健保ニュース
健保ニュース 2022年3月上旬号
4年度改定の「リフィル処方箋」導入
健保組合 レセプト分析が改革を体現
機能強化加算の見直し契機にも
令和4年度の診療報酬改定では、症状が安定している患者について、医師と薬剤師の適切な連携のもと一定期間内に処方箋を反復利用できる「リフィル処方箋」の仕組みが導入された。健保連が診療報酬改定を視野に入れ、「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究」にもとづき提言してきたテーマの1つであり、保険者機能の発揮による健保組合のレセプト分析が制度改革を体現した格好となった。他方では、「機能強化加算」の要件厳格化や、「湿布薬の処方」にかかる上限枚数の適正化などの見直しが行われる契機にもなった。
健保連は、医療資源の効率的・効果的な配分などをめざし、平成24年度から令和3年度にかけて、「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究」(Ⅰ~Ⅴ)を行い、エビデンスにもとづく政策提言を行ってきた。一部の健保組合の協力を得て、DPC・医科・歯科・調剤レセプトを収集し、分析に活用。診療報酬改定への反映を視野に入れ、保険給付適正化等の観点からテーマを選定した。
このうち、「調査研究Ⅳ(元年8月公表)」では、「繰り返し利用可能な処方箋(リフィル処方)の導入」をテーマとして選定し、「40歳以上で通算180日以上にわたり処方内容の変更がない処方が全患者の処方延べ日数の5割程度を占め、そのうち生活習慣病患者が主だった」などの現状を考察。
そのうえで、「病状が安定し、繰り返し同じ処方を医師から受けることが見込まれる患者について、かかりつけ薬剤師に限定したリフィル処方を診療報酬制度の中に導入し、リフィル処方の普及に向けた取り組みを促進すべき」と提言した。
「調査研究Ⅴ(3年9月公表)」は、▽180日間以上同じ処方内容の患者は各年齢階級とも増加傾向にある▽長期間にわたり処方内容が変わらず毎月受診している患者はリフィル処方に移行しやすい可能性がある─と考察。
安心で効率的な治療の継続を実現する観点から、「慢性疾患等の長期にわたる薬物治療が必要で、病状が安定した患者を対象にリフィル処方を早期に導入し、かかりつけ医とかかりつけ薬剤師の連携の下で実施すべき」と提言した。
財務省の財政制度等審議会が3年5月21日に取りまとめた「財政健全化に向けた建議」は、「患者の通院負担の軽減や利便性向上の観点から、病状が安定している患者等について、一定期間内の処方箋を繰り返し利用することができる制度(リフィル制度)の導入を4年度から図るべき」と明記。
さらに、3年12月3日の「令和4年度予算の編成等に関する建議」は、リフィル処方について、「患者の通院負担の軽減や利便性の向上から、コロナ禍でそのニーズも増しているなか、時期を逸することなく導入すべき」という文言を盛り込んだ。
その後、3年12月22日の鈴木俊一財務相と後藤茂之厚生労働相の4年度政府予算編成の重要事項に対する折衝で、「リフィル処方箋」の導入を合意。
症状が安定している患者について、医師と薬剤師の適切な連携のもと、一定期間内に処方箋を反復利用できる、分割調剤とは異なる実効的な方策を導入することにより、再診の効率化につなげ、その効果の検証を行うこととされた。
体制加算に実績要件追加
評価の再構築へ一歩前進
「調査研究Ⅳ」では、かかりつけ医機能を強化する観点から平成30年度診療報酬改定で新設された「機能強化加算」のあり方もテーマとして選定し、▽算定患者の約6割は再診がなかった▽急性気管支炎が全体の20%と最も多く、継続的な管理が必要な高血圧症、糖尿病、脂質異常症は全体の5%に満たなかった▽約6割の患者が2つ以上の医療機関から算定されていた─などの現状を考察。
施設基準さえ満たしていれば全初診患者に対して一律に80点が初診料に上乗せされる、いわゆる「体制加算」の「機能強化加算」について、「生活習慣病等の慢性疾患を有する継続的な管理が必要な患者に対象を限定する等、現行の算定要件を見直すべき」と提言した。
このテーマについては、財政制度等審議会で度々取り上げられ、「令和4年度予算の編成等に関する建議」では、「本来は初診患者の中でもより継続的な管理が必要な疾患を有する患者への算定が期待されながらも、算定の実態が全く異なっており、外来機能の分化につながっていないことが指摘されている」と問題提起し、「機能強化加算のゼロベースの見直しは必須である」と強く訴えた。
昨年末の財務相と厚労相の4年度政府予算編成の重要事項に対する折衝で、外来医療の機能分化・連携に向けた、かかりつけ医機能にかかる診療報酬上の措置の実態に即した適切な見直しについて、中医協での議論も踏まえ改革を着実に進めることが合意された。
4年度改定では、「機能強化加算」の算定要件に、▽患者の処方薬を把握し診療録に記載▽専門医師または専門医療機関への紹介▽健康管理にかかる相談─などの対応が可能な旨を院内およびホームページに掲示し、必要に応じて患者に説明することを追加。
施設基準は、「地域包括診療加算2」や「地域包括診療料2」は従来の届出に加え、「直近1年間で算定患者が3人以上」などの実績を満たす要件も求めた。
かかりつけ医を起点とした安全・安心で効率的な外来医療の環境整備を診療報酬で促進する観点から、「調査研究Ⅴ」で提言した「かかりつけ医機能の評価の再構築」に向けて一歩前進した見直しとも言える。
医薬品の保険給付範囲
湿布薬は再度の見直し
健保連は、「調査研究Ⅱ(平成27年9月公表)」で「湿布薬」と「ビタミン剤」、「調査研究Ⅲ(29年9月公表)」で「保湿剤」、「調査研究Ⅳ」で「花粉症治療薬」をテーマとして選定し、医薬品の保険給付範囲のあり方に関する検討を継続して求めてきた。
このうち、「湿布薬」については、▽患者1人あたり湿布薬剤費の高低は、患者よりも施設に起因している傾向がある▽同薬剤費は、地域による特性がある─と分析したうえで、「処方枚数等に一定の上限を設定(湿布薬処方の標準化)することも検討すべき」と提言した。
その後の28年度診療報酬改定では、外来患者に対して1処方につき計70枚を超えて湿布薬を投薬する場合、原則として超過分の薬剤料を算定しない見直しを実施。4年度改定では、上限枚数を「63枚」まで適正化した。
医薬品の保険給付範囲の見直しについては、4年度改定の答申書附帯意見に、「保険給付範囲のあり方に関する議論の状況も把握しつつ、適切な評価のあり方について引き続き検討する」と明記されている。
次回改定における重要テーマの1つとなることも想定され、「調査研究Ⅵ」で選定するテーマにも注目が集まる。