健保ニュース
健保ニュース 2022年11月上旬号
宮永俊一会長・基調演説
全世代型転換を強力に推進
現役世代の負担軽減を早期実現
健保連の宮永俊一会長は10月18日の令和4年度健康保険組合全国大会で基調演説した。急増する高齢者医療費を減少が加速する現役世代だけで支えていくことは「もはや不可能」と指摘し、状況打開へ「負担能力に応じ皆が支え合う全世代型社会保障制度への転換を強力に進めていく必要がある」と訴えた。健康保険法制定から100年を迎えるなか、加入者の健康と安心を支え安全・安心な医療を受けられる国民皆保険制度を堅持し、未来に引き継ぐことは健保組合・健保連の使命と主張。団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年が目前に迫るなかで、「給付は高齢者、負担は現役世代中心という、これまでの社会保障の構造を見直すことは待ったなし」と強調し、現役世代の負担軽減へさらなる改革の早期実現を求めた。改革の重要局面となる「秋の陣」に向け全国大会を通じて健保組合の団結を強化するとともに、加入者2900万人の声を国政に届け、健保組合・健保連の主張を実現する決意を示した。(宮永会長の基調演説は次のとおり)
本日は令和4年度健康保険組合全国大会にご出席、また、ウェブにてご参加いただき、感謝申し上げる。
健保組合全国大会は、全国の健保組合関係者が集まり、団結をさらに強めるとともに、私たちの声を世論に訴え、そして、国政に繋げていくための重要な大会である。
私たち、健保組合関係者の後ろには、全国2900万人の健保組合加入者の皆さんがいる。本日の全国大会を通じて、健保組合の団結を強化するとともに、この2900万人の声を国政にしっかりと届けていく。
さて、現在までのこの3年間で、わが国を取り巻く状況は大きく変わった。
新型コロナウイルス感染症が世界中の社会・経済に大きな影響を与えたことに加えて、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した安全保障環境の緊迫化や、ひっ迫するエネルギー問題など、厳しい課題が山積している。
このような状況下、私たちの社会保障を取り巻く環境はますます厳しさを増している。
今年の年間出生数は初の80万人割れとなることが確実視されており、少子化、人口減少に歯止めがかからない。
一方、いわゆる「団塊の世代」は今年度から2025年にかけて後期高齢者入りしてくるが、これに伴い、急増する高齢者医療費を、減少が加速する現役世代だけで支えていくことは、もはや不可能である。
今月からは、一定所得以上の後期高齢者の窓口負担2割化がスタートしたが、現役世代の負担を軽減するには十分な内容とは言えない。
折しも、先頃公表した健保組合の昨年度、2021年度の決算は8年ぶりの経常赤字となった。
コロナ禍で健保組合の標準報酬や保険料収入が伸び悩む一方で、高齢者医療への拠出金の増加や2020年度のコロナ禍による受診控えの戻りを含め保険給付費が急増したためである。
今年度、2022年度は、2年前の高齢者拠出金の精算戻りが発生するため、収支は一時的に改善することも見込まれる。
しかし、今年の7月以降、外来医療費が予想を大きく上回る勢いで伸びており、今後の動向を慎重に見極める必要がある。
さらに、来年度以降は75歳に到達する「団塊の世代」の増加と、総人口に占める高齢者数の割合の増加が続くことにより、拠出金負担の急増から、再び赤字に転じ、さらなる財政悪化が見込まれる状況にある。
こうした状況を打開していくためには、負担能力に応じて皆が支え合う「全世代型の社会保障制度」への転換を強力に進めていく必要がある。
今年の後半が正念場に
健保組合の主張を反映
2024年度は、6年に一度の診療報酬と介護報酬の同時改定の年であり、医療計画や医療費適正化計画、介護保険計画など、医療・介護にかかる国の計画が更新される節目の年となる。
特に、法改正が必要な項目については、今年中の成案化、来年の通常国会での審議・成立という流れが想定されることから、今年の後半が正念場となる。
政府の全世代型社会保障構築会議も9月に再開され、「子ども・子育て支援の充実」、「医療・介護制度改革」、「働き方に中立的な社会保障制度構築」という3本の柱で、議論が進められている。
12月の取りまとめに向けて審議が行われる見込みであるが、こうした検討に健保組合の主張を反映させることが極めて重要である。
健康保険法制定100年
皆保険維持・継承が使命
さて、本大会のテーマは「健康保険法制定100年、これからも健康を支え、皆保険を守る健保組合であるために」である。
今年、2022年は健康保険法制定から100年の節目の年である。この間、健保組合は労使の協調のもと、加入者の健康づくりや疾病予防対策を進め、皆保険制度を守りつつ、世界一の長寿社会の実現に貢献してきた。
人生100年時代と言われるなかで、これからの100年も加入者の健康と安心を支え、誰もが安全・安心な医療を受けられる国民皆保険制度を堅持し、未来に引き継いでいくことは私たちの使命である。
私たち、健保組合がこうした使命を今後とも担っていくためにも、全世代型社会保障改革の実現や「かかりつけ医」などの医療提供体制の改革の実現は不可欠である。
保険者の中核としての健保組合の力を発揮するとともに、国民皆保険を堅持し、そして未来に引き継いでいくという強い決意の下で、本日の全国大会では4つのスローガンを掲げている。
1点目は「現役世代の負担軽減、全世代で支え合う制度への転換」である。
「団塊の世代」がすべて後期高齢者となる2025年が目前に迫るなかで、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という、これまでの社会保障の構造を見直すことは待ったなしである。高齢者医療拠出金の急増により、現役世代の負担は限界を超えている。
今こそ、現役世代の負担を軽減し、負担能力に応じて全世代で支え合う制度に転換すべきである。10月から施行された一定所得以上の後期高齢者の自己負担2割導入は、現役世代の負担軽減の第一歩に過ぎず、早期にさらなる改革を実現しなければならない。
また、国の方で検討されている出産育児一時金の増額をはじめとする少子化対策、子ども・子育て支援の充実についても、現役世代だけに負担を負わせるのではなく、全世代で支えていくことが必要である。
2点目は「国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」の推進」である。
コロナ禍により、「かかりつけ医」への国民の期待・関心が、かつてなく高まっているなかで、国民にとって最も重要な「必要な時に必要な医療にアクセスできる」体制は、何としても堅持しなければならない。
そのためには、国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を持ち、外来医療の機能分化・連携を強化することで、安全・安心で効果的・効率的な医療提供体制を実現していく必要がある。
3点目は「オンライン資格確認などICT化の推進による医療の効率化・質の向上」である。
世界的に、社会のデジタル化が急速に進むなかで、日本の医療・介護分野においてもICTを活用したサービスの効率化や質の向上が求められている。
そのためには、まずは情報共有の基盤となるオンライン資格確認システムの原則義務化を確実に進めることが重要である。
さらに、国のご支援をいただきながら、今後、「電子処方箋」や「電子カルテ情報」の共有、「全国医療情報プラットフォーム」の創設等に関係者が一体となって取り組み、ICT化による医療の効率化・質の向上を急ぐべきである。
4点目は「健康寿命の延伸に向けた保健事業の更なる推進」である。
健康保険法制定から100年の間、健保組合は事業主との連携のもと加入者の実態に沿ったきめ細やかな保健事業を効果的に展開し、健康づくり・疾病予防等を進めてきた。
私たちはこれまで果たしてきた健保組合の価値・役割を再認識し、引き続き、特定健診・特定保健指導をはじめデータヘルスやコラボヘルスによる健康経営の推進、加入者への健康教育・広報による取り組みを実践し、国民全体の健康意識を高め、健康寿命の延伸に向けて取り組んでいく。
健保組合の主張実現へ
自民・皆保険議連と連携
人口の減少と高齢者の急増というわが国の構造的な課題はますます深刻化しつつある。国民の安心の礎である国民皆保険制度を持続可能なものにしていくためには、制度を支える現役世代の過度な負担の軽減など、全世代型社会保障に向けた改革をさらに続けていかねばならない。
国民の安心の確保に向けて皆保険制度の崩壊はなんとしても避けなければならない。持続性ある制度の構築には、公平で納得できる、すべての世代で皆保険を支える仕組みが不可欠である。
私たち、健保組合は、これまでの100年、加入者の健康と安心を支え、国民皆保険の維持・発展に貢献してきた。今こそ決意を新たに、「健康保険法制定100年、これからも健康を支え、皆保険を守る健保組合であるために」、全力で取り組んでいく必要がある。
先ほども申し上げたが、改革に向けては、今後の数か月間はまさに正念場、「秋の陣」と言える重要な局面である。
国の公的保険である健康保険において、こうした私たちの主張を前に進め、改革を実現するためには、自民党の国民皆保険議連の先生方をはじめ、私たちの主張にご理解いただける与野党の国会議員の先生方としっかりと連携させて頂くことも非常に重要である。
コロナ禍は未だ完全終息には至っておらず、私たちの対外的な活動も一部制約があるなかで、様々な工夫が求められるが、これからの「秋の陣」に向けて、知恵を出しあい、しっかりと前に進めていこうではないか。
最後に、私たちの主張実現に向けて、健保組合の関係者の皆様方から、引き続き、絶大なご支援・ご協力賜りますことをお願いして、私の基調演説とする。