健保ニュース
健保ニュース 2022年10月上旬号
加藤厚生労働相が会見
全世代型社会保障改革に対応
出産育児一時金 引き上げ水準と財源を議論
加藤勝信厚生労働相は9月22日、専門誌・紙記者と会見し、全世代型社会保障改革に向けた対応などを語った。人口構造が大きく変化するなか、医療保険制度をいかに維持していくかが財政・マンパワー的に求められていると指摘。出産育児一時金は、医療保険部会で引き上げ水準と財源のあり方を並行して議論していくとした。かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けては、機能の明確化と有効に発揮するための具体策を、国民・患者に理解いただきながら検討を進めていく考えを示した。(加藤厚労相の発言要旨は次のとおり)
─全世代型社会保障制度改革に向けた対応
2025年にいわゆる「団塊の世代」が75歳以上となり、2040年には高齢者人口がピークを迎える一方、生産年齢人口が大きく減少していく人口動態の変化のなか、社会保障制度、特に医療保険制度をいかに維持していくのかが財政的にもマンパワー的にも求められていると考えている。
既に令和3年度には後期高齢者医療における窓口負担を見直し、今年の10月1日から、所得の高い高齢者に2割負担をお願いしている。育児休業中の保険料の免除要件も見直しを実行したところだ。
また、政府の「骨太方針2022」に「出産育児一時金の増額」が盛り込まれ、岸田文雄首相も大幅に増額すると明言した。
さらに、給付と負担のバランス、あるいは現役世代の負担の上昇を抑制する方向性のなかで、後期高齢者医療制度の保険料賦課限度額の引き上げを含む保険料負担のあり方など、各種保険制度における負担能力に応じた負担のあり方の総合的な検討を進める方針が示されている。
政府の全世代型社会保障構築本部における検討も踏まえながら、医療保険制度の対応について議論を深めていく。
出産育児一時金については、首相の発言も踏まえ、今後、社会保障審議会医療保険部会で引き上げの水準と財源のあり方を並行して議論していきたいと考えている。
他方、年金制度については、平均余命の伸長による高齢期の長期化、働き方の多様化が進んだことを踏まえ、令和2年の年金制度改正法により短時間労働者への被用者保険の適用拡大を順次行ってきているが、今後、こうした適用拡大の影響も検証しながら、企業規模要件の撤廃も含めた見直しや、非適用業種に対象を拡大していくことが1つのテーマとなる。
─かかりつけ医機能が発揮される制度整備
かかりつけ医が進むなか、かつては治すことに主眼が置かれていた医療の機能について、病気を支えていく側面も出てきている。
こうしたことを踏まえ、医療提供体制のなかでも、かかりつけ医機能が大変重要であり、それを強化していく必要があるとされている。
「骨太方針2022」にも、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」ことが盛り込まれ、「新経済・財政再生計画改革工程表」にも、「かかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について検討を進める」ことがスケジュールとして示された。
かかりつけ医機能の明確化、そして、その機能を有効に発揮させるための具体的な方策についてしっかり検討していきたい。
ただ、「かかりつけ医」、「かかりつけ医機能」という言葉があるが、人によって様々なイメージがあるので、そういったことについても厚生労働省の「第8次医療計画等に関する検討会」で議論を行っているところだ。
大事なことは、国民・患者に理解いただきながら、こうした制度の整備・改革を進めていくことだと考えている。
─感染症法改正案への対応
次の感染症危機に備え、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部は9月2日、「感染症法改正法案」について、▽医療機関等の協定を法定化するなど感染症発生まん延時における保健医療提供体制の整備▽機動的なワクチン接種に関する体制の整備▽水際対策の実効性の確保─という3つの柱を掲げた。
そのなかで、流行初期に診療報酬の上乗せや補助金が充実するまでの一定期間に限り、初動対応を含む特別な協定を締結した医療機関が、経営の自立性を制限して感染症医療を提供し、感染症の発生前と比べ診療報酬の額が下回った場合、その差額を支払う仕組みとして「流行初期医療確保措置」を設ける。
要するに、医療機関が新たな感染症に対応した場合、減収分は支払いますよということ。その費用は、公費と保険者が1対1で負担する。こうした内容について、次の国会に提出し、速やかな成立を図っていく。
─第8次医療計画の策定に向けた方針
今回の新型コロナウイルス感染症への対応を1つの経験としながら、新興感染症の急激な拡大時に機動的に対応していくため、これまで進めてきた地域医療構想も含めそれぞれの地域で役割分担、連携をしっかり強化することと、平時と緊急時にモードを切り替える対応が必要になる。
そうした意味での改革のベースとして、協定を取り結ぶことを通じて確実に病床等を確保していくということを「感染症法改正法案」に盛り込んだところだ。
また、医療計画においても、そうした感染症法等の動向も踏まえながら、整合的な計画が策定できるよう厚労省としても基本方針等の検討を進めていきたいと考えている。
─医療分野のDXの推進
医療DXは待ったなしで進めていかなければならない。新型コロナウイルス感染症対応の反省点を踏まえ、さらに医療DXを進めて国民の健康の増進を図っていく、そして質が高く効率性の良い医療を提供していくことは不可避で喫緊の課題だ。
ただ、それを進めるに当たって大事なことは、国民をはじめそれぞれの方々にメリットをしっかり認識していただくことであり、まず、国民には自身の一元的な情報から健康管理・増進を図ってもらいたい。
また、医療機関にとっては、業務のデジタル化に伴う効率化や、診療情報の統合による質の高い医療の提供など様々なメリットもある。
医療DXをしっかり進めていく、そしてそのメリットを皆が共有していくことが大事だという観点から、厚労省に推進チームを立ち上げた。この後、政府としても推進本部を立ち上げる。
他方、オンライン資格確認については、来年4月から原則義務化の方針を打ち出している。現在、7割くらいの施設から申し込みをいただいているが、すべての施設から申し込みをいただけるよう、医師会、歯科医師会、薬剤師会と連携し働きかけていく。
合わせて、国民にもマイナンバーカードを取得していただき、健康保険証とつなげていただくための呼びかけをしていく必要がある。
来年の1月から運用が開始される電子処方箋については、現在、システム改修を行っている。電子処方箋を使うために電子署名という仕組みが必要であるので、その割合を高めていく。
本格稼働すると、様々なことが起きる可能性があるので、今年の10月からモデル事業をスタートするなかで円滑な導入を進めていきたい。
─令和5年度の毎年薬価改定に向けた対応
毎年薬価改定は、4大臣合意による平成28年12月の「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」で実施することが決まっているので、今年度の毎年薬価改定も実施を前提に現在、薬価調査を進めているところだ。
ただ、具体的な改定内容は、業界、医療機関、薬局、関係者の皆さんと「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」が両立できるよう、中央社会保険医療協議会で議論を進めていきたい。
「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の議論もそこに反映していく部分が出てくれば反映していくが、それだけではなく、日本で革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への上市が遅れているという指摘や、ジェネリック医薬品をはじめとした安定供給も大きな課題となっている。
こうした観点から、幅広く議論し、産業政策、薬価制度、流通などの幅広い視点から議論を深めていただきたい。