健保ニュース
健保ニュース 2022年2月下旬号
中医協が4年度診療報酬改定案を答申
効率的で効果的な提供体制を構築
入院医療 機能や状態に応じ適正評価
中央社会保険医療協議会(小塩隆士会長)は9日、令和4年度診療報酬改定案を後藤茂之厚生労働相に答申した。重点課題の感染症対応では、外来診療時の感染防止対策にかかる診療所の体制を評価する加算を新設し、平時からの取り組みを促す。効率的で効果的な医療提供体制の構築に向けて、入院医療は急性期・回復期・慢性期それぞれの機能や患者の状態に応じ、適正に評価。有効で安全な不妊治療を提供する観点から医療技術等の評価を新設するほか、一定期間内に処方箋を反復利用できるリフィル処方箋の仕組みも導入する。厚労省は、3月上旬に新たな点数表を告示し、4月から適用する。
医療機能の分化連携を推進
入院医療等の見直しを評価
この日の中医協は、令和4年度診療報酬改定の内容と附帯意見を最終確認し、支払側と診療側の了承を得たうえで、小塩隆士会長から佐藤英道厚生労働副大臣に答申書を手渡した。
支払側は、健保連の松本真人理事が代表して、今回改定を総括した。
新型コロナウイルス感染症の拡大と団塊の世代が75歳に到達し始める前例のない局面において、医療機能の分化・強化と連携の推進による効率的・効果的な医療を実現し、国民・患者の安心・安全を高める観点から議論に臨んだと振り返った。
入院医療では、急性期・回復期・慢性期それぞれの報酬体系において、患者の状態と医療資源の投入量に応じた評価を前進させることができたと言及。
外来医療では、機能強化加算について、「地域でかかりつけ医が担うべき役割が明確になった」と語ったほか、オンライン診療の環境整備やリフィル処方箋の導入は、「患者の利便性が向上し、適切な医療の確保に役立つ」との考えを示した。
個別課題では、医療従事者の働き方改革や不妊治療への対応、ヤングケアラー対策や医療的ケア児への支援など、国や社会問題に対して現段階で取り得る措置を講じることができたとの認識を示したうえで、診療報酬以外の手法も含めた総合的な対応が求められると訴えた。
医療保険制度の持続可能性を向上させる観点からは、後発医薬品やバイオ後続品の使用促進や医薬品の保険給付適正化、経営効率の高い大型チェーン薬局や敷地内薬局の厳格化などが実施されると評価した。
一方で、急性期一般入院基本料における重症度、医療・看護必要度の該当患者割合の基準値や、外来医療の「かかりつけ医機能」に関する診療報酬体系の再構築をはじめ、依然として課題は山積していると問題提起。
また、電子的保健医療情報活用加算や紹介受診重点医療機関入院診療加算の新設、紹介状なし大病院受診時定額負担の見直し、調剤報酬体系の組換え、歯科の基本診療料引き上げなどの影響は不透明であると指摘し、「今後、改定の結果を丁寧に検証すべき」と強調した。
団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年の直前に行われる令和6年度の次回改定に向けては、地域医療構想にもとづく病床再編の進捗や外来医療を巡る様々な検討状況を注視しつつ、答申書附帯意見を踏まえ、さらなる対応について議論する必要があると主張。
今後も国民皆保険制度を維持しつつ、医療の質を高めることは中医協の共通認識との考えを示し、国民、患者や医療関係者が今回改定を前向きに受け止め、適切な受療行動や医療機能が選択されることを期待したほか、保険診療に関する国民、患者への周知・広報を含めた国の支援を要望した。
コロナ禍の無理な厳格化
地域医療提供体制が崩壊
診療側は、城守国斗委員(日本医師会常任理事)が代表して見解を述べた。
前回改定の施行と同時期から拡大した新型コロナウイルス感染症との戦いがひたすら続き、医療関係者や医療機関が疲弊しているなか、診療報酬で新型コロナへの対応策を講じながら様々なやり取りを行い、何とか答申にまで辿り着くことができたと振り返った。
そのうえで、「今まさに第6波において、地域全体でコロナ禍に尽力し、医療現場が疲弊しているなか、無理な厳格化をすると地域の医療提供体制そのものが崩壊し、取り返しのつかないことになる」と主張。
また、「支払側と意見の隔たりが大きく、公益裁定となった項目もあった」と述べたうえで、「改定内容が医療現場に及ぼす影響を把握し、何か問題があれば迅速に対応していくべきことも共有できたのではないか」との認識を示した。
精力的な改定議論に謝意
施行へ告示や通知を整備
佐藤厚生労働副大臣は答申書を受け取った後あいさつし、4年度改定に向けた長期間にわたる精力的な議論に感謝した。
厚労省としても、答申にもとづいて速やかに告示や通知の整備を行い、4月からの施行に向けて万全を期すとした。
また、今回改定による影響の検証や残された課題の検討など、附帯意見に盛り込まれた事項を真摯に受け止め対応していく意向を示した。
最後に、国民皆保険制度を堅持し、国民が望む安心、安全で質の高い医療の実現に向けた指導をお願いした。
小塩会長が締め括り発言
今回改定の3課題を整理
小塩会長は、すべての審議を終えた後、「今回の改定は大きく分けて3つの課題があった」と言及し、ポイントを整理した。
第1に、高齢化の本格的な進展のもとで医療保険制度の効率性と持続可能性をどのように高めるべきかという長期的な課題。
第2は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に診療報酬面でどのように対応するかという極めてリアルタイムな課題。
不妊治療の保険適用やオンライン診療、リフィル処方箋といった新たな改革に対する診療報酬による反映方法を第3の課題に位置づけた。
連立三元方程式をオンラインの議論で解かなくてはならない極めて異例な展開となったとの認識を示したうえで、「制度をより良いものにするというスタンスを全員で共有し、現時点ではベストの解を得ることができた」と感謝した。
4月からは新たな診療報酬・薬価体系に移行するが、「コロナの収束までには時間がかかり、事態は極めて流動的である」と見通し、今回改定の効果を十分検証していくべきとの考えを示した。
他方、今回の改定作業では、診療報酬、薬価そのものを巡る議論のほか、制度や改革の効果を統計データやエビデンスにもとづき検証する必要があること、複雑な制度を国民にわかりやすい形で情報公開を進めることの重要性が指摘されている点も肝に銘じる必要があるとした。
最後に、「制度のさらなる充実をめざし、委員の皆さんには、いっそうの協力、指導をお願いする」と締めくくった。