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健保ニュース 2022年7月下旬号

OTC医薬品協会シンポジウム
セルフメディケーション推進へ
OTC医薬品の価値を確認

日本OTC医薬品協会(上原明会長)は8日に東京都中央区で、「医療におけるOTC医薬品の価値」と題したシンポジウムを開催した。協会が定めた毎年7月24日の「セルフメディケーションの日」にあわせて平成30年度から開いている。

シンポジウムでは、五十嵐中氏(横浜市立大学医学群健康社会医学ユニット准教授)が「続OTC医薬品の潜在的価値」と題して、令和2年度以来となる基調講演を行った。

続いて、吉井弘和氏(厚生労働省保険局保険課課長補佐)と池本多賀正氏(ホワイトヘルスケア代表取締役社長)がそれぞれ「保険者によるセルフメディケーションの推進」、「医療費適正化に繋がる健保のセルフメディケーション推進事業」について講演した。(当日の基調講演、講演要旨は次のとおり。)

五十嵐横浜市立大准教授・基調講演
OTC置き換え可能額を推計

医療用医薬品からOTC医薬品への置き換えにかかる推計を令和2年度の前回講演で紹介した。その推計ではOTC医薬品が使用可能な「既存領域」と将来導入が見込まれる「新規領域」ごとに、現状の保険診療医療費のうちOTC医薬品で置き換え可能な医薬品を置き換えた場合の効果額を示した。この結果、既存領域では2330億円、新規領域では880億円、合計3210億円が置き換え可能額となると推計した。

今回の推計は、OTC医薬品の潜在的な価値を検証し、そのあり方やどう実装していくのかを含めて議論ができるよう可視化を図ることを目指し、前回とは異なる観点から実施した。

OTC医薬品と比較対象の医療費は薬剤費のみに絞り、疾患は限定せず領域を広げた。そのうえで、OTC医薬品シェアの算出方法に着目。分母となる医療用医薬品総売上高について、①医療用全体②薬効分類内にOTC医薬品あり③OTC医薬品に同一成分あり④OTC医薬品に同一成分ありかつ効能も一致─の4つのケースに分けて推計した。それぞれについてOTC医薬品のシェアを算出すると、分子のOTC医薬品合計7335億円に対し、分母として7335億円に加算する額が、①10兆1631億円(OTC医薬品シェア6.7%)②5兆9932億円(同10.9%)③6513億円(同53.0%)④3278億円(同69.1%)となった。

また、薬効分類ごとにOTC医薬品の国内出荷額が多い医薬品の出荷額を、▽OTC医薬品▽OTC医薬品に共通成分・効能がある医薬品▽OTC医薬品に共通成分がある医薬品▽OTC医薬品がない医薬品─の4区分で集計し、どの程度OTC医薬品が含まれるのか、また、置き換え得るのかを検討できるよう可視化した。

「OTC医薬品」を除く3区分のうちどの部分までの置き換えを目指すのかは、インパクトを考慮しつつ施策を検討していかなければならない。現状でも置き換え可能な「OTC医薬品に共通成分・効能がある医薬品」を置き換える場合、3278億円が置き換え可能額の上限となるが、「OTC医薬品に共通成分がある医薬品(共通効能なし)」が、仮に一定の制限下で置き換え可能とされた場合には6513億円となる可能性もある。こうした見地も踏まえ、現在OTC医薬品が存在しない薬剤にまで置き換え基準を拡大した場合の増加額をさらに推計した。


OTC医薬品ない薬剤
置き換えで2.7兆円削減

その際の基準は、「海外でのOTC医薬品販売の実績」、「旧スイッチスキーム(日本薬学会2008─2011)によるスイッチOTCの候補選定」、「新スイッチスキームで要望された成分」などが候補となる。これらを満たす薬効分類を定義し、成分追加による増加額を推計したところ、「医療用のうちOTC医薬品と共通成分(薬効単位での共通ではなく、実際にOTC医薬品がその成分を含有しているケース)」においては、海外や新スキーム並みに基準を拡大した場合、6500億円が約4倍の2兆6900億円となる可能性がある。特に、血圧降下剤、眼科用剤などについては、基準を広げていくと大幅な増加が見込まれる結果となった。

本来の皆保険のあり方は「皆が安価で必要な医療にアクセスできる」ことにある。今のように、ほぼすべての薬を保険適用とすることは例外である。これまではこうした議論がなされてこなかったが、コロナ禍で医療保険制度の将来について調査したところ、「負担を上げる」という回答だけではなく、「今のシステムを維持するために一部給付を外す」という回答も多く得られた。世代を問わず一定の必要性を感じており、医療保険にメリハリをつけるべきとする議論もある。

今後は、推計で得られたOTC医薬品の潜在的な可能性を顕在化させる取り組みが求められる。保険者によるレセプトデータやECデータを活用したセルフメディケーションの推進などは好事例となる。有益な研究成果を可視化し、国の施策や各種プロジェクトと連携しながらOTC医薬品の普及促進に向けてこれからも取り組んでいく。

吉井厚労省保険課課長補佐・講演
セルメディ推進へ取組を説明

はじめに、保険者におけるセルフメディケーション推進の経緯を説明すると、令和2年12月の医療保険部会における議論の整理では、「医療資源の効率的な活用を図る観点から、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師と連携しつつ、保険者の立場からも上手な医療のかかり方とセルフメディケーションの推進策を講じるべきである」とした。これを踏まえて翌月の同部会では、具体的な取り組み案として、周知広報、個別通知、インセンティブ付与の3項目を示した。

3年12月に閣議決定した「新経済・財政再生計画改革工程表2021」では、「医療資源の効率的な活用を図る観点から、薬剤給付の適正化に向けて、保険者の上手な医療のかかり方およびセルフメディケーションを推進するとともにその他の措置についても検討」と明記され、そのほかにも直近の骨太の方針でセルフメディケーションに取り組むこととしている。


政府方針踏まえ
3点の取組を実施

次に、具体的な取り組み内容だが、厚労省の保険局保険課では、3点に取り組んでいる。
 1点目は、保険者に対するインセンティブを制度別に用意している。健保組合と共済組合には、後期高齢者支援金の加算(ペナルティー)、減算(インセンティブ)を実施。インセンティブは、法定義務がある事業に加え任意で行っている保健事業も総合評価している。特定健診・保健指導の第3期後半にあたる3~5年度の制度に関して中間見直しを2年度に実施し、適正服薬の取り組みを評価に加えた。

2点目は、民間主導で厚労省も支援している日本健康会議の取り組みだ。2025年に向けた新しい実行宣言では「加入者や企業への予防・健康づくりや健康保険の大切さについて学ぶ場の提供および上手な医療のかかり方を広める活動に取り組む保険者を2000保険者以上とする」とされている。保険者数は現在、協会けんぽ、市町村などを含め全部で4000程度にのぼる。2000となるとその半数の達成が必要となる。その達成要件に設定されている具体的な取り組みでは「健康医療相談・セルフケアの推進等を通じて、医療の適正利用を図ること」が求められている。

3点目は、成果連動型民間委託契約方式(PFS)による保健事業の推進だ。PFSは自治体や保険者などの公法人が民間企業に対して成果指標を設定したうえでその達成度合いで報酬を支払うもので、政府全体で推進している。

医療保険制度の仕組みは取り組みの効果を見える化して、関係者のなかで合意を図りながら取り組みを進めることができる仕組みで、PFSになじみやすい。そうしたことを踏まえてPFS事業に対する補助金を交付している。

PFSを採択した理由は、通常では、発注者と受注者という関係になってしまう。これを対等なパートナーとして位置づけるなかで、場合によっては事業者から保険者に対して要望したり、リスクとリターンを共有することでお互いのフォーカスのずれを無くすといったことが期待される。

池本ホワイトヘルスケア社長・講演
セルメディ推進 気づき、リテラシー基点に

当社は、保険者と薬局薬剤師の連携により、患者の医療参加と医療財政の適正化を目的に設立された。本日は保険者支援の事例を紹介する。

背景として、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、一部の診療科では患者数がコロナ禍前に戻っていない。患者は自己裁量がコロナ禍で拡大した結果、様々な面で自己判断をせざるを得ず、セルフメディケーション、セルフケアにおいて、「気づき」・「認知」と「リテラシーの向上」が重要な意味を持った。


効果的方法でセルメディ推進
医療費適正化効果も

保険者からは財政悪化を受けてソリューションの結果として財政改善ができないかとの依頼を受ける。いくつかの診療、医薬品によってはセルフメディケーションで置き換えることが可能で、それにより財政的な効果が見込めるとの理解が保険者で進んできている。

当社の取り組み事例では、保険者の取り組みにおいて、データを使ったリテラシー向上、医療専門家との協力、医療費削減額の定量化の3つのポイントがある。

1つ目のデータを使ったリテラシー向上は、加入者自身がこれまでどのような医療を受け、どのような薬を処方されてきたのかをジェネリックの差額通知にならって示す取り組みを行った。これはリテラシーの観点では、「わたしのことだったんだ」と捉えることでOTC医薬品を使ってみる「気づき」につながっている。もう一方のデータの利活用の観点では、自身が使用してきた医療用医薬品の名前や成分をもとに、置き換え可能なOTC医薬品の候補を検索する機能をECサイトに実装している。これはレセプトとOTC医薬品および医療用医薬品の成分のデータ整備に裏付けられており、結果的には医療安全にもつながる重要な仕組みと考えている。

2つ目の医師、薬剤師といった医療の専門家の協力は、それにより患者が薬を手に取るというものだ。ここで重要なことは、リテラシーは患者が医師や薬剤師と同じ知識を持つということではなく、誰に、どう相談すればいいのかという知見、環境を手に入れていることだと考えている。

3つ目の医療費削減額の定量化は、支援した健保組合の事例では、どの患者に通知すべきか、専門家の監修下で抽出した。対象者約3000人に介入したところ、約15%程度に受診減少・処方減少といった行動変容がみられ、結果として約4.6百万円の財政効果を得た。これが協会けんぽ、市町村国保などに広がれば、数百億円規模に拡大する。


職域連携、レセプト蓄積が
セルメディの推進土壌に

健保組合においては職域での福利厚生制度として常備薬あっせんカタログのような薬を手に取りやすい事業が見逃せない。そういった土壌があってセルフメディケーションが進み、今後も推進が期待される。

患者が安心できる支えは、自分のレセプトではないか。自分のこととしての気づきがデータに裏付けられていることは重要だ。さらに、OTC医薬品の需要拡大もレセプトデータがカギになる。保険者によるレセプトデータの蓄積は、セルフメディケーションを推進する土壌になる。

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