健保ニュース
健保ニュース 2022年9月上旬号
厚労省が医療機関・減収補償の仕組み
保険者も一定割合を負担
医療保険部会 全額公費負担の意見が多勢
厚生労働省は8月19日の社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭国立社会保障・人口問題研究所所長)に、新興感染症の流行初期に一般医療を制限して感染症医療に対応する医療機関の減収を補償する仕組みを提案した。病床確保に関する協定を都道府県と締結した中核病院等を対象に、感染症医療を提供した月の収入が前年同月を下回った場合、その差額の一定割合を国、都道府県、保険者が負担する内容。令和6年度からの施行をめざし、政府が今秋の臨時国会に提出予定の「感染症法改正案」への反映を視野に入れる。厚労省は9月中の決着を見据えるが、減収補償は全額公費で負担すべきとの意見が多勢を占め、財源のあり方が課題となる。
新型コロナウイルス感染症の発生を契機に、一般病院が通常医療を制限してでも病床を確保する必要性や、病床確保や発熱外来の医療体制を十分に確保できない課題が浮き彫りとなった。
このため、政府は平時に都道府県と医療機関の間で新興感染症に対応した病床を提供する協定を結ぶ仕組みを法定化し、医療機関に履行の確保を促す措置を設けるなど、国・都道府県が医療資源の確保により強い権限を持てるよう法律上の手当てを行う方向性を示している。
具体的には、都道府県が事前に医療機関との間で病床や外来医療の確保に関する協定を締結する仕組みを創設し、公立・公的病院や特定機能病院に対して、その機能を踏まえた協定を締結する義務を課すなど、地域で平時から必要な病床を確保できる体制を整備する。
合わせて、一定の医療機関にかかる感染症流行初期における事業継続確保のための減収補償の仕組みの創設など、感染症まん延時に協定に沿った履行を確保するための措置を具体的な検討事項に位置づけた。
この日の社会保障審議会医療保険部会では、厚生労働省が、医療機関の事業継続を確保するための減収補償の仕組みを提案した。
初動対応を含む特別な協定を都道府県と締結した医療機関について、協定にもとづく対応で一般医療の提供を制限し、大きな経営上のリスクのある流行初期の感染症医療を提供した場合に減少した収入を補償する。
感染症医療を提供した月の診療報酬収入が感染症流行前の同月の診療報酬収入を下回った場合、国・都道府県に加え、保険者(被用者保険、国保、後期高齢広域連合)もその差額の一定割合を負担する対応が極めて唐突に提案された。
保険者が拠出する費用について厚労省は、保険者ごとに財政が異なる状況に配慮する必要があるとの認識を示している。
健保連の佐野雅宏副会長は、
「新たな感染症発生時における医療インフラの維持は本来、全額公費で賄うべき」との考えを示したうえで、「診療行為がないにも関わらず、保険者が費用を負担する減収補償の仕組みは、健保組合やその加入者の理解を得られない」と強調した。
安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「今回の法改正は、平時に都道府県と医療機関で病床提供に関する協定を結び、危機発生時に感染症の蔓延を防止するもの」と指摘し、「このような目的で行われる感染症対策の費用は公費で負担することが原則だ」と述べた。
村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、「医療機関の減収補償を保険料から拠出する考え方は、保険者、被保険者の納得性という観点から到底、承服できない」と言及。感染症まん延時に必要な保険診療体制を維持するための費用は、基本的に公費によって賄われるべきとの見解を示した。
さらに、「診療報酬がマイナス改定となった時の補償額の考え方や、そもそも社会保険に馴染むのかという根本的な疑問もある」と主張し、「唐突で、議論の進め方としても丁寧さに欠けている提案を検討することは納得できない」と断じた。
袖井孝子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会副理事長)は、「減収補償の費用を保険者が負担する場合、負担割合や仕組みのあり方で問題が生じる」と指摘し、「一種の国難であるパンデミックに対しては全額公費負担で対応すべき」と訴えた。