健保ニュース
健保ニュース 2022年11月下旬号
健保連「かかりつけ医」議論の整理
機能有する医療機関を認定
河本専務理事 国民・患者の選択を支援
健保連は8日、記者会見を開き、「「かかりつけ医」の制度・環境の整備について」と題する議論の整理を発表した。河本滋史専務理事は「国民・患者の選択が大前提で、強制や割り当てではない。国民・患者を支援することが保険者の役割」との基本認識を示した。制度整備に向けて、「かかりつけ医機能の明確化からはじまり、かかりつけ医機能を有する医師や医療機関の認定にもとづき情報が可視化されることで、国民・患者がかかりつけ医を選びやすくなり、国民・患者が選択したかかりつけ医にしっかり役割を果たしてもらうことが、われわれの考え方の幹となる部分だ」と強調した。
健保連は昨年10月の提言「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」において、柱のひとつに「かかりつけ医機能の推進」を位置づけた。その後、政府の「骨太の方針2022」でかかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う方向性が示されたことを踏まえ、提言を深掘りするため、常設する政策委員会の下に小委員会を設置。7月から9月にかけて審議し、今回、中間的に議論を整理した。
かかりつけ医を推進する背景については、人口減少とさらなる高齢化により保険財政と医療資源が限界を迎え、効果的で効率的な医療提供体制の構築に寄与する医療の最適化が必須だと指摘。従来から幅広い年齢層や疾患において、はしご受診や重複投薬などの問題があり、さらに、新型コロナウイルス感染症禍において必要な医療の不足が顕在化したことにも着目した。医療の過不足が改善され、医療の質を向上させるために、医療機能の分化・強化と連携に向けた改革として、かかりつけ医に関する制度と環境の整備が、医療システム全般に関わる最重要課題だと強調した。
かかりつけ医に関する制度の基本概念については、「国民・患者の選択」を前提に据えた。国民・患者が自分の希望に沿ってかかりつけ医を選び、疾患や勤務の状況に応じてかかりつけ医を活用できるよう、国民・患者を支援することを保険者の役割として明確化した。
認定には公的な仕組み
医師1人を任意登録・窓口に
制度整備に関しては、「かかりつけ医機能の明確化」「医師・医療機関の届出・認定」「医師・医療機関の可視化」「国民・患者による選択」が不可欠だとし、この4項目を一連の流れとして確立することで、「患者と医師の信頼関係の好循環」をめざす。
「機能の明確化」については、まず、すべてのかかりつけ医に共通する基本的な機能として、▽幅広い診療・相談▽情報の一元的な把握▽他の医療機関との連携体制─等を求めた。さらに、国民・患者の多様なニーズを満たすための付加的な機能として、▽オンライン診療▽慢性疾患の計画的管理▽リフィル処方▽在宅医療─等をあげた。
かかりつけ医が地域医療連携の要となり、健康・医療全般の調整役を担うことで、慢性疾患の計画的な管理だけでなく、普段はほぼ受診しない若年層の急な体調不良時を含めて、必要な時に必要な医療を受けられるフリーアクセスを確保しつつ、安全・安心で効果的・効率的な医療につなげる。
「医師・医療機関の届出・認定」では、一定の条件を満たす医療機関を公的に認定する仕組みを創設する。十分な機能が証明されていれば、国民・患者がかかりつけ医を探す際や、各保険者が加入者にかかりつけ医を推奨する際に役立つためだ。要件には▽認定を受けた医師の配置▽情報インフラの整備▽付加的機能を含めた実績▽地域医療連携ネットワーク─等をあげた。河本専務理事は、「詳細は今後の議論だが、医療機関が自分で言うだけでなく、客観的な機関がお墨付きを与えることが必要」と趣旨を説明した。医師個人の能力については、総合診療専門医の認定や医療団体による研修で担保する。
「医師・医療機関の可視化」については、行政による医療機能情報提供制度の充実に加え、保険者が加入者にかかりつけ医の候補となる医療機関の情報を提供する取り組みや、満足度調査を通じて成功事例を共有する取り組みを例示した。医療団体や学会には、認定医師の情報公開を促す。
「国民・患者による選択」については、国民・患者それぞれのかかりつけ医が誰なのかを他の医療関係者や保険者が把握できるよう、国民・患者による任意の登録制を提案した。可視化の仕組みとは連動させず、認定医や認定医療機関の医師に限らず対象とするが、かかりつけ医が健康・医療全般にわたる情報を一元化し、調整窓口となることを想定し、登録するかかりつけ医は1人に絞ることを念頭に置く。登録した医師を通さずに他を受診することは妨げない。
河本専務理事は任意登録制の考え方について、「国民・患者が主体であり、国民・患者のためにというのが議論の出発点で、かかりつけ医を持つことは義務ではなく、権利として整理した」とし、「登録した医師がすべての機能を担うということでなく、他の医師を紹介することはあり得るが、情報を一元的に集めて患者との窓口になるということで、1人が望ましい」と述べた。
「議論の整理」では、各保険者が自らの判断で登録したかかりつけ医と連携し、加入者教育や保健事業を工夫できるようになることも指摘した。重複・頻回の処方や検査の適正化、ハイリスク未受診者や治療中断者の早期受診、生活習慣病対策や感染症対策を充実させる取り組みを例示した。河本専務理事は、「連携や協働により、従来以上に効果的な保健事業や患者教育の実施が可能になる」と述べた。
診療報酬による合理的な評価や保健事業への協力に関する支払い、人材育成のための研修カリキュラム等については具体的には言及せず、認定や登録の詳細な制度設計とともに、今後に向けたさらなる課題として位置づけた。