。
具体的には、現役世代と後期高齢者の保険料負担に応じて、現役保険者と後期高齢者医療制度で出産育児一時金を按分する仕組みで、後期高齢者医療制度の負担割合は、後期高齢者医療の所要保険料(1.7兆円)÷全医療保険制度計の所要保険料(24.4兆円)から、対象額の7%と設定した。
後期高齢者医療の保険料率改定のタイミングである令和6年4月からの導入をめざし、厚労省は来年の次期通常国会への関連法案の提出を視野に入れる。
後期高齢者医療制度が拠出した費用は、健保組合、協会けんぽ、共済組合、国保における出産育児一時金の支給額(給付費─公費負担分)に応じて按分。支給見込みに応じて概算で拠出を受け、支給実績を踏まえ確定(概算との精算)を行う仕組みとし、後期高齢者医療制度からの拠出は保険者の事務を簡素化するため、後期高齢者支援金と相殺する形を検討する。
「出産費用の見える化」は、被保険者等である妊婦が適切に医療機関等を選択できる環境を整備するため、直接支払制度を行っている医療機関に対し、▽出産費用の状況(平均入院日数、出産費用・室料差額・無痛分娩管理料・妊婦合計負担額の平均額)▽室料差額、無痛分娩等の取り扱いの有無▽分娩に要する費用および室料差額、無痛分娩等の内容(価格等)の公表方法─の公表を求める。
このほか、出産費用の地域差と支給額の設定にかかる主な課題として、現行の全国一律の場合、出産費用が高い都道府県では他の地域に比べ、実際の出産費用が支給額を超えるケースが多く生じると指摘。
また、地域別設定とする場合、▽産科医療提供体制の偏在を固定化・助長するおそれ▽出産費用の地域差を固定化・拡大するおそれ▽健保組合等では、全国一律の保険料が基本となっているなかで、地域によって給付水準が異なることに理解が得られるか─などを課題とした。
健保連の佐野雅宏副会長は、影響額も含む改革の全体像にもとづき議論を進めていくことが重要と強調し、改革の全体像を示すよう改めて要望した。
出産育児一時金の医療保険全体での支え合いについては、見直しの方向性に賛成したうえで、後期高齢者医療制度の負担は出産育児一時金に必要な全額を対象額とする必要があるとした。
合わせて、「5年4月からの出産育児一時金の引き上げと、支え合いの仕組みに1年間のズレが生じる」と指摘。引き上げと支え合いの仕組みは同時に実施すべきと主張したうえで、止むを得ずタイムラグが生じる場合は、この間における現役世代の負担軽減を講じるよう要請した。
村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、後期高齢者医療制度の負担割合7%の設定について、「所要保険料でみるべきか、あるいは特定保険料を除いた基本保険料でみるべきかといった論点がある」と問題提起。給付と負担の関係性をあまり複雑にすることなく、被保険者にわかりやすい仕組みとすることが必要とした。
他方、妊娠・出産にかかる費用については、「負担軽減措置を講じつつ、正常分娩も含め常に健康保険を適用すべき」と改めて訴えた。
安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も、出産費用の増加に対し、なし崩し的な形で出産育児一時金の引き上げで負担するということでなく、全国一律の診療報酬で対応するような仕組みづくりも将来的には必要との考えを示した。
菅原琢磨委員(法政大学経済学部教授)は、「出産費用の診療報酬点数化や、室料差額などの保険外療養費化を検討の俎上に載せていくという議論の方向性がある」と述べた。