健保ニュース
健保ニュース 2022年8月合併号
健保連定時総会
宮永会長 次世代に繋がる制度改革を
時期を逃さず要求活動を展開
健保連は7月22日、東京・港区のベルサール汐留で第215回定時総会を開いた。冒頭あいさつした宮永俊一会長は、減っていく現役世代で増えていく高齢者の医療費を支えていく構図は依然として残されたままであると問題提起。拠出金の急増による苦しい財政から、負担に耐えきれず解散に追い込まれる健保組合が相次げば、国民皆保険制度の根幹が大きく揺らぎかねないと危機感を露わにした。そのうえで、こうした厳しい環境であるからこそ、健保組合が保険者機能を発揮し、加入者の健康を支える保健事業をいっそう充実・強化していくことも重要と指摘。今後の3年間は政局に左右されず、政策に集中できる期間と捉え、「この間に次世代に繋がる社会保障制度改革を成し遂げられるかが将来を左右しかねない」との考えを示した。引き続き、政策をブラッシュアップし、関係諸団体との連携を深め、手を打つ時期を逃さず、政府、国会、国民世論に対して強く訴えていくと言及した。(宮永会長の発言要旨は次のとおり。)
総会の開催にあたり、一言あいさつ申し上げる。
議員各位には、大変お忙しいなか、お集まりいただき、誠にありがたく、心よりお礼申し上げる。
本日は来賓として、公務ご多忙のなか、後藤茂之厚生労働大臣にご臨席いただいており、後ほど、ごあいさつをいただくことになっている。
先日の参議院議員選挙では、健保組合を応援していただける国会議員の先生を一人でも多く増やすべく、各地区において全力で取り組んでいただき、大きな成果を上げることができた。
改めて厚く、ご尽力いただいた健保組合・都道府県連合会の皆さんにお礼申し上げる。
今回の選挙中、応援演説中の安倍晋三元首相が襲われ、お亡くなりになるという言葉にあらわせない悲劇的な大事件が発生した。
安倍元首相は在任中、全世代型社会保障を提唱され、「負担は現役世代、給付は高齢者」というこれまでの構造から、「給付も負担も全世代で」という改革の方向性を示されるなど、社会保障の領域でも大きな功績を残された。
改めて感謝を申し上げるとともに、謹んでご冥福をお祈り申し上げる。
さて、2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈しており、これに伴ってエネルギーや食料価格の高騰、サプライチェーンの寸断などが発生した。
世界的なインフレが進行し、グローバル化した世界経済に重大な影響を与えている。
一方、国内に目を転じると、円安が急速に進行しており、輸入価格の上昇による投資や消費マインドの冷え込み、景気減速が懸念されるほか、エネルギーの安定供給問題や東アジアにおける安全保障問題など、喫緊の課題が山積している。
また、足下で新型コロナ感染者数が再び拡大しているが、感染防止を徹底しながら経済活動の活性化を図るという、いわゆるウィズコロナの経済運営や社会生活が求められており、大変に難しい時代に入ってきていると認識している。
こうした状況の下、健保組合を取り巻く構造的な課題は何ら変わらず、状況は厳しさを増している。
令和4年度の健保組合の予算早期集計では、高齢者医療への拠出金が2年前のコロナ禍での受診控えによる精算戻りの影響で、一時的に減少したことから赤字幅が縮小した。
しかしながら、拠出金の減少はあくまでも一時的かつ異例のものであり、受診控えが解消するなかで、来年度以降、団塊の世代が後期高齢者に移行する2025年にかけては、さらなる増加が見込まれている。
また、本年10月からスタートする一定所得以上の後期高齢者を対象とする窓口負担2割導入も、これまでのわれわれの活動の成果ではあるが、残念ながら保険者の拠出金の負担感がやわらぐ規模には及ばない状況にある。
何より、減っていく現役世代で、増えていく高齢者の医療費を支えていくという構造は、依然として残されたままであり、このままでは拠出金負担の急増による苦しい財政から解散の選択を迫られる健保組合がさらに増えていくのではないか、多くの仲間が将来展望を描けなくなるのではないか、と大変危惧している。
負担に耐えきれずに解散に追い込まれる健保組合が相次げば、われわれが中核として支える国民皆保険制度の根幹が大きく揺らぐことにもなりかねない。
そうした強い危機感の下で、健保連では、昨年の秋にまとめた提言をベースに次なる制度改革を実現すべく、「骨太の方針2022」に向けて、年初から関係省庁や与党の議連に対して働きかけを行ってきた。
6月に閣議決定された「骨太の方針2022」では、岸田文雄首相の掲げる「新しい資本主義」を中心とした令和時代の新たなコンセプトが打ち出された。
社会保障制度については、全世代型社会保障制度の構築に向けて、「負担能力に応じた負担のあり方の検討」、「かかりつけ医の推進」、「リフィル処方箋の普及・定着」など、私たちがこれまで主張してきた項目も多く盛り込まれている。
昨年の提言のなかで、「負担能力に応じた負担のあり方」については、後期高齢者の保険料負担割合の見直しや介護保険制度の負担の見直しなどを主張している。
参議院選挙を終え、これから本格化する今後の国の検討の場において、その実現を強く訴えていきたいと考えている。
次に、「かかりつけ医の推進」についても、私たちは国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」の推進とかかりつけ医制度の構築を訴えてきた。
コロナ禍で、「必要な時に必要な医療にアクセスできる体制」が揺らぐ事態が発生したことは、皆さん、記憶に新しいところだ。
国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を持ち、外来医療の機能分化・連携を推進することで、安全・安心で効率的・効果的な医療を実現していかねばならない。
国における検討スケジュールを睨みながら、健保連としても、政策委員会の下に「かかりつけ医の推進」に関する検討小委員会を設置して、7月から9月にかけて集中的に検討を行うこととしている。
また、「リフィル処方箋の普及・定着」、さらに、「オンライン資格確認の拡大」といった改革・施策の推進も欠かせない。
審議会や政治の場での主張・要求に加えて、健保組合の加入者を巻き込んだ普及促進活動を行うなど、いわば草の根からも推進していくことが必要となる。
一方で、今回の「骨太の方針」は、私たちの厳しい現状を変えるには、まだまだ不十分な内容であることも事実だ。
2年後の令和6年度は、6年に一度の診療報酬と介護報酬の同時改定の年である。
また、医療計画や医療費適正化計画、介護保険計画さらには特定健診・保健指導計画やデータヘルス計画など、医療・介護にかかる多くの国の計画が更新のタイミングとなることから、当面の制度改革は6年度をターゲットに検討されることとなる。
このうち、法改正が必要な項目については、今年中に成案化し、来年の通常国会での審議・成立という流れになることから、6年度スタートと言っても、実質的な検討期間は年末までの半年間だ。
この間に、「骨太の方針」に具体的な記載のない項目も含めて、全世代型社会保障構築会議、関係審議会や検討会で制度改革に向けた議論・検討が行われることになると想定している。
健保連としても、新たに設置した「かかりつけ医」検討小委員会も含めて関係委員会で検討を進め、主張・要求していきたいと考えている。
こうした制度改革に向けての主張・要求に加えて、5年度政府予算における、健保組合に対する財政支援措置の拡充・強化も要請していく。
また、秋の臨時国会では今年度の第2次補正予算が検討される可能性もあり、補正での予算獲得も視野に入れた臨機応変の対応も必要だ。
そして、何よりも、こうした厳しい環境であるからこそ、私たち自身が保険者機能を発揮し、組合加入者の方の健康を支える保健事業をより一層、充実・強化していくことも大変、重要になってくる。
さて、先日の参議院議員選挙で自民党は大勝し、岸田内閣の政権基盤は強化された。
わが国を取り巻く環境は厳しいものがあるが、今後の3年間は政局に左右されず、政策に集中できる期間であると言える。この間に次世代に繋がる社会保障制度改革を成し遂げられるかが、わが国の将来を左右しかねないと考えている。
私たちも引き続き、政策をさらにブラッシュアップし、また、関係諸団体との連携を深め、手を打つ時期を逃さず、政府、国会、そして国民世論に対して強く訴えていかねばならない。
同時に各健保組合におかれても事業主、労働組合、加入者の理解をさらに深めていただきたい。
現在の社会は、「Unity」、「結束」がキーワードと言われている。私たち健保組合も一丸となって結束し、持てる力を発揮していかねばならない。私自身も先頭に立ち、改革実現に向けて邁進していきたい。
本日、参集の皆さんの絶大なる協力をお願い申し上げて、私の冒頭のあいさつとする。