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健保ニュース 2022年4月上旬号

幸野理事が診療報酬改定を総括
リフィル処方箋の導入が目玉
かかりつけ医機能の評価 ゼロベースの見直し必要

中央社会保険医療協議会の支払側委員を昨年10月まで6年間務めた健保連の幸野庄司理事は、本誌のインタビューで、平成28年度から令和4年度にわたる4回の診療報酬改定を総括した。4年度改定については、本体改定率が例年より小幅な水準となったことを評価したうえで、「リフィル処方箋」の導入を目玉に位置づけた。患者の医療への関わり方を考える大きな一歩と捉え、上手な医療のかかり方や服薬アドヒアランスの向上、薬局の上手な活用のために、普及に期待した。他方、「かかりつけ医機能」の評価は、患者の視点が不可欠と強調し、ゼロベースの見直しが必要との認識を示した。

平成27年10月に中医協の支払側委員に就任し、3期6年の任期を昨年10月に迎え退任した。総じて4回の診療報酬改定を経験した。

在任中は、2年に1度の診療報酬改定以外にも、30年4月の薬価制度抜本改革や31年4月の費用対効果評価制度の本格導入、令和元年10月の消費税の引上げ対応、昨年来の新型コロナウイルス感染拡大による診療報酬の特例対応など、本当に密度の濃い6年間だった。

30年間のサラリーマン人生で、医療の現場に携わったこともなく、大きな病気をしたこともない私に中医協の支払側委員が務まるのか本当に不安な日々だったが、診療報酬にかかる様々な課題に対し、自分の中で「考え方の基軸」をしっかり持つことを決意した。

「考え方の基軸」は何かということだが、やはり「患者の視点で質の高い医療が提供されているか」ということだ。「質の高い医療」とは、まず安全であるということで、安全はすべてに優先される要素でなければならない。

次に、「患者の状態に対応した適正な医療が提供されているか」という点だ。この点については、医療の効率性やアウトカムに対する対価(報酬)が重要な要素になると考える。

医療の現場が解っていない私でも、この「考え方の基軸」をしっかり持って、厚生労働省から提供されるエビデンスをしっかり分析し、自分なりの考え方をまとめ患者の立場から率直に意見を述べた。

私が中医協の支払側委員を務めた平成28年度、30年度、令和2年度、4年度にわたる4回の診療報酬改定のなかで、どれだけの結果を成し得たのか総括する。

4年度の本体改定率
例年より小幅と評価

私が在任中の診療報酬本体改定率は、平成28年度0.49%、平成30年度0.55%、令和2年度0.55%とすべてプラスで推移してきた。

昨年12月22日、4年度政府予算の財務・厚生労働大臣合意を踏まえ、4年度の診療報酬改定率は本体0.43%、薬価等▲1.37%と決定された。

支払側は、「4年度は診療報酬を引き上げる環境になく、国民の負担軽減につなげるべきである。薬価等の市場実勢価格の低下に伴う公定価格の引き下げ分は、長期的に上昇し続ける負担の抑制のために還元されなければ、国民の理解は得られない」と主張したが、薬価等の引き下げ分が国民に還元されなかったことは非常に残念だ。

ただ、4年度政府予算の財務・厚労大臣合意は、従来になく診療報酬改定の方向性も盛り込んだ。既に政府方針で決定されている不妊治療の保険適用(0.2%)、看護師等の処遇改善のための特例的な対応(0.2%)はもとより、「リフィル処方箋」の導入・活用促進が盛り込まれた。

病状が安定している患者に対し、医師の処方により医療機関に行かずとも、医師および薬剤師の適切な連携の下、一定期間内に処方箋を反復利用できる分割調剤とは異なる実効的な方策の導入による再診の効率化で「▲0.1%」と、配分についても明記された。

また、昨年、新型コロナで臨時的・特例的に措置された小児の感染防止対策にかかる加算措置(医科分)の期限到来で▲0.1%の財源を捻出し、これらを除く実質的な本体改定率は「0.23%(医科0.26%、歯科0.29%、調剤0.08%)」と、例年より小幅な水準となった。

さらに、具体的な改革項目として、▽提供されている医療機能や患者像の実態に即した、看護配置7対1の入院基本料を含む入院医療の評価の適正化▽DPC制度の算定方法見直し等のさらなる包括払いの推進▽医師の働き方改革にかかる診療報酬上の措置について実効的な仕組みとなるよう見直し▽かかりつけ医機能にかかる診療報酬上の措置の実態に即した適切な見直し▽費用対効果を踏まえた後発医薬品の調剤体制にかかる評価の見直し▽薬局の収益状況、経営の効率性等も踏まえた多店舗を有する薬局等の評価の適正化▽OTC類似医薬品等の既収載医薬品の保険給付範囲の見直しなど、薬剤給付の適正化の観点からの湿布薬の処方の適正化─が盛り込まれた。

これらの改革項目については、私が任期期間中の6年間にわたり強く主張してきた内容である。

コロナ禍を通じて、医療提供体制の硬直性や脆弱性、医療資源の散在などの諸問題が顕在化し、入院医療は急性期病床の集約・強化と第8次医療計画(6年度~11年度)を見据えた地域医療構想の推進、外来医療は国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」の推進と「かかりつけ医制度」の構築を主張してきた。

また、医療の重点化・効率化に向けて、薬剤費の伸びを抑制するための市販品類似薬の保険給付範囲見直しやフォーミュラリの普及、処方箋の反復利用の早期導入を訴え続けてきたが、今般の政府方針でこれを後押しすべく同様の方向性が示された。

入院医療の分化推進へ
回復期の見直しを評価

医療機能の分化・強化・連携は、わが国の医療提供体制の最も大きな課題であり、そのなかでも最も時間が割かれるのが「入院医療の分化・強化・連携」だ。

入院医療の評価の基本的な考え方としては、個々の患者の状態に応じ、適切に医療資源が投入され、より効果的・効率的に質の高い医療が提供されることが望ましい。

平成18年度改定で新設された「7対1一般病棟入院基本料」の届け出病床数は当時4.5万床だったが、26年度の約38万床をピークに8倍超まで増加し、その後、微減傾向にあるものの医療費の約4割を占める入院医療費を押し上げる要因となっていることは間違いない。

私は、「患者が自らの病態に応じた適切な病床に配置されているか」に拘り、当該指標である「重症度、医療・看護必要度(病棟における重症患者の該当割合)」の基準値について引き上げを強く主張した。

基準値は、28年度改定で「15%」が「25%」に引き上げられた。これについては、支払側と診療側の意見は最後まで対立し、公益裁定となった。

30年度改定では急性期入院基本料の統合・再編が行われるとともに、「旧7対1一般病棟入院基本料」の「重症度、医療・看護必要度」の基準値は「30%」に、令和2年度改定では「31%」にそれぞれ引き上げられた。

しかしながら、通常であれば2年度改定の経過措置は半年後の2年9月までであるが、コロナの影響で全医療機関について3年9月まで延長され、重点・協力・コロナ割り当て病床医療機関は4年3月末まで延長されることとなり、改定による影響は結果として殆どなかったと思われる。

他方、4年度改定では、今般のコロナ禍の教訓として、急性期病院のなかでも真に急性期患者を受け入れている実績を有する病棟はより高く評価する、「急性期充実体制加算」が新設された。「急性期一般入院料1」を算定する病棟へさらに加算が上乗せされることとなった。

逆に、4年度改定ではA項目の「心電図モニターの管理」が急性期の「重症度、医療・看護必要度」の評価項目として妥当であるかも議論となった。

診療側はこれをA項目から削除することに大きな抵抗を示したが、公益裁定の結果、「心電図モニターの管理」は削除される反面、「重症度、医療・看護必要度」の基準値の引き上げは行われなかった。

過去3度の改定でほぼ2倍の基準値へと引き上げられたが、「旧7対1一般病床」を中心とした急性期病床の転換が推進されているかというと国の目指す方向とは未だ程遠い現実がある。

手術や救急医療等の高度かつ専門的な急性期病棟以外にも「地域包括ケア病棟」の地域における役割、すなわち、▽ポストアキュート▽サブアキュート▽在宅復帰─の機能が果たされるよう「地域包括ケア病棟入院料」の点数設計が見直されたことは評価できる。

また、今後、需要の増加が見込まれる「回復期リハビリテーション病棟入院料」は「入院料5」を廃止し、現行の「入院料6」を新たに「入院料5」に位置付けた。

「回復期リハ」の入門編の2つを統合し、実績を積んで上位の入院料に上がるよう期限も設定された。アウトカムが求められる「回復期リハ」の機能充実のための見直しも評価に値する。

「療養病棟入院基本料」は、「経過措置」がさらに延長されたことは残念だ。次回改定では、患者像に見合った評価や「経過措置」を受けている病棟の整理のあり方も課題となってくるだろう。

かかりつけ医の評価
患者の視点が不可欠

医療費の約3割を占める外来医療の機能分化に向けて、最も重要な要素は「かかりつけ医機能の強化」に尽きる。

私の任期中にも「かかりつけ医機能の強化」のため、様々な診療報酬上の対応を行ったが、「かかりつけ医」の普及には貢献できていないのが現状だ。

平成26年度改定で「地域包括診療料・加算」、28年度改定で「小児かかりつけ診療料」、30年度改定で「機能強化加算」が相次いで新設されたが、いずれも「かかりつけ医機能」を発揮できているとは言い難い。

どこに原因があるのか、私見としては、「患者のニーズと診療報酬上の対応にミスマッチがあるのではないか」と考えている。

現行の診療報酬は、「かかりつけ医機能」を有する医療機関の体制(ストラクチャー)を評価したものもあるが、「かかりつけ医」は「患者が自ら選択」するものであり、現行の診療報酬には「患者の視点」が欠けている。

「かかりつけ医機能」は、日本医師会、4病院団体協議会が定義しているように、年齢や疾患に拘わらず患者を全人的に診察する存在であることが必要で、医療に対する患者のニーズを満たすことが求められる。

これまでに新設された「かかりつけ医機能」を評価した診療報酬体系を一度ゼロベースで見直し、世代に拘わらず患者に「かかりつけ医」として選択される機能とアウトカムを要件とする包括報酬を設定し、患者が自ら選択する制度が必要だ。

一昨年末、政府の「全世代型社会保障検討会議」が取りまとめた大病院の受診時定額負担の拡大も外来医療の機能分化を目的としたものであるが、これも「かかりつけ医」を持つことが大前提となる。

真に必要なのは国民が「かかりつけ医」を持つインセンティブを診療報酬でどう見出していくか、また、「かかりつけ医機能」を国民にどう「見える化」するかも重要だ。

各都道府県が作成する医療機能情報提供制度で自分の身近な地域の「かかりつけ医機能」を持った医療機関を即座に検索できるような工夫も必要と考える。

健保連では、昨年9月、現状の「かかりつけ医機能」の診療報酬の評価について分析を行い、「かかりつけ医機能」の評価を再構築する政策提言を取りまとめた。今回の改定で支払側が最も問題視していた「機能強化加算」に、届け出に応じた実績要件が義務化されたことは一つの前進と捉えている。

外来医療の改定ではオンライン診療のあり方が大きな焦点となった。支払側はオンライン診療を適切に普及させるため、「対面診療と同内容・水準で実施されるのであれば適切な診療報酬の設定が必要」と主張した。

これに対し診療側は、オンライン診療はあくまで対面診療の補完であることを原則とし、「一定の制限をかけ、点数水準も時限的・特例的対応として設定された初診料の水準(214点)を基本とすべき」と双方の主張に大きな隔たりが埋まらず、公益裁定となった。

結果、情報通信機器を用いた場合の「初診料」の診療報酬は、対面診療と時限的・特例的対応の中間的な点数(251点)で決着し、1度の改定で入院と外来の2つの公益裁定が行われた。

薬局等の機能に応じた
調剤報酬へ抜本見直し

調剤報酬は、私の持論である「薬局・薬剤師の本来のあるべき姿に回帰すべき」との主張を強く訴えてきた。

40年にわたる医薬分業が薬局・薬剤師の本来機能を失わせ、患者の受療行動まで変えてしまった。平成28年度改定以降、「対物業務」から「対人業務」への転換に向けて様々な改定が行われてきたが、ほとんどの薬局が「対人業務」に対応しきれていない現状となっている。

それは何故か、結論をいうと「対物業務」のみで経営が成り立つ報酬制度だからだ。調剤基本料、調剤料、薬剤服用歴管理指導料そして薬価差でほぼ経営が成り立つ現行の制度を大きく見直さないと、薬局・薬剤師の機能は変わらない。

ジェネリック医薬品の使用促進や高齢者のポリファーマシー、残薬が社会的な課題となっている今、医師の処方箋どおりに調剤を行うだけでなく、異なった医療機関での重複投薬や相互作用があった場合に疑義照会を積極的に行うなど、医師と同等に向き合って欲しいと主張し続けてきた。

令和7年には間違いなく「地域包括ケアシステム」は進展し、街の姿は変わっていく。その時に薬局がどういう役割を担っているかが重要となる。今のキーワードは「かかりつけ」であるが、今後はこれに「地域貢献」が加わる。

これを実現していくなかで薬局・薬剤師が担うべき役割は多い。高齢化に伴い、さらに在宅医療が進展していくにつれて、重症度の高い患者も在宅医療に移行してくるだろう。

薬局には専門機関と連携し、抗がん剤や抗HIV薬等を扱える高度な薬学管理ができる薬剤師が必要となる。医療機関、介護施設、地域のコミュニティと連携することで地域の健康情報拠点となり、「地域包括ケアシステム」の一翼を担っていただきたい。

薬局はコンビニ数をも上回り、地域に必ず存在しているが、調剤に偏重した現在のモデルから速やかに脱却することで、患者と向き合い、地域住民と顔が見える関係を構築することが必要となってくる。その時のために、今から地域に溶け込む薬局に変わっていくことが必要だ。

クリニックの隣で調剤に偏重する薬局は自然と淘汰されるだろう。2年に改正された医薬品医療機器等法(薬機法)は薬局を機能で分類する方向を既に打ち出している。今後、調剤報酬もこれに対応していくことになるのは間違いない。

私の持論であるが、基本的な報酬(調剤基本料等)は統一し、対人業務や地域貢献等の付加価値で差を付ける調剤報酬に抜本的に見直すべきだと考える。

2年度改定でオンライン服薬指導は既に導入されており、5年1月には電子処方箋の導入も予定されている。極端に言えば薬局に行かなくても薬が調剤される時代になる。今後、薬局・薬剤師のあり方は大きく変わっていくことは間違いない。

今回の改定で、▽ビジネスモデルの異なる大型チェーン薬局の評価がさらに適正化▽対物業務の象徴である内服薬の調剤料が処方日数に関わりなく一本化▽地域に貢献する薬局が高く評価─されたことは評価するが、本来の薬局業務を取り戻すには途に就いたばかりだと考える。

リフィル処方箋の導入
安全かつ適正な普及を

令和4年度診療報酬改定で「リフィル処方箋」が導入されることとなった。
 10年以上にわたり議論、実現に至らなかったところ、昨年末の4年度政府予算編成の重要事項に対する財務・厚労大臣の折衝で、「病状が安定している患者について、医師の処方により、医療機関に行かずとも、医師及び薬剤師の適切な連携の下、一定期間に処方箋を反復利用できる分割調剤とは異なる実効的な方策を導入することにより、再診の効率化につなげ、その効果について検証を行う」ことが明記された。

患者の医療への関わり方を考える大きな一歩と捉えている。
 諸外国では当たり前のように行われているにもかかわらず、何故、日本で導入されないのか、私も中医協の支払側委員を務めていた6年間、主張し続けてきた内容であり、「やっと実現したか」というのが率直な思いである。

政府方針に明記されているとおり、まずは、「病状が安定している患者」が前提となり、「医師および薬剤師の適切な連携」が最も重要な要素となる。

今まで医師が一手に行っていた患者の病状管理を一定期間、医師と連携して薬剤師が担うこととなるので、薬剤師も今まで以上に大きな責任を負う。患者の病状と向き合い、場合によっては受診勧奨を行う等、患者との距離を近づけることが必要となる。

薬局、薬剤師にとってもこの制度は重要な転換期になるのではないか。いや、これを転換期とすべきである。

患者自身の意識も変える必要がある。今まで漫然と処方期間毎に受診して安心していたが、今後は症状に応じて受診間隔も判断できる。そのためには、身近な「かかりつけ薬局・薬剤師」を持っておくことが必要となる。

これを機に上手な医療のかかり方や服薬アドヒアランスの向上、薬局の上手な活用のために、「リフィル処方箋」が普及することに期待したい。

また、医師の働き方改革が推し進められているが、「リフィル処方箋」の導入と普及は多忙な医師(特に病院勤務医)のタスクシェアを推進し、働き方改革の一助となるだろう。

さらに、政府方針には、「分割調剤とは異なる実効的な方策を導入」とあるが、正に全く普及しなかった煩雑な分割調剤と異なり、多くの国民に安全かつ適正に普及していくことを期待したい。

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