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健保ニュース 2022年11月中旬号

被用者保険者間の格差是正
厚労省が前期の報酬調整を提案
佐野副会長 改革の全体像踏まえた検討を

厚生労働省は10月28日の社会保障審議会医療保険部会(田辺国昭部会長)に、次期医療保険制度改革に向けた▽高齢者医療制度への支援金のあり方▽被用者保険者間の格差是正の方策─に関する論点を提案した。現役世代の負担上昇を抑制するため高齢者負担率を見直す一方、前期高齢者の給付費に「報酬水準に応じた調整」を導入するとともに被用者保険者支援のあり方を改める。健保連の佐野雅宏副会長は、世代間・世代内の財政影響も含む改革の全体像にもとづき検討を進めていくことが重要と強調。今回改革の最大の目的である現役世代の負担軽減が達成されなければ意味がないと訴えた。

社保審医療保険部会は、前回10月13日に引き続き、政府の全世代型社会保障構築会議の検討方針を踏まえた医療保険制度改革について議論を進めた。

この日の会合では、①高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金のあり方②被用者保険者間の格差是正の方策等─をテーマに検討した。

後期高齢者医療制度の医療給付費は高齢世代が約1割、現役世代が約4割、公費が約5割を負担することとされ、高齢世代の負担割合は「後期高齢者負担率」により定めている。

「後期高齢者負担率」は、平成20年度の10%を起点に、人口が減少する現役世代1人当たりの負担の増加に配慮し、2年ごとに「現役世代人口の減少」による現役世代1人当たりの負担の増加分を、高齢者と現役世代で折半し、設定する仕組み。令和4・5年度の後期高齢者負担率は11.72%と定めている。

現役世代の減少だけに着目し、制度導入以降、現役世代における後期高齢者医療支援金の負担は制度創設時に比べ1.7倍と大きく増加し(高齢者は1.2倍)、当面その傾向が続く一方、長期的には高齢者人口も減少することから、高齢者負担率が上昇し続けてしまう構造となっている。

このため、厚生労働省は高齢者世代・現役世代それぞれの人口動態に対処できる持続可能な仕組みとするとともに、当面の現役世代の負担上昇を抑制するため、高齢者負担率のあり方の見直しについて問題提起。

高齢者世代内で能力に応じた負担を強化する観点から、賦課限度額を引き上げるとともに、現在、1対1となっている保険料の均等割と所得割の比率について、所得割の比率を引き上げる対応を提案した。

他方、健保組合の令和3年度の平均保険料率(9.2%)は平成23年度に比べ1.2ポイント上昇し、協会けんぽの平均保険料率以上の健保組合は平成23年度の105組合(全組合の7%)から307組合(同22%)に増加。

令和3年度健保組合決算見込では、平成25年度以来、8年ぶりの経常赤字(▲825億円)という財政状況となっている。

一方、協会けんぽの財政は、医療費が賃金の伸び率を上回って伸びており、報酬水準も低く、健保組合と比べ1.4倍の格差が生じている。

厚労省は、被用者保険者に関わる調整の枠組みとして、▽拠出金負担にかかる調整の仕組み▽健保組合間での共助の仕組み▽補助金による国からの支援─を説明。

「拠出金負担にかかる調整の仕組み」は、後期高齢者支援金について被用者保険者の総報酬額に応じて按分していることに対し、前期高齢者給付費と前期高齢者にかかる後期高齢者支援金について、各保険者が前期高齢者加入率に応じた納付金を負担しているとした。

「健保組合間での共助の仕組み」は、調整保険料(1.3‰)を財源に保険給付や拠出金の納付に要する費用の財源の財政負担の不均衡を調整する「健保組合の交付金交付事業」を紹介。

「補助金による国からの支援」は、前期高齢者納付金負担の割合・伸びに着目し、納付金負担が過大となる保険者に対して「高齢者医療運営円滑化等補助金(既存分120.4億円、新規分600憶円)」で支援を行っているとした。

厚労省は、現役世代の負担上昇の抑制と合わせ、健保組合の持続可能性を確保する観点から、個々の保険者のみでは解決困難な課題を中心に被用者保険でも負担能力に応じた仕組みを強化し、▽被用者保険者支援のあり方を見直す▽前期高齢者の給付費の調整に、現行の「加入者数に応じた調整」に加え、「報酬水準に応じた調整」を導入する─対応を論点として提案した。

健保連の佐野雅宏副会長は、「今回の医療保険制度改革にあたって、世代間・世代内のバランスをどうとっていくのかの議論が必要」と指摘したうえで、それぞれの財政影響も含めた改革の全体像を早急に明示し、検討を進めていくことが重要と強調。

また、「今回の医療保険制度改革の最大の目的である現役世代の負担軽減が達成されなければ意味がない」と訴えた。

そのうえで、テーマ①の論点に対し、「世代間の公平の観点から、現役世代1人当たり支援金の伸び率を少なくとも後期高齢者1人当たり保険料負担額の伸び率と同程度以下になるようにすべき」と主張。

他方、「公費が投入されていない後期高齢者の現役並み所得者の給付費は、現役世代が後期高齢者支援金を通じて負担している」と指摘し、現役並み所得者の給付費に対する公費投入の検討を強く求めた。

テーマ②の論点とされた、前期高齢者の給付費に対する「報酬水準に応じた調整」の導入については、「これまでの制度改革で、後期高齢者支援金、介護納付金の総報酬割導入にあたり、被用者保険者間の負担のバランス見直しを名目に、実質的には健保組合が国の財政責任を肩代わりさせられた」との認識を示し、「財源捻出のために被用者保険にさらなる負担を求めることは容認できない」と強調。

他方、前期高齢者納付金にかかる変動幅の抑制や後期高齢者支援金の水増し調整の見直し、国民健康保険における会計区分の明確化も求めた。

さらに、高齢者医療運営円滑化等補助金や特別負担調整(高齢者医療特別負担調整交付金)の拡充の要望に加え、義務的経費に占める拠出金負担割合が50%を超えないような上限の設定を訴えたほか、保険者の自主性や運営責任、個々の保険者機能を後退させないための配慮も必要と主張した。

テーマ②の論点に対し、村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、「高齢者医療に対する支援金・納付金の増加により、社会保険の給付と負担の対応関係が不明確になりつつある」と問題提起。

さらなる財政調整を行うことについては、各保険者および労使の理解が必要不可欠との考えを示し、保険者集団間の公平性・納得性を確保する観点から、慎重な対応を求めた。

菅原琢磨委員(法政大学経済学部教授)は、「健保組合の共助の仕組みである交付金交付事業は、機能の強化、保険基盤の安定確保の観点から見直し、必要な範囲で国による支援をきちんと考えてはどうか」と指摘。

前期高齢者の給付費に対する調整のあり方については、負担能力を適切に反映する観点から、「報酬水準に応じた調整を考慮することには一定の合理性がある」との見解を示した。

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